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追放された万能魔法剣士は、皇女殿下の師匠となる漫画4巻が2025/1/15から発売中  作者: 軽井広@北欧美少女2&キミの理想のメイドになる!
第六章

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131話 クレア少尉の真の目的

 俺の宝剣とクレアの水晶剣が交わり、激しく火花を散らした。


 ネクロポリスでは、水晶剣を持ったフローラは一瞬で騎士団幹部の双剣士カレリアを制圧していた。

 そのぐらいの力のある武器なのだ。


 ただ、クレアはフローラと違って魔術師ではない。

 そこに勝機があるかもしれない。


 クレアはさっと飛び退ると、「このわたしに力を!」とつぶやくように詠唱した。

 水晶剣が光り始める。


 まずい。

 水晶剣の魔力で波動攻撃を撃つつもりなのだ。


「ルーシィ先生はフィリア様を守ってください!」


「え、ええ!」


 ルーシィの上ずった声が背後から聞こえてくる。

 自由同盟の計画が露見したせいか、ルーシィは完全に動揺しているようだし、杖も持っていない。


 ルーシィが万全の状態であればクレアを倒せる確率は高まったと思うが、今のところ俺の力でなんとかしないといけない。


 俺が前へと踏み込むの同時に、水晶剣から魔法の光が放たれる。

 宝剣テトラコルドをかざして、俺はそれを受けきった。


 そして、宝剣を構え直す。

 対するクレアも一切の隙を見せていない。


 クレアはかつては幼く儚げな雰囲気の少女だった。

 けれど、今のクレアは軍の正式な将校で、鍛錬を積んだ剣士となっていた。


「クレアは俺たちを助けに来たといった。でも、どうしてルーシィ先生を逮捕しようとすることが、俺たちを助けることになる?」


 俺は剣を手にとりながらも、クレアに問いかけた。

 会話の内容次第では、勝つための手がかりを得られるかもしれない。


「もちろんルーシィ先生が、ソロンさんとフィリア殿下を利用しようとしているからですよ」


「違う! わたしは二人を利用しようとなんかいない……!」


 ルーシィの言葉に、クレアは呆れたように肩をすくめた。


「無自覚というのは恐ろしいですね。自分の理想のために、弟子と従妹を巻き込んで、二人を危険にさらしているという自覚がないんですか?」


「……私はソロンとフィリアのことをいつも想っているの」


 ルーシィはふたたび手を前へとかざし、炎の渦を形作る。


 こ

のままルーシィが攻撃を繰り出しても、水晶剣の力で防がれるだけだ。

 けれど俺がうまいこと攻撃を重ねれば、クレアも回避が不可能となるかもしれない。


「ルーシィ先生!」


 俺が声をかけると、ルーシィは「わかったわ、ソロン!」とうなずいた。

 成功させられるかどうかは、俺とルーシィがどれだけ息を合わせられるかにかかっている。

 ルーシィの後ろにいるフィリアが「わたしとルーシィに勝利を、ソロン」と祈るようにつぶやいていた。


 俺はうなずき返し、宝剣をかざして前へ突き進んだ。

 同時にルーシィの手のひらから炎の球体が次々と放たれる。


 ちょうどぴったり同じときに、俺とルーシィの攻撃がクレアを襲う。


 クレアは水晶剣で俺の宝剣を受け止めたけれど、そのせいでルーシィの放った炎魔法を剣で消すことができなかった。


 クレアはぴょんと横に跳んで難を逃れようとしたが、炎魔法の一撃がクレアの身体を捉えた。

 軍服の腰のあたりを炎が燃やし、クレアが甲高い悲鳴を上げた。


 クレアはかろうじて体勢を立て直したものの、今の攻撃でかなり消耗したのは明らかだった。


「ひどいじゃないですか……。わたしが怪我をしても、ソロンさんは平気なんですか?」


 クレアは弱々しく微笑み、寂しげに俺を見つめた。

 俺としてもクレアが傷を負うのは心が痛む。


 けれど、今の俺はクレアを倒さなければならない。

 もとはといえば、クレアのほうがこの屋敷を襲撃したのだから。


「昔はあんなにわたしのことを可愛がってくれたのに。今はルーシィ教授のほうが大事なんですね」


「……そうだね」


「でも、もうそんなこと関係ありません。ルーシィ教授はソロンさんのそばにいられなくなります。そして、わたしこそがソロンさんのことを一番に考えているということがわかるはずです!」


