僕の怒りと彼女の涙1
結局ユリスタに付いたのは、その日の夕方を過ぎてからだった。
随分距離があるとは聞いていたけど、思っていた以上に遠かった。
それでも、皆が僕の歩く速さに合わせてくれていたからだ。
この世界の住人なら昨日の内に着いていたのかもしれない。
結局その日は、町の宿で休む事になった。
それにしても、人数も増えてきて先も長い事もある。
あまりお金は無駄にはできないと思うけど、何処から出てるんだろう?
「あまり小さい内から、そういう事気にするものではないですよ」
「スクなくとも、ムイチモンのオマエが言うことじゃないわね」
得意気に語るセンリンに、スズさんが呆れを混めた視線で語る。
「マァデモ、確かに気にしなくてイーわよ。カツドー資金から出してるから」
どうやらスズさんが居た時は、第三騎士団の経費から出していたみたいだ。
なるほど、お姫様の私設団体なだけあって活動資金は潤沢なのかもしれない。
「感謝なさい。アタシが居なかったら、アンタ達はソーソーに昨日みたいな日が続いてたンだから」
「うん。ありがとうスズさん」
スズさんは鼻高々に語る。
それに僕は素直に礼を言うと、彼女はポカンとした顔をする。
そして照れたように顔を赤くすると僕から顔を背けた。
「ウンマァ、分かればいいのよ、ワカレバ」
「まぁあとは、昨日の奴や盗賊からぶんど……」
「ンン! ウゥン! げふん!」
「良くない、教育、ここ」
シスターが何か言おうとした所に、スズさんが咳払いをして話を中断させた。
首を傾げる僕の腕を、ソーラが呆れた顔で胸に収める。
シスターはそんな二人を鼻で笑って視線を外した。
暫くして、僕は部屋で逆立ちしているセンリンに話しかけた。
目線が合うように屈み混んだ状態だ。
「ねぇ、暇なら昨日の続きやろうよ」
「えーっと、あぅ、そうですね。今日位は休んでは良いのではないでしょうか?」
センリンは上下の位置を正すと、困った様に視線を彷徨わせた。
「僕は大丈夫だよ。もう自分で無理もしないからさ。それともセンリンが疲れてる?」
「そういう訳ではないのですが……あぅぅ」
僕は必死にセンリンに頼み込む。
きっと昨日倒れた事もあり、センリンも気軽に良しと言えないのかもしれない。
彼女自身もそれなりに責任を感じていたみたいだし。
でも折角自分から志願したんだ。
昨日のセンリンも僕の勘違いでなければなんだか楽しそうに見えた。
なのに、僕が無理した所為でそれが終わってしまうのは悲しい。
僕は必死にセンリンに頭を下げて頼み込む。
センリンはチラリとスズさんに視線を送った。
もしかしたら昨日は、相当怒られたのだろうか?
「スズさんお願い! 僕、もう今度は絶対に無理しないから」
「別にやらせてあげればいいじゃない」
「なんでワタシに言うのよ」
伺うようなセンリンの視線にスズさん、面倒くさそうに息を吐いた。
「ベツにイーわよ! 今度はキをつけなさいよね」
「うん! 分かった! ほらセンリン行こ」
「あぅ、分かりましたから引っ張らないで下さい」
スズさんの言葉に、僕は喜び勇んでセンリンの手を引っ張る。
センリンはスズさんに礼を述べながら、僕に引かれる様に歩いてく。
その後ろをソーラがチョコチョコと付いてくる。
「ソーラも来るの?」
「見張ってる、私、手伝う」
「どっちなのさ?」
「うぅ……随分私は信用ないのですね」
肩を落として落ち込むセンリンを励ましながら、三人で外へと向かおうとする。
ふと直前にスズさんと視線が合う、彼女は小さく鼻をならすと拗ねる様に目を逸らした。




