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追放された万能魔法剣士は、皇女殿下の師匠となる漫画4巻が2025/1/15から発売中  作者: 軽井広@北欧美少女2&キミの理想のメイドになる!
第二章

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19話 ソロンとフィリアとクラリスの平和な日常

 俺は皇宮の窓からうっすら朝日が指すのを見てから、もう一度ベッドのなかに倒れ込んだ。

 まだ早朝だし二度寝しても罰は当たらないはずだ。

 さすが皇宮の部屋にある高級ベッド。とても寝心地がいい。


 この部屋には俺が魔術的な結界を張っておいた。その結界は俺の身体と連動していて、敵の襲撃があればすぐにわかるようになっている。

 だから、ある程度は安心して寝られる。


 俺はあくびをした。

 聖ソフィア騎士団の副団長だなんて呼ばれていた頃には、俺もけっこう忙しかったと思う。

 こんなふうに二度寝なんてできなかったし、早朝に起きて深夜まで働いていた。


 なにせ騎士団の裏方的な仕事はすべて俺に集中していた上に、戦闘には出ずっぱりだったのだ。

 まあ、騎士団にいた頃の後半は、周りのほうが強くなっていたから遺跡攻略に行く機会自体は減った。

 けれど、代わりに大所帯となった騎士団の運営に忙殺されていた。幹部はみんな貴族で、程度の差はあれ世間知らずが多かったから、事務や調整を任せるわけにもいかなかった。


 騎士団を追放されたおかげで、俺もそういう雑務の面倒からは解放されたとも言える。

 いま幹部の誰が俺の代わりをしているのかは知らないけれど、うまくやれていることを祈るばかりだ。


 フィリアは隣のベッドで寝ていた。

 その横顔を、俺はちらりと眺めた。

 何の心配もないかのように、フィリアは気持ち良さそうに眠っていた。

 幼さは残るけれど、本当に綺麗な子だと思う。

 それに優しい子だ。


 フィリアは薄い生地の可愛らしい寝間着を着ていた。

 その胸元が少しはだけて、薄い胸がちらりと見えている。

 俺は慌てて目をそらした。

 

 女の子と一緒の部屋で寝起きするというのは、やっぱり困るなあと思う。

 ともかく、俺ももう一眠りしよう。

 と思ったら、部屋の扉が思い切り開け放たれた。

 

「フィリア様! それにソロン様♪ おはようございます」


 メイドのクラリスが楽しそうに言うと、俺やフィリアの返事も待たずに、部屋のなかに飛び込んだ。

 俺は慌てて飛び起きて、時計を確認した。

 まだ午前六時。

 起きる必要のある時間じゃないはずだ。

 けれど、クラリスは言った。


「二人とも寝坊はダメですよー? 恥ずかしいかもしれないですけど、ソロン様がフィリア様を起こして差し上げてくださいね?」


「えっと、クラリスさん。いまって何時?」


「何時って、七時半ですよね?」


 俺とクラリスは一緒になって時計を覗き込んだ。

 どうもクラリスの時計が壊れていたみたいだ。

 クラリスは顔を赤くした。


「ごめんなさい。まだ六時だったんですね。はやく起こし過ぎちゃいました」


「気にしないでいいよ。俺も半分ぐらいはもう目を覚ましていたし」


 そして俺は隣のフィリアの様子を確認した。

 フィリアはぐっすりと眠っていて、微動もしなかった。

 俺とクラリスは顔を見合わせて、くすくすと笑った。

 それからクラリスはフィリアの顔を覗き込み、慈しむようにそっとその髪を撫でた。


「幸せそうな寝顔」


 とクラリスはつぶやいた。

 俺もうなずく。


「そうだね」


「フィリア様、いつも一人だとゆっくり眠れていなかったみたいですから。これでもフィリア様はけっこう怖がりですし」


「クラリスさんが一緒にいてあげればいいんじゃない?」


「ダメですよ。あたしじゃフィリア様が襲われても助ける力がないですし」


「まあ、それはそうか」


「それに、メイドはメイド用の四人部屋で寝ないといけない決まりなんです。あたしたち、朝早くから仕事ですし、身分も違いますから」


「身分、ね」


 身分という意味では、いくら家庭教師兼侍従として貴族待遇を受けてるといっても、俺も平民だ。

 男である俺とフィリアが一緒に寝ているほうが、よっぽど非常識な気もするし、不安な気もする。

 クラリスはくすくすっと笑った。

 

「フィリア様がいくら可愛くっても手を出したりしたらダメですよ?」


「そんなことしないよ。フィリア様は14歳だし、俺よりずっと年下だ」


「なら、あたしぐらいの年齢なら手を出しますか?」


 からかうようにクラリスが言う。

 クラリスは17歳だそうで、フィリアよりはずっと俺と年が近いとはいえ、年下には変わらない。

 けっこう可愛いとは思うけど。

 なんだかいけないことを想像している気分になってきて、俺はわざと投げやりな口調で言った。


「手を出すもなにも、クラリスさんはこの部屋で一緒に寝ているわけじゃないし」


「それじゃあ、夜中にこっそりソロン様のベッドに忍びこみますね!」


「それはやめてくれると助かるなあ」


 俺がそう言うと、クラリスは楽しそうに目を細めた。

 なんとなく、クラリスなら本当にやりかねないような気がする。

 クラリスは俺のベッドに腰掛けて、俺の右手を両手で包み込んだ。

 それから上目遣いに俺を見た。


「なんなら、今でもいいんですよ?」


「質の悪い冗談はそのへんにしといたほうがいいと思うよ」


「ソロン様。顔が真っ赤です」

 

 誰のせいだと思っているのか。

 と俺は抗議しようと思ったけれど、クラリスが楽しそうにくすくす笑っているので、やめにした。

 まあ、早朝の暇な時間をクラリスの冗談に付き合って潰すというのも悪くないか。


「こんなところ、フィリア様に見られたら怒られちゃいますね」 


 何もやましいことはないけれど、誤解されかねないかなあとは思う。

 俺とクラリスはふたたび顔を見合わせ、それからフィリアの様子をうかがった。

 フィリアは相変わらず夢の中のようだったけれど、「ソロン」と小さく寝言をつぶやいていた。

 クラリスは優しい表情になり、俺に向かって言った。


「ソロン様と一緒だからこそ、フィリア様はこんなに安心して眠れているんですよ」


 それなら、俺もここにいる甲斐があるというものだと思う。

 騎士団にいたときとは違って、俺は必要とされているんだなと感じる。

 そうだとすれば、ここは騎士団よりずっと良い居場所だ。

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