202話 フィリアとダンス!
皇宮の広間で、皇女とダンスを踊るなんて、少し前までは想像もできなかった。でも、今はフィリアは俺の弟子で、そして、ダンスのパートナーなのだ。
俺はフィリアの手を握り返す。フィリアの手はひんやりと冷たく心地よかった。フィリアは少し頬を赤くして、俺を上目遣いに見た。
「あのね、ソロン。わたし……ダンスってあまり自信がないの。誰もわたしにちゃんと教えてくれたりしなかったし……」
「不安に思わないでください。ちゃんと俺がリードしますよ」
「魔法だけじゃなくて、ダンスも教えてくれる?」
「もちろんです。俺はフィリア様の師匠なのですから、すべての面でフィリア様を導くのが務めですから」
そう言うと、フィリアはとても嬉しそうに目を輝かせた。
「そうだよね。なら、ソロンはもっと別のことも教えてくれる?」
「フィリア様が望むなら、なんだってお教えしますよ」
「なら……男の人との付き合い方とか、キスの仕方とか……恋愛とかも、教えてほしいな」
フィリアは甘えるように俺にしなだれかかった。俺はフィリアの甘い香りにどきりとした。同時に、皇宮の広間で、みんなが見ているという意味でも慌ててしまう。
俺はフィリアの青い瞳を見つめ、そして微笑む。
「そういうのは、師匠ではなく、フィリア様の本当に好きな人に教えてもらってください」
「なら、……例えばの話だけれど、わたしがソロンのことを本当に好きだと言ったら、教えてくれる?」
フィリアは真剣な瞳で、俺にそう問いかけた。俺は、自分の体温が上がるのを感じる。フィリアが……俺のことを師匠として信頼してくれているのはわかる。
俺は平凡だけれど、年上でそれなりには頼りになるとは思う。でも、それと異性として好きということとは別のことのはずだ。
俺が答えられないでいるうちに、ダンスの曲が始まった。イリスと違って、フィリアはたしかに決してダンスが得意なわけではなかった。
けれど、フィリアは……俺の大事な弟子で、俺のことを慕ってくれていて……そんな相手と踊れるのは、単純に嬉しかった。
俺はゆっくりフィリアをリードする。フィリアはおそるおそるといった足取りで、俺についてきた。
フィリアが一人前の魔術師として、何事にも怯えず、何事にも立ち向かえるようにするのが、師匠としての俺の義務だ。
そして、その役目を果たしたとき、フィリアは俺を必要としなくなる。
けれど、今、この瞬間は、フィリアは俺を必要としてくれている。
フィリアの銀色の髪がふわりと揺れる。そして、フィリアはやわらかく微笑んだ。
「きっと……わたしはいつまでも、この瞬間を大事な思い出として覚えているよ」
久々の更新ですが、諸々お知らせです!
①フィリアたちをとても可愛いく描いていただいたコミカライズ版がニコニコ漫画で2話まで更新されています!
③姉弟ラブコメ・ファンタジー『やり直し悪役令嬢は、幼い弟を溺愛します』、4/20から発売中です。『追放された万能魔法剣士』から、聖女ソフィアがゲスト出演しています!






