特訓と夜襲2
「もっと膝を落として、腕を突き出す時は肩を前に出しすぎない。たたんだ肘をそのまま伸ばす感じです」
センリンが僕の腰辺りを掴むと、少し下方に力を込める。
両膝を曲げて重心を下げるんだけど、予想以上に不可がかかる。
ほんの数秒維持するだけでも、震えて膝が上がってきてしまう。
ひとつのひとつの動作にセンリンは、体の位置を細かく修正する。
体を半身に腕で真直ぐ突く。
たったこれだけの動作を何度も反復させられた。
「ナニやってんの? アンタ達」
そんな僕達を見てスズさんがこちらにやって来た。
なんとも胡散臭い物見るような、懐疑的な視線だ。
「見ての通り拳法を教えています」
「うん。僕が頼んだんだ」
嬉しそうに語るセンリンにスズさんは、呆れた声を上げた。
「ケンポーって、なんでマタ?」
「別に、なんだって良いじゃないか」
この前の山登りで自分の体力の無さに情けなさを感じたからだ。
けど僕はなんだか口にするのが照れ臭くなって、そう嘯いて顔をそらす。
センリンはそんな僕の様子を見て微笑む。
内緒にされてるのが気に食わないのか、スズさんは詰まんなそうに鼻をならした。
「マァ、なんだってイーケドね、オマエ余計な事教えンじゃないワヨ」
「はぁ。余計なことですか」
「そうよ。ヘンなジシンを付けて、アイテに殴りかかりでもしたらドースンのよ!」
「そんな無茶はしませんよ。スズは心配が過ぎます」
スズさんの言葉に、センリンは呆れた様に頬を掻いた。
確かに彼女の言う通り、僕が拳法を学んだってこの世界の人間に勝てるわけがない。
元々の身体能力が違うんだ。
それこそ熊に素手で挑むようなものだ。
だけど体の動かし方だけでも知っていれば、身を守るのに多少の役に立つ筈だ。
いざというときに皆に迷惑をかける割合も減らせるかもしれない。
拳法を習うには、なんとも消極的な理由だと思う。
でも、ほんの少しでも、皆の負担を僕は減らしたいんだ。
「ッタク! ブッ倒れるまでヤラせるんじゃないわよ!」
「わかっていますよ、無茶はさせません」
センリンに念を押しながら、スズさんはテントの方へと戻っていく。
その間もチラチラと此方を何度も伺っていて、何とも信用のないことだ。
「そんなに言うことないのにな」
さも虚弱体質の様な彼女の扱いに、僕は思わず悪態を漏らした。
そりゃあ心配してくれているんだろうけどさ。
個人的な運動にまで口酸っぱく言われても困ってしまう。
センリンは膨れる僕を笑いながら宥める。
「私達が仲良くしているから、嫉妬しているのですよ」
「うーん、良く分かんないよ」
「うふふ、スズも寂しがり屋さんなんですよ。あれで」
なんだか愉しそうなセンリンに首を傾げながら、そのまま鍛練を続けようと構える。
だけど、センリンは腰に手を当ててそれを制した。
小さくスズさんが歩いて行った方に指を向ける。
チラと見ると、スズさんが隠れて木陰から見張っていた。
「突きや蹴りをしてるとまたスズに怒られそうですし、足捌きをやりましょうか」
苦笑しながらそう提案するセンリンに僕は頷いた。




