100話 再会
聖騎士クレオン、双剣士カレリアを先頭に俺たちは道を進んでいった。
崩落した箇所に気をつけながら歩いていく。
俺の両隣には白魔道士の少女リサと、そしてアルテの妹のフローラがいる。
なんだかおかしな状況といえば、おかしな状況だ。
「どうなんでしょう? 賢者様たちは無事なんでしょうか?」
「無事でないと困るけど……」
リサのつぶやきに、フローラが小さな声で答える。
この二人は見た目も能力も立場もぜんぜん違う。
性格だってまるで正反対で、気弱なフローラに対し、リサは明るくミーハーで天真爛漫だった。
なのに、この二人はなぜかものすごくよく似ているような感覚に一瞬襲われた。
どうしてだろう?
不思議だが、考えても仕方がない。
リサもフローラもいざというときには、フィリアの味方になってくれるかもしれない重要な冒険者だ。
魔族はふたたびほとんど現れなくなった。
一方で、魔族の大群が突発的に現れて、アルテたちを襲ったりしている。
不気味だ。
「どうしてこんなに魔族が少ないんでしょうね? やっぱりおかしくないですか?」
「私は……その……いちおう理由は思いつきますけど……」
リサとフローラの両方がじーっと俺を見つめる。
俺に理由を言え、ということだろうか。
ちょっと考えてから、俺は口を開いた。
「例えば、非常に強力な魔族が複数の階層を移動して、他の魔族を捕食しているとかは考えられるとは思うけど」
「捕食?」
リサが首を傾げたので、俺はもう少し補足した。
「上位の魔族のなかには下位の魔族を喰らい、その魔力を吸収するのもいるんだよ」
「あっそれ、聞いたことあります。でも、だからって急に魔族が減ったりするんですか……?」
「よほど大型で凶暴な魔族が自由に移動していれば、もしかしたらありえるかもね。実際に、東方の遺跡にそういう魔族がいたから。フローラは覚えているよね?」
話を振られたフローラがびくっとして、顔を赤くする。
「……はい。えっと、東方の大庭園跡にいた、大ゴブリンですよね。あのときはソロン先輩が止めを刺してくれて……」
「まあ、その頃はまだ俺もそれなりに役にたててたから」
「ソロン先輩は今でも……」
フローラは何かを言いかけて、結局、やめたようだった。
一方のリサが羨望の眼差しで俺たちを眺めている。
「いいなぁ。二人は聖ソフィア騎士団の思い出話ができて」
「そんなに良いことばかりじゃなかったけどね」
「でも、帝国最強の騎士団を作って、そこで大活躍して、羨ましいです。わたしも聖ソフィア騎士団に入りたかったのに!」
「金印騎士団だって悪いところじゃなかったんじゃない?」
金印騎士団は落ち目とはいえ、帝国では長い伝統をもつ名門騎士団だ。
そこに所属しているのだって、十分名誉のはずだ。
しかし、リサは目をそらし、えへへと笑って何も言わなかった。
なにか言いたくないことでもあったのかもしれない。
俺はそれ以上、リサの話には踏み込まなかった。
そのとき、道の曲がり角の向こうから、人の声が聞こえた。
二人が言い争っているみたいで、どちらも少女の声だった。
片方は甲高く声を荒げていて、もう片方は落ち着いた品のある声だった。
俺たちは顔を見合わせて、その声のほうへと近づいていった。
かなりの数の冒険者がそこにはいた。
「だから、あたしたちが引き返すわけにはいかないと申し上げています!」
「でも,あなたの妹ともはぐれたんだよね? 探さなくていいの?」
「ここで待っていればフローラは必ず合流します! 無闇に探しに行くほうが危険です」
そう言って不機嫌そうに言っていたのは賢者アルテだった。
そのアルテに対して、銀髪の小柄な少女が正面から対峙している。
フィリアだった。
「でも、ソロンを探さないと……」とフィリアがつぶやくと、アルテが「何度同じ話を繰り返すんですか? 捜索隊にまかせておけばいいんです」と威圧的な口調でいった。
どうやら、アルテとフィリアたちのあいだには対立が生じているようだった。
フィリアの後ろにはナーシャやノタラスたちが控えていて、アルテに非好意的な目を向けている。
フィリアはふたたび何かを言いかけたようだったが、その前に俺たちがやってきたのに気づいたようだった。
そして、俺と目があう。
「ソロン!」
フィリアが目を大きく見開き、弾んだ声で俺の名前を口にした。
そして、ぴょんと飛び跳ねるように俺に近づくと、その小さく細い腕で、俺に抱きついた。
俺はびっくりして後ずさろうとしたが、フィリアに抱きしめられているせいで動けない。
フィリアが頬を俺の胸に擦り寄せる。
「ソロン……温かい。ソロンが生きててくれてよかった」
「ふぃ、フィリア様。みんな見てますから……」
「すごく不安だったんだよ? ちょっとぐらい甘えてもいいでしょ?」
フィリアが涙目で俺を見つめ、顔を赤くする。
そう言われると、俺もフィリアを突き放すことができない。
他の冒険者も見ている前だ。
皇女に抱きつかれているのは、問題がある気もするけど。
でも、俺がフィリアの立場だったら、たしかに心配だったとは思う。
「魔力回路がつながっているから、ソロンが生きていることはわかったけど、でも、いつ死んじゃうかわからなくて……。他の冒険者の人たちもたくさん死んじゃったし……」
「心配をかけてしまって、そして、フィリア様の側から離れてしまってすみません」
「ソロンのせいじゃないのは、わかってるよ。でも、もう二度とわたしを一人にしたりしないって約束してほしいの」
「約束しますよ」
「本当?」
「本当です」
俺が微笑むと、フィリアも俺を見つめ、そしてくすっと笑った。
そして、俺にしなだれかかったまま、つぶやく。
「ソロンがいてくれれば、きっとこの遺跡から、わたしたちの居場所へ無事に帰れると思うから」






