198話 あたしも、可愛いですか?
俺は困惑していた。
皇宮なんて、もう縁もないと思っていたのに。
今夜、俺は皇宮別館の大ホールにいた。
大きなシャンデリアが輝く空間には、たくさんの高位の貴族たちが集まっている。
第八王子イヴァン主催の舞踏会に俺たちは招待されていた。
男性は正装の燕尾服を着る必要があるから、俺もそれを身にまとっている。、
女性はイブニングドレス……夜会用の正装だ。つまりキャミソールのような袖なしのドレスで、背中や胸も大胆に露出している。
つまり、フィリアたちもそういう格好ということだ。俺たちは会場の隅にいて、俺、フィリア、ソフィア、そして「俺の奴隷」アルテの四人で来ていた。
イヴァン皇子は、フィリアだけでなく、俺を宛名にして招待状を送ってきた。そして、そこには、アルテも連れてくるように、と書かれていた。
意図はわからないので、俺は警戒していた。でも、ともかく舞踏会自体はごくごく普通に進んでいる。
俺はちらりとフィリアを見る。
いつもと同じで色は青だけど、露出度がだいぶ高いドレスだ。
普通はイブニングドレスだとスカート丈も長めのはずだけれど、あえて膝よりも短めにしている。
フィリアはスカートの裾をつまみ、くすっと微笑んだ。
「ソロン……どう?」
「よく似合っていると思いますよ」
と俺は言う。
それは本心だった。いつもよりもずっと女の子らしい感じがする。
けれど、フィリアは頬を膨らませた。
「……心がこもっていない気がする」
「本当にそう思っていますよ」
「ありがとう。でも……もっと……別の言葉がほしいな」
フィリアはくるりと優雅に一周してみせる。
ドレスのスカート部分の裾が波を打ち、白いフリルがふわりと揺れる。
丈が短いから、ちらりとフィリアの白い足が見えて、俺は思わず赤面する。
フィリアはしてやったり、というふうに、いたずらっぽく青い瞳を輝かせる。
「ソロン……照れてる?」
「……照れてません!」
フィリアはぐいっと身を乗り出して、その小柄な体を俺に寄せる。
そうすると、フィリアの小さな胸が俺に軽く触れる。
「ふぃ、フィリア様……!」
「やっぱり、照れてる!」
「皇族や貴族の方も大勢いるのに、誤解されたらどうなるか……」
「わたしは誤解されてもいいんだよ? ううん、誤解じゃなくしちゃいたいかも」
フィリアはくすくすと笑っていたけど、その頬は赤かった。
フィリアはずっと年下の弟子なのに、俺はいつも振り回されている気がする。でも、そんな関係が心地よかった。
でも、俺はそんなことは言わずに、困ったような笑みを浮かべる。
「あまりからかわないでください」
「はーい」
フィリアは上機嫌に言い、また、くるりと一回転してみせた。
ソフィアやアルテも、珍しくドレス姿だった。まあ、舞踏会で、いつもみたいな修道服や魔導服を着ているわけにもいかないし、当然だ。
ソフィアは俺とフィリアを翡翠色の瞳でじーっと見つめていた。
フィリアは微笑み、ソフィアを見つめ返す。
「ソフィアさん、わたしのことが羨ましい?」
「ど、どうしてわたしが殿下のことを羨ましがるんですか!?」
「だって、ソロンの視線はわたしに釘付けだもの」
「そんなことありません! ……ね、ソロンくん……わたしも……その……可愛いよね?」
その言葉につられて、俺はソフィアの姿を見た。
ソフィアも同じようにイブニングドレス姿で、その色は真っ白だった。
いつもみたいに帽子をかぶっていないから、流れるような美しい金色の髪が、すべてさらされていて、とても印象的だ。
胸も上半分のほとんどが露出していて、その肌色がまぶしい。
露出度が高いのは、フィリアと同じといえば同じなのだけれど、フィリアは14歳なのに対して、ソフィアは18歳で体つきももうかなり女性らしい。
だから、その……。
フィリアにつんつんと、横からつつかれ、はっと我に返る。
「ソロン……ソフィアさんのこと、いやらしい目で見てた?」
「み、見てません……」
「ふうん……どうかなあ」
疑わしそうに、フィリアが上目遣いに俺を見つめる。
一方のソフィアは顔を赤くして、「ソロンくんがわたしのことを……そういう目で……見てたんだ」と小声でつぶやいている。
いきなり、ぎゅっとフィリアが俺の右腕をつかむ。まるで大事なものを抱えるように、両手で。
そうすると、フィリアは俺の右腕を抱きしめるような感じになり……その小さな胸が俺の腕にあたる。
ちょっと……恥ずかしい。
フィリアはそんなことお構いなしに、ソフィアを睨んでいた。
「今日のソロンのパートナーはわたしだもの。ソフィアさんには渡さないんだから!」
「そ、ソロンくんのパートナーはわたしです!」
舞踏会ということで、男女一組で参加してダンスするわけで、自然とパートナーが必要となる。
俺とフィリアが招待されているのだから、二人でパートナーとして組むのが自然だ。
でも、ソフィアがそれに待ったをかけた。
ソフィアはどうしても舞踏会に参加すると言い、珍しく頑固に意見を変えなかった。ソフィアは侯爵令嬢だし、俺のパートナーとしてなら、舞踏会に参加する資格がある。
だから、俺はフィリアとソフィアの両方をパートナーとして連れてきたわけだけだ。
ソフィア自身は、俺とフィリアが危険な目にあわないように護衛するのだと言っていたけれど……。
「ソフィアさんは、ソロンとイチャイチャしたいだけでしょう?」
「ち、違います! そういう殿下こそ、ソロンくんとそんなにくっついて、そ、その……胸を当てたりなんてはしたないです!」
「だって、わたしは正式に招待されたソロンのパートナーだもの」
そう言って、フィリアはますますぎゅっと俺にしがみついた。
ソフィアは「ううっ」と涙目になって、いきなり俺の左腕に抱きついた。フィリアとまったく同じ格好で。
そうすると、ソフィアの胸が俺の腕に押し当てられて、しかもかなり柔らかくて大きな質感があって。
一方のフィリアの小さな胸も俺に押し当てられたままで。
俺はくらりとした。
ソフィアは翡翠色の瞳で、俺を上目遣いに見つめる。
「殿下より……わたしののほうが、その……いいよね?」
「わたしは成長途中なんだもの! いつかソフィアさんより大きくなるんだから!」
フィリアとソフィアの二人の美少女に迫られ、俺は冷や汗をながし、やっと口にしたのは……。
「二人とも……みんな見てるし、恥ずかしいからやめよう……」
見回すと、周りの招待客たちがくすくす笑っている。
フィリアもソフィアも顔を赤くして、でも、俺にぎゅっとしがみついたままだった。
きっとアルテも呆れているだろうなあ、と思ってみると、アルテは俺たちをぼーっと見つめていた。
アルテもドレス姿だけれど、その格好はずいぶんと控えめだった。露出度も低く、腕も足も胸も背中も、布で覆われている。
真っ黒な、地味なドレスだ。
けれど、それはそれで上品な感じがして悪くない。
俺と目が合うと、アルテは勇気を振り絞るように、おずおずと小さな声で言う。
「あの……ソロン先輩。ううん、ソロン様。……あたしも、可愛いですか?」
アルテは顔を真っ赤にして、黒い綺麗な瞳で、恥ずかしそうに俺を見つめた。
☆あとがき☆
フィリア、ソフィア、そしてアルテが可愛いという方は……
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