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僕の名前3

シスターside

「落ち着いたかい?」


 部屋から出てきた私を見て、サニャはそう尋ねた。

 あの後、あの子は暫く錯乱状態に陥っていた。

 年下連中が必死に宥め、今ようやく落ち着いた所だ。


「というよりは、体力を使いきったという所ね」


 今は糸の切れた人形の様にグッタリしている。

 こちらの呼掛けにも答える様子もない。

 まだ気持ちの整理がつかないのだろう。


「それは仕方ないよ。自分が人間じゃない、なんていきなり聞かされてはね」


 サニャは辛そうに顔を伏せる。

 確かにそうだろう。

 作り物とは言うけれど、あの子はれっきとした意思を持つ人間だ。

 共に歩いてきた私達にとって、それは疑いようもない事実だ。

 どちらにとっても容易に受け入れられる事では無い。


 私は部屋を見回す、シュガーの姿が見当たらない。

 それを察したのか、サニャは天井を指差した。


「シュガー様なら自室に戻られたよ」

「言うだけ言ってあとは知らん顔? 勝手な女ね」

「そう言うなよ。部屋を貸してくださってるだけでも、有難いと思わないと」


 確かにあの女からすれば、聞かれたことに答えただけに過ぎないのだろう。

 しかし、他に言い様もなかったのか。

 あんな突き付けるような真似。


 所詮あの女からしても、実験の為の道具でしかないという事か。

 途端に腹立たしい気持ちになる。


「私の責任だよ。話の流れから彼が関わることは予測できた。離しておくべきだった」

「無理よ、多分あの子は是が非でも聞きたがる」


 悔やむように言うサニャに私は言葉をかける。

 そう、誰が悪い訳でもない。

 何れは分かる事なのだから。

 強いてあげるなら……だが、それを言葉にするのは残酷に過ぎる。


「はは、優しいね。先輩は」

「別に、どいつもこいつも塞ぎこまれちゃ面倒なのよ」


 私は部屋の隅で膝を抱えているセンリンを流し見た。

 先程からずっとあの調子だ。

 てっきりスズ達に混じって、あの子の側にいるものだと思っていたのだが。


「お前は行かないの?」


 私の言葉に顔を上げる、がすぐさま自身の腿に顔を埋めた。


「皆は、彼の事は知っていたのですか?」

「この世界の人間じゃない、位はね。流石に魔法で作られた、なんてのはさっきよ」

「私も似たような物さ」


 私は出会って直ぐに、あの子から聞いた。

 他の三人はペルシアに仕えてる人間だ。

 それなりには知っていただろう。


「私は、それすらも知りませんでした。旅の目的すらも、知ろうとすらしてなかった」


 顔を埋めたまま、泣きそうな声でセンリンは言う。

 確かにこいつは、他の奴らとは違う。

 純粋な好奇心のみで着いてきたに過ぎない。


「そんな無責任な私が、彼にどんな声を掛けられると言うのでしょうか」


 そのまま彼女は無言で塞ぎ混んでしまった。

 こいつがここまで落ち込むのも珍しい。

 気持ちは解らないでもないが。


「さて、それでこれから彼をどうするんだい?」

「どうするって? お優しい里親でも探せって?」

「場合によってはその方が良いかもよ? 実際、彼を連れ回す理由だってないだろ?」


 確かに、あの子は元の世界に帰る為に私に着いてきた。

 しかし帰る場所が無い以上、何処か安全な場所で平和に過ごすのが普通の考えだろう。


 だが、本当にそれでいいのだろうか。

 あの子の意思を無視して、顔も知らぬ誰かに任せる。

 それこそ無責任な話ではないか。


「できるなら、我家うちで引き取りたい所だけど。ペルシア様の手前それも難しいかな」

「あら? 意外ね。嬉々として引き渡すと思ってたわ」

「ちゃかすなよ。言っただろ? 私だって彼には幸せでいて欲しいんだ」


 サニャが拗ねるように口を尖らした。

 私はそれを鼻で笑う。

 幸せね。


 身寄りもなく、自分の正体(なまえ)すらも分からないあの子の幸せとは一体何なのだろう。

 ダイアーへの復讐心で旅に出た私だが、今の状況を放ってそれを先行させる気も湧かなくなっている。


 やれやれ、だから小さい子供は嫌いだ。

 穏やかな気持ちは復讐心すら薄れさせる。

 だけどあの子を気遣うこの瞬間は、確実にそれよりも充実してると自信持って言えた。


 そんな時だった。

 突如、大きな衝撃音と共に家が大きく揺れた。


「な……隣からだ!」


 サニャは驚き、音のする方向へ視線を向ける。

 出所は先程まで私が居た部屋。

 私は急いでそちらへと足を向けようとする、しかし。


「二人とも!」


 センリンが私達に大声で注意を呼びかけた。

 その直後、凄まじい音ともに、大きな何かがフロアを破壊していった。

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