奪還1
センリンside
私は拘束され、他の積荷と同様に馬車へと詰込まれていました。
腕は鉄製の拘束具を後手に嵌められて動かすことが出来ません。
ましてやライラの魔法で普通よりも頑丈な為、引き千切ることも敵いません。
手持無沙汰な私は周囲を見回しました。
紙束やら、妙な液体の入った瓶や壷、怪しげな体毛や干物と実に多彩でした。
暗幕に覆われている所為か、物置の様な雰囲気に感じられ窮屈な気分です。
そういえば、師匠もよくこういった物を集めていた気がします。
気持ち悪いので捨ててしまいましたが。
そんな私の様子を見て、同乗しているライラが口を開きました。
他の方々は辺りを警戒しながら馬車を先導しているようです。
どうやら山道に入ったらしく、進みも随分と緩やかでありました。
「しかし、大したものだな」
ライラは自身の腹部に手を当てました。
鎧はそこだけ大きく、くぼんでおり亀裂が走っていました。
最初に私が拳で叩いた所です。
存外硬かったのは事実ですが、破壊もままならぬとは情けない。
「よもや強化した鎧を、素手でここまで損傷させるとはな」
「力比べでもありませんし、相手を倒せねば同じ事ですよ」
「貴様と一騎打ちはしたくないな。次、打ち込まれれば鎧ごと腹を貫かれそうだ」
ライラは豪快に笑う。
言葉の割には、随分と余裕が感じられました。
ようするに「次は無い」ということなのだろう。
「しかし意外ですね。直ぐに殺されるのかと思ってました」
「あぁ、直ぐ殺してやるよ。ただ今は保険だ」
私の質問になんの感情も込めずライラは答えました。
それに私は「保険?」と首を傾げます。
「道中、貴様を取り返しにやって来るかもしれないだろう?」
「はぁ、彼女達がですか? そうですかね?」
「そうなれば、私としても手柄が増えて旨い話だ。来なかったら港付近で殺してやるよ」
そう言うとライラは押し殺すように笑う。
成程、色々と考えているものですね。
目前の相手を叩きのめす事しか頭に無い私とは大違いだ。
否、本来は皆そういうものなのでしょう。
おかしいのは私だけだ。
今思えば彼女達もそうだ。
普段から物事に関心が無さそうに、あるいは感情的に振舞っているだけに見える。
しかし、その中にも色々な気遣いがあったのだと今にして分かる。
特にシャル君に関して言えば、事情を知った上で彼女達なりに接していたのでしょう。
何も知らず好き勝手振舞ってきた私とは大違いだ。
そう考えると、これもある意味では良かったように感じる。
あの場に置いて私という存在は場違いに思えて他ならない。
スズが以前、私は場を弁えないと称したが、成程どうしてその通りだ。
しかしそうなると困った話だ。
ライラの言う通り、もしかしたら皆は私を助けようと無理をするかもしれない。
今やシャル君保護団体と化してる現状、私を助ける意味はないでしょう。
しかし、あぁ見えて優しい方々なのです。
誰かが私の救出を口に出さないとは思えない。
頭の弛い私でもそれ位は判る。
というより出なかったら出なかったで少し寂しいです。
だがそれはそれだ。
私なんかの為に皆が危険な目に合うのは勘弁願いたい。
折角逃げ切れたのに、これでは本末転倒です。
「残念ですけど、彼女達は私など助けに来ないと思われますよ」
「貴様はスズを助けたのにか? 説得力が無いな」
「それは、まぁほら、私はバカ者ですので、皆からすればいなくなって清々するというか」
私はライラを納得させようと試みるが全く信用しては貰えない。
というより、上手い理由が思い浮かばない。
そもそも言っていて自分で少し傷ついてくる。
あぁ何故私はこんなにバカなのだろう。
「はぁ……確かにバカみたいに喧しい奴だな!」
ライラは尚も無駄口を叩く私の頬を殴り付けた。
魔法で鎧を堅くしているのか、想像よりも強烈な一撃だ。
堅い材質が皮膚を割いて血が流れ落ちた。
「どっちにしろ殺してやるんだ。安心して黙ってろ」
いきなり殴りかかるとは、なんとも暴力的な方だ。
いや、モーさんもスズも似たような物か。
私は過去のやり取りを思いだし、笑みを浮かべる。
ライラはそんな私を不審な目で見つめる。
「なんだ? 殴られて悦ぶ趣味でもあったか」
「ははっ、まさか。痛いのも恐いのも嫌いですよ」
「そいつは舐められたもんだな!」
効いてないという挑発に取られたのか、ライラはもう一度殴ります。
今度は顔面、鼻から血が垂れて服を汚してしまいました。
抵抗も出来ない一方的な暴力。
しかし不思議と彼女達に殴られ、怒られるよりかは痛くも怖くも無かった。
懲りずに笑いだす様にライラは不気味な物を見る目で私を眺めていた。
もしかしたら本当にそっちの気があると思われたのかもしれません。
彼女は私に対する暴力を止めました。
暫く揺られていると、急に外が騒がしくなりました。
外で警戒している声を上げ、馬が興奮して嘶いている。
「どうした! おい! ……チッ!!」
呼びかけにも応じない部下に舌打ちをすると、ライラは兜を被る。
腰から剣を抜くと、飛ぶように荷台から飛び出していった。
さて、どうしたものでしょうかね?




