猫耳剣士4
僕達は無事、山を下ることが出来た。
心身共にクタクタだけど、またさっきの様に襲われても堪らない。
休まず、町へと急ぐ事となった。
「やっぱりさっきの犬達は、村からやってきたのかなぁ」
僕が歩きながら疑問を口にする。
シスターは「さぁね」と、顔も向けずにそっけなく答えた。
対してスズさんは「恐らくね」と肯定してくれる。
頭に付いた猫耳がピクピクと動く。
「アノ数の死体が動き出す。なんてフツーじゃないモノ」
「やっぱり、僕達を襲うように命令したのかな?」
「私はソイツと会ってないから知らないけど、アンタ達はナンカしたワケ?」
「別に何もしてないわ。寧ろあっちが襲ってきた様な物よ」
相も変わらず視線は前を向いたまま、シスターは答える。
確かに村中にゾンビを放って、襲わせていたんだ。
仕掛けてきたのはあっち、と言っても良いのかもしれない。
「ナルホド、まぁ目撃者はツゴーが悪いってだけかもしれないワネ」
そう言ってスズさんは納得した。
おしりから出ている尻尾がゆーらゆらと、左右に行き来している。
「……ねぇアンタ」
スズさんはジロリと細目になって僕を睨んだ。
非難するような声色に僕は思わずギクリとした。
「さっきからジロジロと私の事みてるけど、ナニ?」
「い、いや別に……」
どうにも耳や尻尾が珍しくて、無意識に視線がいってしまう。
僕はバツが悪くなってついと視線を逸らした。
それを見てスズさんは「ははーん」と嫌らしい笑みを浮かべる。
「マァ、年頃だもんね。私の魅惑のボディに目が行っちゃうのもシカタがないか~」
「べ、別にそういう訳じゃ」
「そんな酒瓶みたいな体で良く言う」
「アァン!?」
素早く怒りの形相で睨みつけるスズさん。
だけどシスターは相変わらず前を向いたままだ。
その様子にチッと舌打ちを鳴らす。
「ご、ごめんなさい。その、耳が珍しく……」
「ミミ?」
スズさんが不思議そうに耳をピコピコと動かす。
「う、うん。あと……その尻尾も」
「うぅん? シッポ? どっちもフツーじゃない? ……言われて見ればアンタないワネ」
「ふ、普通ってシスターは?」
「あるにキマッテんでしょ。ねぇ?」
しかしシスターは問いかけを無視して一瞥もしない。
スズさんは静かに近づくと彼女のフードを剥ぎ取った。
彼女の金色の頭の上には、確かに獣耳と小さな角が生えていた。
スズさんと違って、ヤギとか牛みたいな耳だった。
「何すんのよ」
「ウッサイわね! ムシするからでしょ」
「……皆、耳も尻尾も生えてるの?」
「大体のヤツはミミもシッポもあるもんじゃない? あぁでもシッポは無い奴も最近は多いみたい」
シスターと揉みあいながら、スズさんはそう説明する。
ちょっぴり励ますような声色だ。
もしかしたら、両方ない事を僕が気にしていると思ってるのかもしれない。
「確かに、あんた耳も尻尾もないけどなんかの病気な訳?」
「チョット! オマエ少しは気を使いなさいよね!」
「耳はあるよ、ほら」
僕はそう言って、顔を横にして耳を見せるが二人の反応は薄かった。
「そう言えば、隣国の山奥にこういう種族がいるって聞いたことあるわ」
「あぁ、モンキアだっけ? 手先がキヨウなのよね」
「違うよ。僕は人間なんだ!」
僕は慌てて訂正するが、二人はいまいち意味が分からないのか首を傾げる。
「見れば分かるわ」
「ダイジョーブよ。別にそれ位でサベツしないわ。ワタシはね」
どうやら迫害を恐れてるのだと勘違いしたらしい。
彼女達の反応からすると、どうやらこの世界は獣人しかいないらしい。
それこそ、僕が普通の人間だと分かれば、どういう目で見られるか分からない。
僕は歯がゆい思いがしたけど、説明を諦めた。
その様子に何を勘違いしたのか、スズさんは僕の頭を撫でてくれた。
彼女の気持ちは見当違いであった。
けれど、知らない世界に迷い込んだ不安が湧いてきた僕の心を少しだけ癒してくれた。
そうこうしている内に、人通りが増えてきた。
どうやら町に近づいてきたらしい。
知らない世界の知らない種族が住む知らない町。
ちょっとした不安が胸の中に溢れていた。