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追放された万能魔法剣士は、皇女殿下の師匠となる漫画4巻が2025/1/15から発売中  作者: 軽井広@北欧美少女2&キミの理想のメイドになる!
第六章

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120話 わたしはルーシィ先生とは違います

 赤竜は俺たちを睨んだ後、加速してこちらへと飛んできた。

 さて、果たして俺の宝剣テトラコルドで受け止められるかどうか。


 そんなことを考えた次の瞬間には、赤竜が俺の目の前へと到達する。

 

「来い!」

 

 赤竜は長い鉤爪で俺を襲ったが、宝剣テトラコルドを一閃させ、俺はそれを受け切った。

 次に赤竜の口が大きく開く。


 口から魔力のこもった炎を吐くつもりなのだろうが、そうはさせない。

 ほぼ同時に俺は宝剣テトラコルドを繰り出した。


 俺の知識によれば、赤竜の急所は喉元。

 そこに宝剣が届けば、倒せはしないものの、麻痺状態となってしばらく動きが止まる。


 その隙にソフィアとルーシィが一斉に攻撃すれば、赤竜がいくら強くても簡単に倒せるはずだ。

 二人には事前に作戦を説明してある。


 宝剣は狙い通りの軌道を描き、赤竜の鱗の下、急所の喉元に突き刺さる。

 俺が宝剣を引き抜くと、赤竜は動きを止めた。


「神よ! わたしに力をお貸しください!」


 俺の宝剣よりもわずかに速いタイミングで、ソフィアがあらかじめ教会式の攻撃魔術を詠唱する。

 そして、止まっている赤竜に攻撃を直撃させた。


 さすがに俺とソフィアは数年間、同じ冒険者パーティで戦ってきただけのことはあって、息はぴったりだ。


 何百回もの戦いを経ているから、互いの考えていることまで手に取るようにわかる。


 ただ、ソフィアの攻撃をもってしても、一撃では頑丈な鱗を持つ赤竜は倒せない。


 圧倒的な火力を持つルーシィの炎魔法が必要だった。


 けれど、ルーシィの炎魔法はわずかに遅れた。


 ルーシィは冒険者ではない。

 つまり、戦いに慣れていない。


 だから、ほんの少しだけ攻撃を繰り出すのが遅くなったのだ。

 けれど、それが命取りになった。


 ルーシィの炎魔法が放たれたときには、すでに赤竜は麻痺から回復して暴れ出していた。

 そのせいで炎魔法は赤竜に直撃せず、かすっただけだった。


 それでも赤竜は怒りに赤い目を光らせる。


 まずい。


 赤竜は今度は狙いをルーシィに定めたようだった。


 直前に攻撃されたから報復するつもりなのか、自身にとっての最大の脅威だとみなしたのか。


 ともかくルーシィが危険にさらされている。


 呆然としているルーシィに声をかけ、俺は飛び退ってルーシィの前に立った。

 ルーシィを守るためだ。


 ただ、さっきと違って、体勢を整える余裕がない。

 赤竜の鉤爪を宝剣で受けようとしたが、微妙に手元が狂った。


 そのせいで鉤爪の一部が俺の頬にかすり、鮮血が飛び散る。


「ソロン……!」


 ルーシィが悲痛な声を上げるが、べつに冒険者にとってはこのぐらいの怪我は大したことではない。


 俺はもう一度、宝剣テトラコルドを赤龍に向けて放った。


 赤竜の喉元に綺麗に宝剣は突き刺さる。

 今度はかなり深くまで届いたはずだ。


 さっきよりも長い間、動けないだろう。


「さあ、ルーシィ先生の本気を見せてください」


 俺が微笑みながら言うと、ルーシィははっとした顔で杖を振り、無詠唱で炎魔法を行使した。

 大きな炎の輪が無数にその場に現れる。

 それがやがてひとつの渦となり、より煌々と燃え盛って、巨大な火の塊を形作る。


「よくも私の弟子を傷つけたわね!」


 ルーシィが杖を振り下ろすと、大規模な炎魔法が赤竜へと襲いかかった。

 赤竜が絶叫を上げる。


 硬い鱗を燃やし尽くし、赤竜は頭から尾まで灰となった。

 炎魔法は遺跡の反対側の隅々までを燃やし尽くし、ようやく止まった。


 さすがは真紅のルーシィ。

 その炎魔法の威力は規格外だった。


 ほっと俺はため息をついた。

 予想外の強敵に出くわしたが、なんとか助かった。


 俺が「ありがとうございます」と言いかけて、ぎょっとした。

 ルーシィがうつむき、真紅の瞳に涙をためている。


「ど、どうしたんですか?」


「だって、私のせいでソロンが怪我を……」


「ああ。こんなものはただのかすり傷ですよ」


 ルーシィが俺の頬に触れて回復魔法をかけようとしたが、その前にソフィアの治癒の力が放たれて俺の傷を癒やした。

 完全に治ったわけではないが、とりあえず血は止まった。


 ルーシィは「私のせいで……」とふたたび小さくつぶやき、悲しそうにした。


 俺にとっては、このぐらいの傷を負うことなんてどうってことはない。それより、ルーシィには暗い顔をしてほしくなかった。

 

 初めて会ったころの少女時代のルーシィは、いつも無表情か陰鬱な表情をしていた。

 でも、俺が弟子になった頃から、ルーシィは変わり始めた。

 くすくす笑うときも、不機嫌になって頬をふくらませるときも、明るく魅力的な表情を見せるようになったのだ。


 でも、今は昔の表情に戻りかけている。

 俺は心配になった。


「先生のせいじゃありませんよ。だから、そんな顔をしないでください」


「でも、私が攻撃するタイミングを間違えなければ、赤竜に反撃される前に倒せてたはずだったのに……」


「俺がもう少し長く時間を稼げていれば問題なかったんですよ。だから、先生は自分を責める必要なんてないんです」


「……ソフィアはソロンとぴったりの息で攻撃できてたわ……。なのに、わたしはできなかった……。そのことが悔しいし、ソフィアのことが羨ましいの」


 天才ルーシィだって、慣れないことをうまくやるのは難しいのだと思う。

 人の能力は生まれながらの才能にも左右されるが、これまでの経験によるところも大きい。 


 俺とソフィアはずっと一緒に戦ってきたけど、ルーシィは違う。

 それだけのことで、ルーシィに責任があるというわけではないのだ。


 どういうふうに言葉をかけようか迷っていたとき、ソフィアが俺たちの隣にそっと立った。


「あの……わたしはソロンくんの仲間だったから、ソロンくんと息を合わせて戦えるんです。ルーシィ先生とは違います」


 びくっとルーシィが震えた。

 そんなルーシィを見て、ソフィアが慈しむように続きを言う。


「でも……わたしはソロンくんの師匠じゃありません。ソロンくんの仲間はたくさんいるけど、師匠はルーシィ先生だけなんです。ソロンくんを教え導けるのはルーシィ先生だけだから、そのことをわたしは羨ましいなって思うんです。先生がわたしに嫉妬したりする理由はないと思います」


「嫉妬なんかしていないもの」


 それを聞いて、ソフィアは柔らかく微笑んだ。

 

「本当にそうなら、わたしも安心できるんですけれど」


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