猫耳剣士2
「チョッ! チョット待ちなさいよ」
木上から落ちてきた少女は、必死な表情だ。
それもその筈。
彼女の首には鎖が巻き付かれていた。
シスターに引っ張られ、苦しそうに首元に手を添えている。
「ねぇシスター、可哀想だよ」
僕は今にも少女をくびり殺すさんばかりの彼女を、思わず宥めようとした。
落ちてきた所に、有無を言わせずこの状況だ。
確かに不審な所はあるけれど、少しやり過ぎに感じてしまう。
話位は聞いても良いんじゃないかと思う。
シスターは僕の懇願を見て、不本意ながら鎖を緩めた。
少女は、咳き込みながらゆっくりと立ち上がる。
手を貸してあげたかったけど、シスターに片手で制された。
「あーもうホント信じらんない!」
体についた土を払いながら、涙目で悪態をつく。
少女の見目は、僕より少し上くらいだろうか?
黒い癖毛に同色の獣耳、そして浅黒い肌。
右肩と両胸にはそれぞれ、皮でこしらえた当物。
首にはベル付きのチョーカーに、腰にはサーベルを携えていた。
「それで、どちら様な訳?」
「王国第三騎士団所属、二等剣士スズよ」
「名前なんてどうだっていいのよ」
鈴として名乗り上げたスズさんを、シスターは再度鎖を引いて威圧する。
「私が知りたいのは、お前が何の目的でここにいるかよ」
「に、任務中に寄っただけよ! オマエなんかに用はないわよ!」
さっきの涼やかさはどこへやら。
スズさんはまたも、泣きそうな表情で説明する。
それでも発言が強気な辺り、負けん気が強い性格なのかもしれない。
「この先の村に用があるの?」
「え? そ、ソーソー。定期巡回? とかそういうヤツ」
僕の問にスズさんは、飛び付くように答える。
王国騎士団とか言ってたし、おかしくはないと思う。
「ねぇシスター?」
シスターの服を引いて、鎖を外すよう求める。
幾らなんでもこの状況は可哀想だ。
彼女は溜息をつくと、渋々とスズさんを解放する。
緊張が解けたように、スズさんは声をあげながら首を回した。
「もう用はないから、さっさと消えてくれる」
「言っとくケドね、他の団員だったらコーソクものよコレ」
「拘束されてたのは自分じゃない」
「あー! ハイハイもーいーわよ! サヨウナラ」
「ちょ、ちょっと待って!」
呆れて去りそうになるスズさんを、僕は呼び止めた。
彼女が向かう村はゾンビの巣窟だ。
一人で行くには危険だと教えてあげないと。
それに彼女に知らせれば、きっと王国が解決に動いてくれるだろう。
「ナルホドね」
僕の説明を聞いて、スズさんは顎に手をあて考え込む。
「住人が全て腐人化、ソレを操る男……」
「王国騎士団? でなんとか出来ないかな」
「確かにソレが事実なら、放っておけないワネ」
「本当なんだってば!」
僕の必死の訴えに、困った顔をする彼女。
「どちらにせよ、確かめないコトには……」
言葉はしかめ面で中断された。
スズさんは獣耳と鼻を仕切りに動かし、周囲に目をやる。
「ナルホド、あながち嘘って訳じゃなさそうね」
「え?」と僕が漏らすと同時に背後の草影から、音が聞こえた。
振り向くと、後ろには鎖に縛られた野犬が地面に伏していた。
野犬は所々が、腐蝕している。
村でも嗅いだ特有の臭いを放っていた。
シスターは無表情で鎖を振り回す。
縛られた野犬は宙を舞い、大木に激突した。
頭が潰れ地に落ちるとピクリとも動かなくなる。
「あ、ありがとう」
どうやら、背後から襲われたのを、助けてくれたみたいだ。
僕の戸惑い気味の礼をシスターは無表情で受けとる。
「マダよ」
「えっ?」
スズさんは深刻そうに僕に注意を促す。
「囲まれてるわ」
シスターの言葉で、周囲に視線をやる。
彼女達の言うとおり、数匹の野犬が僕等を取り囲んでいた。