浅はかな希望
スズside
「それは本当なのかい?」
盗賊達を騎士団に引き渡した後、私はアイツ等に隠れてサニャと落ち合っていた。
サニャはラルが生きているかもしれない、という情報に半信半疑ではあるが驚きの様相を見せた。
「君達を誘寄せる方便の可能性は? 恨みを買っていたんだろ」
「ソーだとして、何故ラル様の名前を出したのかナゾだわ」
盗賊の連中が、ペルシア様の行っている研究を知ってでもなきゃあり得ない事だ。
センリンが暴れた件も公にはされてない、たかが盗賊団が得られる情報ではない。
「確かにそうか。じゃあ本当にラル様を軟禁していた可能性は高いかな?」
「出したジョーホーに思わずワタシが食いついたから、ホーフクにリヨーしたってトコかしらね」
「なるほどね。それでその盗賊は?」
サニャの問掛けに私は首を振る。
捕えた後の盗賊達は思った以上に口を割らなかった。
義理堅いのか、私に対してのせめてもの抵抗かは知らないけれど。
ラチがあかずに、そのまま騎士団に任せる事となったのだ。
「ラル様シッソーに絡んでるカノウセーを伝えといたから、ジンモンは受けるデショーネ」
「そりゃあ気の毒だね。口を割るのは時間の問題かな」
サニャは肩を竦めて悲しそうな顔をした。
良くもまぁ心にも思ってない事をそれらしく振舞えるものだ。
「とは言え、気になるのは彼等を雇ったという女性だね」
「確かにネ。ソイツが行方不明のラル様の身柄を預かっているのカシラ」
「通りすがりの善人。だったら嬉しいけどそれはないだろうね」
自分の予測を即座に否定して、サニャは肩を竦めた。
確かに襲われたラル様を助けただけならば、最寄りの屯地に引き渡せば済む話だ。
可能性としては村を襲った共犯者、仲間と考えた方が良さそうだ。
「となると、下請けよりは同僚に話を聞いた方が確実かなぁ」
「ドーリョー? アテでもあンの?」
「居るじゃないか。君達が捕まえた死霊使い」
サニャの言葉にハッとする。
そういえばシュガーを襲った奴は、ラルの居た村を襲ったとか言ってたっけ。
なるほど、その女が共犯ならアイツから辿れるかもしれない。
あの男、ダイアーとも繋がりがあるみたいに言っていた。
アイツと偶然会ったのも、魔導士が殺された港だ。
もしかすると、アイツも一連の事件に関係しているのかもしれない。
「まぁ一度ペルシア様に連絡して指示を仰ぐとするかな。私も私で色々探ってみるさ」
サニャの言葉に私の意識が戻ってくる。
確かにここで、ウダウダ考えても仕方ない。
結局はペルシア様の判断が全てなんだから。
だけどラルが本当に生きているとなると、私達の任務も変更になるかもしれない。
流石に研究の重要性で言えば、ラルの方が遥かに高いからだ。
上手くいけば、アイツはそのまま放っておかれる事になるかも。
ラルさえ生きていれば、たかが研究素体一つどうって事ないだろう。
わざわざ連中を相手にするリスクを考えればなくはない。
そうなればこんな事をせずに私も済む。
またアイツが酷い目に合うことだって無いはずだ。
その時、頭にあの泣き声がまた響き渡った。
あの日以来、ずっと頭にこびり付いている悲痛な叫び。
私は頭を振って必死にそれを追い出した。
「あんまり期待しない方がいいと思うよ」
「確かに、他のマドーシが殺されてラル様だけ生きてる。なんてツゴーが良いとは思うケドネ」
「……そう言う意味じゃないんだけどね、まぁいいや」
私の言葉にサニャは肩を竦め、その様子に首を傾げる。
彼女が何を言わんとしているのか、この時の私にはまるで解らなかった。




