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172話 ソロンはわたしの恋人ではないもの

「フィリア様……そろそろ機嫌を直してくださいよ」


「わたし、別に怒っていないもの」


「いえ……どう見ても怒っていると思うのですが」


 俺は困惑してフィリアを見つめ、フィリアも青い瞳で俺を見つめ返した。

 ここは俺たちの屋敷の書斎で、いつも俺がフィリアに魔術を教えている場所だ。

 フィリアは椅子に座っていて、俺はその正面で立っている。


 ちょうどフィリアを俺が見下ろしていて、フィリアが俺を見上げている形になる。


 フィリアが不機嫌なのは、俺がルーシィやクレアとキスしてからだ。

 

 ルーシィ救出作戦を終えて、屋敷も平穏を取り戻した。

 事件で変わったことは、ルーシィがいなくなって、代わりにその姪のルシルが屋敷に住むようになったこと。

 

 他の住人は今までどおり。つまり、皇女フィリア、メイドのクラリス、聖女ソフィア、白魔道士の少女リサ、かつての俺の仲間の女性ライレンレミリア、そして、元女賢者のアルテとフローラの双子の姉妹だ。


「女の子ばっかりだよね」


「……たまたまです」


「ふうん。でも、本当はみんなと、ルーシィやクラリスさんとしたようなことをするつもりなんじゃないの?」


「それはつまり……」


「……キスしたり、とか」


 フィリアは顔を赤くして、俺を上目遣いに見た。

 ルーシィやクレアとキスをした、というのは本当だけれど、でも、それは俺からしたわけじゃない。

 といっても、フィリアにとっては言い訳にしか聞こえないだろう。


「……わたしには手の甲とかほっぺたとかにしか、キスしてくれたことがないのに」


「ええと、フィリア様は俺の弟子ですから」

 

 弟子、しかも皇女の唇にキスなんてできるわけがない。

 けれど、フィリアはますます不機嫌そうに頬を膨らませた。


「そうだよね。わたしとソロンはただの弟子と師匠で、恋人ってわけじゃないものね」


 俺はどうしようかと悩んだ。

 フィリアをこの書斎に呼んだのは、今後の魔術の授業について、説明するためだった。

 ところがルーシィとクレアとキスしたことを問い詰められ、話が進まずにいる。


「ソロンはルーシィやクレアさんのこと、好きなの?」


「師匠や友人としては大事ですよ」


 ただ、ルーシィやクレアが俺に求めるような意味で、俺が二人のことを好きなのかといえばわからなかった。


 二人とも返事はいらないと言ってに帝都から遠くへと旅立ってしまった。

 

「フィリア様……そろそろ授業をしましょう」


「誤魔化すんだ?」


「少なくとも、俺にとって大切なのは、フィリア様の家庭教師だということなんですよ」


 俺は小さな声で言った。

 フィリアはきょとんとし、それからころりと表情を変えて嬉しそうに笑った。


「そっか……そうだよね。ソロンのそばにいるのは、わたしなんだもの」


「はい。フィリア様をお守りし、そして一流の魔術師にするとお約束しましたからね」

 

「うんうん。そうだよね。ソロンはわたしだけの師匠だもの。それで、何を教えてくれるの?」


「ああ、まずは……」


「キスの仕方とか?」


「……教えませんよ?」


「残念」


 フィリアはリンゴの木の杖をくるりと回転させた。

 そして、いたずらっぽく目を輝かせると、急に立ち上がって、俺に顔を近づけた。


 どきりと俺はする。

 フィリアの小さな唇が、すぐ目の前にあった。

 フィリアはささやく。


「ソロンが教えてくれるのを、わたし、待っているのに」

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