2話 聖騎士と魔法剣士
騎士団幹部たちは俺を無能だと言って追放するらしい。
なるほど。彼らの言葉にも一理ある。
俺は戦闘面では騎士団の役に立てていない。
けれど。
「なあ、誰がこの騎士団をここまで育て上げたと思ってる? クレオンじゃないよね。俺が騎士団に強いメンバーを集めて、資金を集め、最適な攻略対象を調査してきた。だから、今の騎士団が帝国最強と呼ばれているんだ」
「そんなふうに恥ずかしげもなく自画自賛できるんですね、先輩は」
アルテが蔑むように言った。俺はクレオンを見据えた。
「事実だからだ。そうだろう、クレオン?」
「ああ、ソロンの言うとおりだろうな。これまでのソロンの貢献には感謝している。だけど創設メンバーだからって特別扱いするつもりはない」
「これからだって、俺なしではこの騎士団はやってけないはずだよ」
「違うさ。ソロンなしでも大丈夫だ。団長のソフィアと新しい副団長の僕、そしてアルテたちで協力すれば、問題はすべて解決だ。だから君は追い出されるんだ」
「俺にはそうは思えないけどね」
「君はそう思っても、僕たちは君を必要ないと判断した。それは間違いない」
俺とクレオンはしばらく睨み合った。やがて俺はため息をついた。
「追い出されるのは別にいい。だけど、事前に俺に一言、相談してくれても良かったじゃないか」
俺のささやかな抗議には、誰も答えなかった。
幹部の大男、ガレルスが席を立った。彼は騎士団の防御の要だ。そして、ガレルスは伯爵家の生まれで、平民出身の俺を事あるごとに見下していた。
ガレルスは俺を蔑むように見て、そして部屋から出ていった。
それを合図に、アルテたち幹部はみんな黙って、部屋から退出した。
後に残されたのは俺とクレオンだけだ。
クレオンは立ったまま、俺を見下ろしていた。
俺は立ち上がり、クレオンに右手を差し出した。
クレオンが怪訝そうな顔をする。
俺は言った。
「別れの握手だよ」
「ソロン、もう僕と君は仲間じゃない」
「だから握手もできないって? なら言い方を変えよう。魔法学校以来の長い付き合いだ。最後ぐらい、友好的に別れようよ」
クレオンは少しためらった後、黙って俺の手を握り返した。
「君は変わらないな、ソロン」
「そういうおまえは強くなったな、クレオン」
「昔の僕は弱かったからな」
クレオンは目をそらして、ため息をついた。
「だけど今は僕のほうが優れた冒険者だ。これから僕たちは今までより強大な敵が支配する地下遺跡へと向かう」
「成功を祈ってるよ」
「ああ。僕たち騎士団なら、きっとできる」
「ソフィアのことだけが心配だな」
「君が心配することじゃない」
俺は肩をすくめた。
聖女ソフィアも、クレオンと同じく、俺とは魔法学校時代以来の友人だ。
ソフィアは帝国侯爵の娘で、一方の俺は貴族の使用人の息子。
本来なら身分がぜんぜん違うのだけれど、同じ魔法学校にいるかぎり、貴族も平民も平等だ。
それに学校を卒業した頃は、俺はそれなりに頼りになったと思う。ソフィアは飛び級で首席の天才だったが、逆に言えば俺より五歳も年下だし、しかも病弱だった。世間知らずで実戦にも弱かった。
だから、ソフィアは事あるごとに「ソロンくんがいないとダメなの」と言って、俺を頼ってくれていた。
ところが、聖女となったソフィアは、俺なんか足元にも及ばないほど優秀になった。十分に強い仲間もいる。おまけに俺と違って、彼らはみな貴族。
一方の俺はたいして能力も成長しなかった。貴族と平民の才能の差なのかもしれない。
「なあ、クレオン。ソフィアは俺の追放に賛成しているの?」
「言っただろう。幹部全員で決めたことだって。ソフィアも賛成しているよ。会って確認してくるか?」
俺は首を横に振った。
俺はソフィアからも、もう必要とされていないということなんだろう。
それに、ソフィアがこの場にいないということは、俺に追放を言い渡すのがつらいということなのかもしれない。
それなら、ソフィアに会えば、気まずい思いをさせるだけだ。
「一応言っておくが、ソフィアは君のためを思って、パーティーから外すことに賛成したんだ」
「俺のため?」
「これから僕たちの敵はもっと強くなる。だから、君が怪我をしたり、死んでしまったりするかもしれない。ソフィアはそれが心配ということだ」
「なるほどね」
パーティー結成してまもない頃に、そういうことがあった。
実力不足の少女を仲間にして、そのせいでその子を失った。
俺もソフィアもクレオンも、二度と同じ間違いをしないように気をつかってきた。
クレオンが言う。
「ソロン。これからはソフィアを守るのは君じゃない。公私ともに僕の役目だ」
「公私ともにって、それって……」
「僕とソフィアは婚約したんだよ」
俺は少し驚き、それから納得した。
前から、クレオンとソフィアが付き合っているという噂は騎士団内部でも町でも流れていた。
そういうことがあるのなら、二人のどちらかから俺に打ち明けてくれるだろうと思って聞き流していたけれど、どうやら事実だったようだ。
追放のことといい、二人が付き合っていたことといい、俺はいつでも除け者にされていたということなんだろう。
「おめでとう」
俺はそれだけ言って、立ち上がった。
クレオンもソフィアも天才肌の実力者。家柄も良いし、美男美女でもある。
お似合いだ。
俺は自分の部屋に戻って荷物をまとめた。
仮にも創設以来の団員である俺には、騎士団からかなりの財産が分与されるということになる。
騎士団員時代に蓄えた金も、帝都の商会の出資金にしてあるけれど多額にのぼる。
だから、金に困るということはない。
けれど、金はあっても共に戦う仲間はいない。目標もない。
ソフィアはもう俺を必要としていない。
これから、俺はどうすればいい?
俺は深呼吸をした。
これから考えればいいさ。
しばらくは一人で楽しくのんびり暮らしたい。
それなら行き先は帝都にするのが良さそうだ。あそこはあらゆる種類の職がある。
きっとなにかいい選択肢があると思う。
俺は帝国最強の騎士団の副団長なんかじゃない。
ただの普通の魔法剣士ソロンとして、出発だ。
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