199話 イヴァン皇子
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俺は驚いて、アルテをまじまじと見つめた。
アルテは「あたしも、可愛いですか?」と俺に尋ねた。
たしかに夜会用に正装したアルテは可愛い。さすがは元侯爵令嬢というべきか、とても品があって美しかった。
けれど……ここで可愛い、と答えたほうが良いんだろうか?
これまでのアルテに、そんなこと言ったら、怒られていたと思うけど……。
迷っているうちに、アルテが顔をさらに赤くして、ぶんぶんと首を横に振った。
「い、いまのは忘れてください……。恥ずかしいから……」
アルテはそう言って目を伏せた。
でも、忘れろと言って、忘れられるものでもない。
アルテの意図はともかく、勇気を出して言った言葉のようだし、もし俺がなにも答えなければアルテに恥ずかしい思いをさせたままだ。
俺はアルテを見つめた。
「よく似合ってると思う」
「それは……」
「可愛い……ってことだよ」
アルテはびくっと震えて、俺をまじまじと見た。
アルテの黒い瞳が俺を見つめて、俺もその目を見つめ返す。
いつしか二人で見つめ合うようになっていて、俺も少し狼狽して、赤面した。
俺とアルテのあいだに割って入ったのは、フィリアだった。
「ソロンとアルテさん……とっても甘い雰囲気になってて、ずるいよ」
フィリアが頬を膨らませて、青い瞳で俺とアルテを見比べる。
俺とアルテは慌てて互いから離れた。
振り返ると、ソフィアが愕然とした顔で「強力なライバルが出現しちゃった……」と小さくつぶやいていた。
アルテはうつむき加減だったけれど、その耳たぶは真っ赤だった。
「べ、べつにわたしはソロン様と甘い雰囲気になんかなってないですし……ソロン様のことなんかぜんぜん好きじゃないんですから!」
「ええと、まあ、アルテが俺のことを嫌いなのはよく知っているよ」
俺が言うと、アルテは首を横に振った。
「い、いえ、べつに嫌いなわけじゃないです。いまのわたしはいまのソロン様のことを……」
「やっぱり、好きなんでしょう?」
とフィリアが言う。
アルテは「違います!」と叫んで、フィリアが「どうかなあ」と疑わしそうに見ていた。
というか、さすがに目立ちすぎだ。
皇女、聖女、元天才魔法少女の三人はただでさえ目立つのに……。
案の定、周りに小さな人だかりができていて、俺たちを眺めている。
その中から一人の青年が進み出た。
皇族特有の緋色の衣装を身にまとっている。
胸元には大きな銀色のブローチがあり、双頭の鷲をかたどっている。
茶色の髪に茶色の瞳。眉目秀麗かつ長身。
存在感のあるその若い男性は、イヴァン皇子だった。
彼は片手を上げて、俺たちに微笑みかけた。
「やあ、君がかの高名な魔法剣士ソロンくんか。一度会ってみたかったよ」
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