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20話 フィリアの秘密

 クラリスは熟睡しているフィリアを微笑みながら眺めていたが、それからぽんと手を打った。

 なにか思い出した、という仕草だ。

 

「そうそう。知っていますか? フィリア様ってソロン様を雇うために、ほとんどのお金を使っちゃったんですよ?」


「え? そうなの?」


「はい。フィリア様に割り当てられた一年分の皇室予算の八割。それがソロン様の年間の給料です」


 ぎょっとして俺はのけぞった。

 ルーシィは割の良い仕事だといって、フィリアの家庭教師の仕事を紹介した。

 たしかに家庭教師としては高めの給料だなあとは感じていたけど、皇女の側仕えともなれば、それぐらいの報酬があってもおかしくないと思っていた。

 

 でも、考えてみれば、これまでフィリア専属の使用人はメイドのクラリスしかいなかったのだ。

 フィリアはたくさんいる皇女の一人に過ぎず、一人の使用人しか割り当てられていないほど冷遇されている。

 なのに、皇帝や政府が、高い給料の家庭教師をフィリアのために雇うはずがない。

 フィリアは自分の意志で、帝室から与えられたなけなしのお金を俺のために使ってくれているらしい。


「さすがにそれは悪いよ。あとでフィリア様に俺の給料を下げていただくようにお願いしておく」


「あ、ええっとですね、そういう意味で言ったんじゃないんです。ただ、フィリア様がソロン様のことを大事にしようとしているってことを言いたくってですね……。だから、そんなふうにソロン様が気を使ったら、フィリア様はかえって悲しみますよ」


「でもなあ」


「それにソロン様ほどの力があれば、もっとお金のもらえる仕事はたくさんあるはずですし、これでも安いぐらいでしょう? 家庭教師だけじゃなくて、護衛も兼ねていますし」


「いや、まあ、それは事実だけど……」


「ともかく、あたしがお金のことを言ったから、給料下げるように頼むなんて、やめてくださいね? フィリア様に怒られちゃいますから」


 クラリスは小声で言った。

 困ったけれど、とりあえずは仕方ない。後でどうするか考えよう。


 それより、気になるのは、どうしてそこまでしてフィリアが俺を雇おうと思ったか、だ。

 もともと、フィリアは「聖ソフィア騎士団の副団長ソロン」みたいな魔法剣士を家庭教師にしようと希望していたらしい。

 ただ、仲介を頼まれたルーシィは、なかなか皇女の気に入る人を見つけられなかった。

 そこへ俺、つまりソロン本人がたまたま現れたから、フィリアに紹介したという流れだ。


 なぜ俺みたいな魔法剣士にフィリアがこだわったのか、俺はその理由をクラリスに尋ねた。

 クラリスは不思議そうな顔をした。


「フィリア様から聞いていないんですか?」


「有名な騎士団で活躍していた英雄、魔法剣士ソロンに憧れていたっていう話なら、聞いたけどね」


「その理由では納得できませんか?」


「そうだね。単なる有名人への憧れって感じじゃなさそうだ。それに、それなら、相手はクレオンでもソフィアでもアルテでも良いはずだ」


「どうでしょうね。あたしは聖女様やクレオン様よりも、ソロン様のことを応援してましたけど」


「それは俺が同じ平民だからだよね?」


「それもありますけど、あたしがソロン様のファンになったのって、フィリア様の影響なんですよね」


「へえ」


 てっきり逆かと思っていた。

 流行が大好きって感じのクラリスが、フィリアに聖ソフィア騎士団の噂話をいろいろとしたのだと思っていた。


 聖ソフィア騎士団の伝説はいろいろと流布していて、二百年誰も攻略できなかった遺跡を解放したとか、伝説の暗黒竜を倒したとか、そういう武勇伝が世間では語られている。


 誇張されている面もあるけれど、ともかくそういう話のおかげで、聖ソフィア騎士団は人気があるのだ。


 ただ、そういう話を間接的に聞いただけでフィリアが俺にこだわるというのも変だ。


「直接会ったこともない俺のことをそんなに信じることができるものかな」


 俺のつぶやきに、クラリスが答えた。


「なら、直接会ったことがあるとすれば?」


「え?」


「ソロン様とフィリア様はきっと昔、会ったことがあるんですよ」


 クラリスはにっこりと笑った。

 俺はその意味を考えた。

 俺がフィリアに会ったことがある?

 魔法学校の生徒だったころに、あるいは騎士団を作った後に、俺が皇女に会う機会なんてあっただろうか。

 そんなわけない、と思うけれど。

 クラリスはなにか知っていそうな感じだった。

 

 俺がクラリスに尋ねようと口を開きかけたら、クラリスは人差し指を俺の唇に当てた。

 柔らかい感触に俺は思わず赤面する。

 

「えっと、クラリスさん?」


「これ以上のことは、フィリア様から直接聞いてくださいね。さあ、お仕事に戻らないと!」

 

 そう言うと、クラリスは一瞬で部屋から姿を消した。

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