奪還3
スズside
突如襲い掛かってきた狼の群れを相手に騎士団の剣士達は戸惑い気味であった。
たかだか野生動物の一匹や二匹、私達にとっては物の数じゃない。
しかし、今回に関して言えば数が多すぎた。
しかも襲いかかる様にはまるで躊躇いという物が無かった。
それでも怯まずに確実に一匹一匹を排除していくのは流石といった所かしらね。
そんな中一人が馬車後方に視線を送り、怪訝な表情を見せた。
馬車で拘束している筈の兎女、彼女が当然の様に外で立っていたからだ。
「お前! 何をしている」
後方で剣を振るっていた別の剣士もそれに気づき声を上げた。
しかし、センリンは彼女達の声を無視すると音もなく山の奥へと消えていく。
「待て!」
騎士団員としての性かしら。
捕らえた獲物が逃げたのを見て、後方を守っていた女は咄嗟にセンリンを追いかける。
まるでそれに誘発されたように、最初に彼女を発見した剣士も後に続いた。
私は作戦が一先ず上手くいったことに安堵する。
そして身を隠しつつ人気の薄れた荷台の入り口に近づいて中へと飛び込んだ。
「センリン! 生きてる!?」
「おぉ!? スズ、どうして……と聞くのも愚問ですか」
流石に外であれだけ騒がしくしていれば不審に思うだろう。
センリンは何やら複雑そうな表情で私に笑いかけた。
殴られたのか、頬や鼻から流れている血が痛々しく見える。
「しかし、外の気配はどちらかと言えば獣の様でありましたけど?」
「ナンカ知んないけど、ワンコがゼッサン大暴れ中よ」
どんな偶然かは知らないが、私達が奇襲をかけるよりも先に狼の進攻が始まっていた。
だが結果として、こちらも楽に事を進める事が出来た。
厄介なライラ様は牛女が上手く分断してくれたし。
荷台付近に居た奴らも、サニャが幻を見せて引き離してくれた。
「と言っても、モタモタはしてらんないわ。アイツだってライラ様の相手はキツイだろうし」
「……スズ。私の事は良いですから、皆と共に引き上げてください」
「ハァ!? オマエ、何ワケワカンナイ事言ってんのよ」
いきなりこちらの助けの手を拒むセンリンに私はつい声を荒げてしまう。
しかしこいつは視線を外す様に下を向いた。
「前々から思っていたのです。私は皆と一緒に居るのは場違いなのではないかと」
「場チガイ? ナニソレ?」
「私は皆と違い、何も知りもせず知ろうともせず、無責任に貴方達に関わってきた」
確かにこいつは私と違って、シャルの事情を知ったのはつい最近だろう。
言われてみれば、あの時から妙に元気が無かったような気がする。
「皆、事情を知った上で、各々シャル君の為に動いていたのですね。是非は別にして」
まぁ、始めはどうあれ、今はシャルを中心に私達が動いているのは事実だ。
だけどそれは、自分にとって都合が良かったからに過ぎない。
少なくても、ついさっきまでの私はそうだ。
結局は第三騎士団という中で生きていく上で、アイツを利用しようとしていたに過ぎない。
「皆が彼の身の上を知った上で接していたのに、私はのほほんと無関心を決めていた。酷い話です」
「ベツに知らないモンはしゃーないデショ? フツーは異世界人なんて思わないワヨ」
「知る機会も多数あった。私はそれを放棄したのです。自分が楽しければ後は良いと、だから――」
私は面倒くさくなってセンリンの頭を思い切りぶっ叩いた。
彼女は突然の暴力に呆けた表情で私を見た。
正直に言わせてもらう。
この話、今言う事?
「クッダらない事を忙しい時にベラベラ喋ってんじゃねーワヨ!」
「く、くだらない……」
「アイツの事情をオマエが知ってどうなンノヨ! アタマ悪いクセになんか出来ると思ってるワケ?」
「い、いえ、ですが、やはり一般論というか」
「サイキンまで森に引きこもってたヤツがジョーシキを語るな!」
何が事情も知らずに好き勝手やっていた、だ。
なんの打算も隠し事もなく、ただ純粋にアイツの力になれる癖に。
私がどれだけその立場を、ひたむきさが羨ましかったと思ってるのだ。
「オマエはバカなんだから余計な事考えるな! ドーセヤル事は一緒でしょう?」
「それは、そうかもしれませんが……」
「アンタはさっき私を助けた時、コウショーな何かがあったワケ? ないでしょう!」
「だって、友人を助けるのに理由なんて」
「ソウヨ! ワタシもそう! シャルも! ワタシ達の仲だから! それで十分でしょうが!!」
センリンは私の顔を唯々、無言で見ていた。
クソ、コイツがバカみたいな事言うから変に興奮してしまった。
何故か瞳が涙で滲んでくる、あー恥ずかしい。
私は目を擦り、鼻を鳴らす。
センリンはその姿に大きく笑った。
「スズの言葉は真っすぐで良いですね」
「ナニヨ、バカにしてる訳?」
「いえいえ、感心しているのですよ。いつも私の目を覚ましてくれる」
「アーもう! ハズかしいから、行くんでしょ?」
私は頬を掻きながらセンリンの手錠を外そうと近づく。
その時、背後に殺気を感じた。
あれだけ大声出せば、そりゃ気付かれるわよね。
どうにも回避は間に合いそうにない。
まぁでもなんだろう、大声出してスッキリしたからかな?
振り向きざまに迫る刃を見ても、私に後悔の気持ちは生まれなかった。
その瞬間、視界がブレて体が浮き上がる。
そして鳴り響く破壊音。
「エ!? チョッ!? ハァ!?」
気が付けば景色は荷台の外で私は混乱の声を上げた。
誰かに抱えられている。
顔を上げればそこには、センリンの顔があった。
遥か前方には先ほどまで私に剣を振るっていた女が倒れている。
「では言葉通り、好きにやらせて頂きましょうか」
そう言うとセンリンは私の体を優しく地面に降ろすと、重心を下げてゆっくりと構えた。
周りを見れば、いつの間にか狼の群れは姿を隠し、騎士団の連中は馬車を囲んでいた。
「そういやオマエ、拘束はドーシタのよ?」
「関節を外して抜け出しましたよ。それが何か?」
なんだそりゃ?
まるで当然の様に話すセンリンに私は呆れる。
これでは助けに来た私達がバカみたいだ。
「さぁ、纏めて掛かってきなさい! 今の私は殊に無敵ですよ!」
まぁでも、今のコイツと一緒なら負ける気はしない。
私は苦笑交じりに剣を抜いて、迫る元同僚達と対峙するのだった。




