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偶の休日1

少年side

「じゃーん! お待たせしました!」


 ここは山を下りた先にある街の宿。

 声と共にセンリンが揚々と皆の前に顔を出した。

 僕は彼女の後ろから皆の様子を伺う。

 シスター以外は物珍しそうに視線を上下に彼女の体を観察する。


 センリンの服は新しく新調されていた。

 血で汚れていたのもそうだけど、刃であちこち切られてボロボロになっていたからだ。

 因みにセンリンはお金を持っていないので僕が出してあげた。

 結構貰ってはいたけれど、流石に手持ちのお金はほぼ尽きてしまった。


「うん、良いんじゃないかい?」

「似合う」


 サニャとソーラは開口一番賛辞の言葉を出した。

 センリンは頭を掻いて、照笑いを浮かべる。


 それとは対照的にスズさんがつまらそうに頬杖をついて口を開いた。


「ナーンカ地味。セッカクなんだから、モット可愛いの着ればいいのに」

「はぁ、そうは言いましても、動きやすいんですよ?」

「まっ、アンタに期待するだけムダよね」


 スズさんはそういうと首を振って溜息を吐いた。


「モーさんはどうですか? 似合います?」

「似合うも何も、前とあんまり変わらないじゃない」


 体を回すようにしながら、シスターに訊ねるも身も蓋もない事を言われる。

 シスターの言うことも、最もだけどね。

 僕もセンリンも服のデザインに詳しい訳じゃない。

 なので以前の服をベースに新しく仕立てて貰うしか無かったのだ。


 お金の問題で、布地が減り微妙に簡素になった位だ。

 袖部分もなくなり、肩まで露出している様なデザインだ。

 今まで隠れていた肌が露出している所為か、初見はドキリとした。


「テカ、下はカワってないのね」

「まぁ無事でしたからね」

「というより、そこまでお金はなかったから、無事で良かったよ」


 僕がそんな安堵の息を漏らす。

 そんな中、サニャはセンリンを眺めながら口を開いた。


「センリンは足長いしさ、いっそドレスみたいにバーンと足を出そうよ」

「あぁ、タシカにそういうのもイイカモネ」

「だろ? 折角肩も出てるんだしさ。その方が扇情的だよ」

「なんともおやじ臭い発言だこと」


 シスターがボソリと呟くとサニャ苦々しい顔で押し黙る。

 しかしセンリンはその言葉を受けて、不思議そうに腿付近の布を引張る。


「はぁ、私の脚など見ても愉しくもないでしょう」

「大丈夫、素敵、逞しい」

「えぇー、本当ですか?」


 ソーラの言葉にセンリンは嬉しそうに体をくねらせた。

 その姿にスズさんが鼻で笑いながら口を開く。


「そもそも、コイツに女らしさをキタイするだけムチャよ」

「はっ! 随分と説得力のあるお言葉だこと」


 シスターがそれに対して皮肉を塗りたくる。

 スズさんは恨みがましく彼女を睨み付けるが何も言い返さなかった。


「フンッ! 胸さえデカけりゃ女性的と思ってるヤツは気楽でイーわね」

「あら失礼。全体的に小さい人間の気持ちって分からないのよ」

「性格がワルければ、見目カンケーなくコナもかけられないってのが、オマエ見てると良く分かるワ」

「あぁん!?」

「オォ!?」


 何故だか分からないけど、途端にいい合いを始める二人。

 その横でサニャが両手で耳を塞ぎ、目を閉じて押し黙っていた。


「何やってんの?」

「こういう話題は私の心がすり減るから聞きたくない」


 切実な声色で答えられ、僕は言葉短く相槌を打つに留める。

 良く分からないけど、色々あるんだなぁ。


「大体、この集まりで女性的もクソないわ。話すだけ無駄よ」

「あ、ソーイウ事言っちゃう!?」


 そんな中でソーラが力強く手をあげる。


「私、魅力的、一番、この中で」

「ハッ、そんなチンチクリンの体で良く言うわ」


 指差してバカにするスズさんを横目に、シスターが噴出した。

 大して身長差もないスズさんが言う事に堪えれなかったんだろう。

 当の本人も気付いたのか、顔を赤くしている。


「完璧、家事できる、おしとやか、優しい、胸大きい」

「オシトヤカって、オマエズーズーしいわね」

「お転婆の間違いじゃない?」

「マシ、二人よりは、少なくとも」

《あぁあん!?》


 今度はソーラを交えての争いが始まり、何とも騒がしくなる。

 その横ではサニャがセンリンに愚痴を吐いている。


「センリンは良いよなぁ。背も高いしさスラっとしてるし、出る所は出てるし」

「はぁ、サニャも別段低くは無いと思いますが?」

「中途半端なんだよ、これなら低い方がさぁ。胸も無いし。男と間違えられるし」

「あぁ確かに。私も初めて見た時は男だと思ってましたよ」


 空気を読まずに笑うセンリンにサニャは肩を下げて落ち込んだ。

「髪伸ばそうかな」とか「でも似合わないんだよなぁ」とか小声でブツブツ呟いている。

 歯に衣を着せない兎は、不思議そうな顔でテーブルのナッツを口に運んでいた。


 少し視線を逸らすと狭い部屋でスズさんがソーラを追い回していた。


 あぁ、なんというか平和だなぁ。

 つい最近まで争いごとが多かったせいか。

 こういう小さい小競り合いは微笑ましく感じる。

「なんだかんだで仲いいんだよな」と思いながら皆無事で良かったと、改めて感じた。

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