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僕の怒りと彼女の涙2

「今日はここまでにしておきましょう」


 センリンはパンと両手を合わせると、僕の特訓を打ち切った。

 昨日に比べると随分と短い気がする。

 予想以上に速い切り上げに思わず「まだ出来ると」口に出かかる。

 だけど僕はそれをグッと堪えた。

 彼女の立場だってあるんだ、文句を言って困らせるのはやっぱり嫌だから。


 僕は頭を下げてセンリンに終わりの挨拶と礼を述べる。

 昨日始める時に教わった事だ。

 センリンもそれに続いて頭を下げて挨拶をした。

 そして安心したようにホッと息を吐いた。


 それと共に近くで見学していたソーラが駆け寄ってくる。

 何処にあったのか、タオルを手にして僕の汗を拭う。

 自分でも短いと思っていたけど、予想より汗をかいていた。

 少し息も乱れているし、やはり体力が自分の感覚とズレているように感じる。


「大丈夫?」

「え、うん大丈夫。でも思ったより疲れたかも」

「始めたばかりですからね。普段使わない筋肉も使いますし、無理はいけませんね」


 そういうものだろうか?

 センリンの言葉でも微妙に納得できない気持ちがある。

 当の本人は、何やら自分の発言に落ち込んでいるみたいだ。

 そうとう昨日の事は気に病んでいるらしかった。


(そんなに怒っていたの? スズさん)


 僕が声を潜めて隣のソーラに訊ねる。

 すると彼女はコクリと静かに首を縦に落とした。


(凄かった、引いた、少し)


 その時の光景を思い出したのか、ソーラは微妙に苦い顔になった。

 実際に怒られたわけでもない彼女がここまで嫌そうな顔をするとは。

 いったいスズさんはどれだけの勢いだったのだろうか。


 心配してくれる気持ちは照れくさくもあり、嬉しくもある。

 だけどやっぱりセンリンにはちょっと申し訳ない。

 そもそも合流してからという物、スズさんは少々過保護だ。

 前もちょっとそういう所もあったけど、それにしてもいきすぎな気がする。


「さて、早く戻りましょうか。汗で冷えて風邪でも引いたらスズが怖いです」

「う、うんそうだね」


 一刻も早く帰らんとばかりにセンリンは僕の肩に手を回すと、後ろから押してくる。

 笑い事ではないんだけど、スズさんの小言にビクビクする様は彼女にしては珍しい姿だ。

 その様子が少し可愛らしくて、ちょっと笑ってしまう。

 そんな僕の様子にセンリンはジトっとした目で抗議の声を上げた。


「うぅ、笑い事ではありません。本当に怖いのですよ」

「ごめんごめん、でもそこまで怒らなくてもいいのに」

「そうですね。うぅ……いや私が悪いのですから仕方ないのです」


「それに」とセンリンは言葉を続けた。


「あれはあれで良いものですよ。いや怒られるのは勘弁ですが」

「? どういうこと」


 今一矛盾してる様に感じるセンリンの言葉に首を傾げる。

 それに彼女は先ほどと打って変わり、小さく微笑んだ。


「大切に思っている。というのが伝わるのです。人の為にあそこ迄激高できるのですから」

「……うんそうだね」


 僕が頷くと「もう勘弁ですが」と身を縮ませて再度怯えた顔をした。

 そんな様子が可笑しくて僕はやっぱり笑ってしまうのだった。



 宿への帰り道、ふと僕の背後にいつも陣取るソーラの姿が見当たらないことに気付く。


「ねぇセンリン。ソーラは?」

「はて? 確かに……っとあそこにいますね」


 センリンが指す方向を見ると、確かにソーラが立ち止まり何処かに視線を向けていた。

 僕とセンリンは顔を見合わせて首を傾げると。彼女の方へと足を向けた。


「どうしたのソーラ?」

「お腹でも痛めました」

「違う、あれ」


 ソーラは視線を変えず、指を指す。

 その先には涼気な顔をした、赤毛の女性が歩いていた。

 あの憎たらしい余裕のある顔には見覚えがある。

 頭の色とは違う黒色の羽が印象的だ。


 そうサニャだった。

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