181話 私をこの牢獄から救ってくれる?
帝都の救世主大聖堂。
それは広大な帝国で最も信じられている宗教の総本部だ。
その白い塔は、金色の装飾に彩られている。
ルーシィ先生はここに囚われていて、救出作戦のときに強行突破した。
日を置かずして、またここに来るとは思わなかった。
「なんとなく、周囲の目が冷たい気が……」
「だって、わたしたちお尋ね者だったんだもの」
さらりとフィリアが言い、くすっと笑う。
俺、フィリア、そしてソフィアは、アルテの体を治す方法を知るため、この教会を訪れていた。
建物のなかでもソフィアはおどおどとしていた。。
「クレアさんと軍情報局のおかげで、わたしたちには何の処罰もなかったけど……でも……教会を襲ったことは間違いないし……」
ソフィアは帝国教会に選ばれた聖女だから、なおさら罪悪感があるのだろう。
これから会いに行くのは、帝国教会の最高責任者、総大司教ヘスティア聖下だ。そのヘスティア聖下とも、ソフィアは知り合いらしい。
ソフィアは魔法学校を首席の成績で卒業しているが、同時に帝国教会で教会式魔術を身に着けてもいる。
「わたしが魔法学校の三年生のときにね。聖女候補に推薦されたでしょう? そのあとに、帝国教会で教会式魔術を教えてくれたのが……」
「ヘスティア聖下だったんだよね」
史上三人目の大聖女であるヘスティア聖下は、最も優れた治癒魔法の使い手だ。
彼女なら、アルテを治す方法を知っているかもしれない。
「問題は……ヘスティア聖下がクレオンくんの味方かもしれない、ということだよね」
ソフィアの言葉に俺はうなずく。
ネクロポリス攻略作戦にヘスティア聖下は賛同し、様々な協力を行っていた。
ルーシィの幽閉にも関わっていた可能性だって否定できない。
そのヘスティア聖下がアルテの治癒に力を貸してくれるかどうか。
不安な表情を浮かべた俺とソフィアに対し、フィリアの足取りは軽かった。
「心配したって仕方ないよ。それに、ヘスティア聖下はすごく優しい方なんでしょ?」
「はい。……たしかに、そうですけど……」
「なら、きっと大丈夫!」
フィリアの言うとおりで、会う前から心配しても仕方がない。
俺がどれだけ上手く交渉できるかにかかっている。
それにヘスティア聖下に頼みたいことは、アルテの件以外にもある。
護衛の騎士に案内され、俺たちはヘスティア聖下の執務室へと案内された。
相手は帝国の要人だ。ソフィアとフィリアの存在がなければ、俺なんてとても会うことはできなかったと思う。
そう考えると緊張する。
部屋に入った時、一人の女性が窓の外を眺めていた。
後ろ姿だけだが、その装飾を尽くした白い祭服からすると、ヘスティア聖下なんだろう。
そして、彼女はくるりと俺たちを振り返り、微笑んだ。
淡い水色のロングヘアがふわりと揺れる。
ヘスティア聖下は若い女性で、俺と同い年だと聞いている。
すらりとした長身も、端正な顔も、透き通るような肌も、人間離れした完璧な美しさを誇っていた。
ヘスティア聖下には、人間以外の血が混じっている、という噂がある。
仮にそのとおりなら、人間至上主義の帝国教会の総大司教になれるわけがないので、俺はその噂を信じていなかった。
だが、そういう噂が出るのは理解できる。
異国のエルフの血を引いているのではないかと思うほど、ヘスティア聖下は美しかった。
ヘスティア聖下は、吸い込まれるような暗い赤色の瞳で、俺を見つめた。
「私をこの牢獄から救ってくれる?」
綺麗な声で、ヘスティア聖下はそう言った
◇あとがき◇
新キャラです!
面白い、続きが気になる、という方は
・ブックマーク
・☆☆☆☆☆のボタン
・感想
で応援いただければ嬉しいです!