 クレアは水晶剣を振り、ふたたび黄金色の波動を放った。

 ただ、その攻撃には切れがなかった。


 それはクレアが消耗したからでもあるけれど、もともとフローラが使っていたときとは明らかに様子が違う。


 クレアはこの水晶剣を手に入れてから時間があったはずだから、フローラよりも扱い方を知っているはずだ。

 けれど、残酷なことだけれど、もともと魔力を持たず、魔術師でもないクレアにこの剣は使いこなせないのだろう。


 俺は軽く宝剣を振ると、クレアの攻撃魔法は霧のように消えた。

 そのまま俺はクレアの手の水晶剣を弾いた。


 炎魔法を受けて弱っていたせいか、クレアはあっさりと剣を手から落とし、そしてがっくりとその場に膝をついた。


「……結局、わたしには力がないんです。力さえあれば、わたしは魔法学校に入れて、冒険者になって、今もソロンさんの隣にいられたかもしれないのに」


「クレアは立派な軍人になったじゃないか」


「でも……わたしがなりたかったのは、もっと別のものなんです」


 もう完全にクレアは抵抗する手段を失った。

 水晶剣は床に転がっていた。


 フィリアがおそるおそる、でも興味深そうにそれを拾って眺めていた。

 俺たちは勝ったのだ。


 とはいえ、クレアを倒したところで、ルーシィの身が危険なのは変わらない。

 政府の手からどう逃れるか、早急に対策を打つ必要がある。


 ただ、その前に一つやらないといけないことがある。


「傷の手当をするよ、クレア。痛い思いをさせてごめん」


「ありがとうございます。昔も……わたしが庭で転んだときとか、ソロンさんが擦り傷の手当をしてくれましたよね」


「そうだったね」


「昔のわたしは泣き虫でしたから……ちょっとした傷でも泣いちゃって……でも今は違うんですよ、ソロンさん」


 クレアの瞳が急に鋭く光った。

 直感的に、なにかおかしいと俺は感じた。


 思わず俺は飛び退ったが、それは正解だった。

 クレアの手のひらから、無数の光の珠が放たれたからだ。


 俺の後ろでは、フィリアが水晶剣をいじっている。

 とっさに俺は背後のフィリアをかばって床に伏せた。

 

 フィリアはなにが起きたかわからず、びっくりした様子で顔を赤くしていたけれど、ともかくフィリアは無傷で済んだ。


 が、ルーシィをわずかにフィリアと離れたところにいた。

 ルーシィは手をかざして防御障壁を作ったものの、杖なしではその効果は知れていて、いくらかの攻撃は障壁を破ってしまった。


 光の珠がルーシィを襲い、ルーシィは「きゃああああ!」と悲鳴を上げて、その場に倒れ込む。


 クレアは進み出ると、冷然とルーシィを見下ろしていた。


「水晶剣の力は所有者に魔法を使う能力を与えます。たとえ、手から水晶剣が離れてもその効果はしばらく持続するんです」


 ルーシィは苦しげに息をしながら、クレアの言葉を聞いていた。

 かなりクレアの攻撃が効いてしまったんだろう。


「ルーシィ教授。あなたはわたしのことを覚えていなくても、わたしはあなたのことを覚えているんです。魔法学校の入学試験のとき、あなたはわたしを担当した試験官でしたら」


 ルーシィは弱々しく、クレアを見上げていた。


「そうだったの……?」


「はい。そして、あなたはわたしにこう言いました。『ここは魔力のない欠落者とか、そんなダメな人間が来るところじゃないの』って」


「ごめんなさい……。覚えていないわ」


「それだけじゃなくて、わたしはかなりひどいことを言われたんですよ。あのときの屈辱は忘れません」

 

 たしかに俺と会った頃のルーシィはかなり傲慢な性格をしていた。

 魔法の天才として劣った人間たちを見下すところがあったし、その対象には俺も含まれていた。


 でも、その後にルーシィは変わっていった。

 今のルーシィなら、クレアにそんな残酷なことを言ったりはしないだろう。


 ただ、過去のルーシィがクレアの恨みを買ったことは変えようのない事実だった。


 クレアが手をかざし、さらなる苦痛をルーシィに与えようとした。

 俺は飛び起きて、クレアとルーシィのあいだに割って入り、宝剣を振りかざした。


 クレアの攻撃を弾き、そのまま俺はクレアの首に剣を突きつけた。


「それ以上、ルーシィ先生を傷つけるなら、俺は決してクレアを許さない」


「仕方ないですね」


 クレアはあっさりと諦めたようだった。

 今度は不意打ちも俺には効かないし、首に剣を当てられていてはうかつに動けもしないはずだ。


 ただ、クレアの表情は余裕だった。


「もうクレオン兄様も、官房第三部のガポン神父も自由同盟の計画に気づいています。そして、ソロンさんも含めて、反逆者として検挙するつもりなんです」


 すでに事態は取り返しのつかない所まで来ているということだろう。

 そして、クレアは静かに言う。


「でも、わたしはそんなことはさせません。……少なくとも、ソロンさんを反逆者として処刑させたりは絶対にしません」

 

「クレアの気持ちは嬉しいけど、そんなことができるの?」


「はい。だから、わたしはソロンさんを助けるために、今晩、この屋敷に来たんです。軍の仲間たちとともに」


 俺ははっとして、食堂の入り口を振り返ると、そこには数人の兵士がいた。

 そして窓の外を見ると、数十人もの軍人がすでにこの屋敷を取り囲んでいたのだった。

 



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