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相棒

「……どういう意味だ?」


 春先の海から吹いてくる風はまだ肌寒い。先ほど食べた料理で温まった体は冷え始めていた。


 アドルフの表情は真剣だ。彼が冗談で言っているわけではないようだ。


「そのまんまの意味さ。俺たちは元々パーティーを組んでいないしな。行動を共にしなきゃいけない理由何てないはずだ」


 確かに二人はパーティーを組んでいない。同じクエストを受けたため、その流れで一緒にいるだけだ。


「俺にはその組織と戦う義務がある。このまま行動を共にしていたら、お前さんも巻き込まれることになる。ここが分水嶺だ」


 キラキラ光る運河を眺め話す。アドルフはテツの事を思って言っている。これ以上関わるなと言いたいのだろう。


「この先、恐らくまた奴らは魔物を使ってどこかを襲うと思う。そして最終的には戦争だ」


 王都を襲うという事は、国そのものを狙っているという事。だとすればそれは戦争と言っても過言ではないだろう。


 でもだからこそ、テツはまだまだ自分のことを理解してもらってないのだな、とため息が出る。


「なぁなぁアドルフさんや」

「何だいテツさんや」

「お前さんはアホだな」

「……何故だい?」


 戦争は苦手だ。正直関わりたくない。だがテツは料理人だ。


「いいかい?つまりお前といればトラブルに巻き込まれるって事だろ?」

「ああ、それもとてつもなく大きなトラブルだ」

「つまりお前さんといれば、また危険な魔物と戦うわけだろう?」

「ああ、それも災害級のな」

「つまり、お前さんといれば、美味い食材に出会えるって事だよな」

「…・・・は?」


 災害級の魔物。つまりは最高に美味い食材。それが相手からやってくるのだ。コックとして、それを遠くで見守るなんて事ができるはずがない。


「戦争は苦手だ。正直よく分からないしな。だがそこに最高の食材があるのなら話は別だ。俺はコックだ。一度死んで、そして蘇った。料理をするために、最高の食材に出会う為に」


 ならもう迷いはないだろう。テツはこの人生を、料理の神髄を求める為にもう一度人生を生きると決めたんだ。だったら答えは決まっている。


「お前が何と言おうと、俺はお前に付いていくぜ。戦争がどうとか、国がどうとかは分からないし、正直興味ない。だがそんなことはアドルフ、お前がどうにかしてくれればいい。俺は俺の料理道の為にお前と共に行動をする。例えお前が何と言おうとな」


 その真っ直ぐでテツらしい言葉に、アドルフはただ呆然とするしか、呆れる事しかできなかった。


「お、お前は本気で言っているのか?死ぬかもしれないんだぞ?戦争だぞ?」

「ああ、本気だ。戦争になったら、危険だと思ったら勝手に逃げるさ。だが俺はコックだ。食材から逃げるわけにはいかないだろ?」


 さも当然のように言い放つテツに、アドルフは次第に腹を抱えて笑いだした。


「くくく、お前さんらしい。そうだったな。テツ、お前はそういう奴だった。信じらんねぇ。戦争より料理かよ。馬鹿だ。大馬鹿だよお前さんは」


 確かにテツはこういう奴だった。地竜の時も、クラーケンの時、サーペントの時だって、頭にあるのは危険よりも料理の事だった。止めても聞かないし、言っても聞かないだろう。テツの顔を見れば、何笑ってんだこいつ、と本気でわからないという表情をしている。こいつにとって料理が全てなんだ。誰がこいつを止められようか。


「まぁ、お互いいい歳だ。自分の道は自分で決めるさ。俺は危険になったら勝手に逃げる。だが食材は逃がさない。アドルフは勝手に国を救えばいい。だが食材は俺が貰う。それでいいだろ相棒」


 危険になったら、戦争になったら勝手に逃げてくれるんだ。ならもうこいつに言う事はないだろう。どうせ何を言ってもついてくるんだし、おっさんがおっさんの人生に説教なんざ無粋な事は止めよう。


「そうだな。食材はやる。だが危なくなったらちゃんと逃げろよ相棒」


 二人は笑い、そして握った拳をぶつけ合う。お互い好きにするだけだ。たまたまその道が一緒なだけ。困った時は助け合えばいい。同じ道を歩いているのだから。嫌になったら別の道を歩めばいい。別に無理して寄り添う事はない。おっさん同士が寄り添ったって気持ち悪いだけだ。


 だが二人にはわかっていた。二人の歩む道は、その目的地は違えど、恐らく二人の道はずっと同じだ。だったら一緒に歩めばいい。その方が楽しいから。まだ短い付き合いだが、二人は気が合い信頼できた。相棒と呼ぶにふさわしい相手だ。


 笑い、そして落ち着いた時、テツが今まで疑問に思っていたことを聞いてみることにしてみた。


「なぁなぁアドルフさんや。お前さん貴族かなんかだったのか?」


 テツの質問が予想外だったのだろう。アドルフは一瞬呆けた後、顔を顰めながらも答えてくれる。


「まぁ、な。あまり詳しくは言いたくないが、これでも一応公爵家の人間だった」


 公爵家。つまり王族の次に偉い家柄の人間という事になる。


「前にも話した通り、俺は妾の子で、父親とは滅多に会えなかった。それだけでなく、幼いころに死んだ母親は平民だったらしい。その事を恥じてか、俺は学校にも行かせて貰えなかった」


 そして15歳の時、組織の事を知り、家を出るついでに組織の事を調べる様になったそうだ。


「一人で調べてるのか?」

「あー。その辺はあまり詮索しないでくれると助かる。一応一人ではないと言っておこう」


 言葉を濁したので、「わかった」と答え、アドルフは「助かる」と言う。恐らく貴族の人間がかかわっているのだろうが、そこはテツには関係のない話だ。


「あ、それともう一つ。クラーケンの時や、今回もそうだ。ケイトと交渉する時、必ず報酬の話しからするよな?緊迫した状況にも関わらず、ケイトもそれを聞いて満足そうだったし」


 特にクラーケン戦の時は、騎士の命がかかった一刻一秒を争う事態だった。なのに交渉から始めたその考えは、日本人だったテツにはわからない感覚だった。


「ああ、理由は二つある。まずは俺達が冒険者たという事だ。冒険者は依頼を受け、達成後報酬を貰って生活をしている。なのに一度でも無報酬で仕事をしてみろ。相手がいい人ならいいが、もし面倒な相手だった場合「以前は無報酬でやってくれた」と騒ぎ、最悪それが広まり「なら俺にもそうしろ」という苦情がきちまうだろ?」


 ああ、とテツは納得する。それは飲食店でも言えることだからだ。お客様には様々な注文を付けてくる人が居る。肉を切り分けてから出せ、メニューにない料理が食べたい、その内容は様々だ。もし店にないルールのものを一度でも許してしまえば、来店する全てのお客様に同じ対応をしなければならなくなる。店は特定のお客様を贔屓してはならないし、それはクレームにもつながる。


「もう一つは依頼相手の為だ。冒険者だって色々な奴がいる。もし報酬内容を決めずに依頼をこなせば、あとからどんな要求をしてくるかわかったもんじゃない。一応依頼はこなしているから、相手は断りずらくなる。まぁ報酬を決めずに依頼を出す依頼人も悪いんだけどな」


 確かにそうかもしれない。だからアドルフはあの状況でしっかりとそれを決め、双方納得し安心した状況を作り出したわけだ。


 そういう所は頭回るのに、なんで普段残念なおっさんなのかと、テツは深くため息をついた。

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