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追放された万能魔法剣士は、皇女殿下の師匠となる漫画4巻が2025/1/15から発売中  作者: 軽井広@北欧美少女2&キミの理想のメイドになる!
第七章

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182話 教会の敵

「私をこの牢獄から救ってくれる?」


 帝国教会の総大司教ヘスティア聖下はそう言った。

 どういう意味だろう?


 ここは帝国教会の総本部で、牢獄どころか、ヘスティア聖下を崇拝する人々が集まった場所だ。

 俺はソフィアをちらりと見たが、ソフィアは黙然としていた。


「ここが牢獄、ですか?」


 俺の問いかけにヘスティア聖下はくすりと笑った。

 そして、水色の美しい髪を手で軽く払う。

 

「……あなたにはわかる? 子どもの頃からずっとこんな塔に閉じ込められて、大聖女だなんて崇め奉られて、恋の一つもできない女の子の気持ち」


「私は平民出身のしがない冒険者です。わかる、とお答えすれば嘘になりましょう」


「そうね。私の気持ちは誰にもわからない。ここは私にとっての牢獄なの。大聖女の私は……一生ここから出ることを許されない」


 ヘスティア聖下は、この大聖堂から常に帝国を守護している。

 闇に潜む魔族の力を抑止するには必要なことだともいうが、詳細は帝国教会の機密として明かされていない。

 確かなのは、教義上、ヘスティア聖下は大聖堂から一歩も出られないということだった。


 彼女は深い赤色の瞳で俺をまっすぐに見つめた。

 

「あなたがソロンさんよね?」


「はい。本日はお目通りの機会をいただき光栄です。聖下」


「そんなにかしこまらなくてもいいわ。それに、ソロンさんのことはよく知っているの」


「私のことをご存知なのですか?」


「だって、ソフィアはいつもあなたの話ばかりするから。優しくてカッコよくて強い人なんだって」


 ソフィアは「あ、あの……」とつぶやき、おろおろしていた。


 ソフィアとヘスティア聖下は数年来の知り合いで、しかもヘスティア聖下はソフィアの師匠みたいなものだ。

 たしかに、俺の話を聞いていてもおかしくはない。


 ヘスティア聖下は赤色の瞳をいたずらっぽく輝かせていた。


「ソフィア、顔が真っ赤ね」


「そんなことないです……」


 そう言いつつも、ソフィアの頬はたしかに赤かった。

 聖下はかろやかな足取りで俺たちに近づき、正面に立った。


「私は帝国教会総大司教ヘスティア。帝国七聖女の序列第一位にして、史上三人目の大聖女。神に代わり、あなたがたに祝福を」


 その瞬間、ヘスティア聖下の手が光に包まれ、恐るべき量の魔力の奔流が発生した。

 幸運を授けるという、教会の古い魔法だ。


 ヘスティア聖下はやがて魔法の行使を止め、俺とソフィアを見比べた。


「それで、ソフィアとソロンさんは何の用事? 結婚式の相談なら、この大聖堂を貸してあげてもいいけど。私も出席したいし」


「け、結婚式……」


 とソフィアがつぶやいて顔をますます赤くし、そして首をふるふると横に振った。


「だって、駆け落ちして同じ家に住んでいるんでしょ? そろそろ結婚するのかなあなんて思っていたのだけれど……」


「ち、違います」


 ソフィアとヘスティア聖下のやり取りに割って入ったのが、フィリアだった。

 少し頬を膨らませて、不満そうだった。


「ソロンはわたしの家庭教師だもの。ソフィアさんと結婚したりしないよ?」


「あら、あなたは……?」


「わたしは魔術師見習いのフィリア。ソロンの弟子なの」


「皇女フィリア殿下、ね」


 帝国教会の総大司教は、皇族と同等の待遇を受けている。

 形式的にはフィリアと対等の地位だし、実質的にはフィリアよりも立場は上だ。


 だが、フィリアもヘスティア聖下も、どちらもそんなことは気にしていないようだった。

 ヘスティア聖下はすっと目を細めた。


「知ってる? 帝国教会は魔族と悪魔の存在を許していない。本来は殲滅すべき存在なの。そして、フィリア殿下は……悪魔の娘なのよね」


 フィリアがびくっと震えた。ソフィアも顔を青くしている。

 どうしてヘスティア聖下がフィリアの正体を知っている?

 悪魔の娘であるフィリアは、たしかに教会の敵だ。そしてヘスティア聖下は教会の最高責任者。

 なら、フィリアに危害を加えようとしてもおかしくない。


 俺は慌ててフィリアの前に立ちはだかった。


「フィリア様をどうするつもりですか?」


「どうすると思う?」


 ヘスティア聖下は美しい白い手を振りかざし……。

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