再会と(前編)
騎士団の男は少し怪しむ目をしていたけれど、お咎めは無しになった。
余計な確認をとって王族の怒りを買いたくなかったのかも知れない。
それよりも、鼻をならし人数が合わないことを訊ねてきた。
先程まで豹柄の女と交戦していた事を伝える。
すると特徴を細かく聞いた後、男はその場を後にしたのだった。
本当に匂いでそこまで分かるものなんだなと、素直に驚いた。
山を降りて近くの村に立ち寄ると、僕は体をベッドに投げ出した。
本当に疲れた、ようやく足を投げ出すことが出来てホッとする。
強がってはみたけど、予想以上に体は限界だった。
「チョット! アンタ大丈夫?」
「疲れただけだから、大丈夫」
「そんなカッコで言われても説得力ないわよ」
僕がいきなり倒れるものだから、スズさんは驚いてオロオロとしていた。
なんだかこんな姿を見るのも久々で、思わず目頭が熱くなる。
それを見て、彼女の心配に拍車が掛かった。
「ドッカ痛む? 足挫いた?」
「鬱陶しいわね。山歩きで疲れただけよ。放っときなさい」
そんな姿を見かねてシスターがそう諭すも、スズさんは食って掛かる。
「オマエラと違ってコイツは弱っちいの! そんなザツに扱うんじゃないわよ」
確かにそれは事実なんだけど、もうちょっと言い方とかあるんじゃないかな。
そこまで過保護に扱われても、ちょっと困ってしまう。
「なんだか前より、心配性になってますね」
「心配してた、屋敷でも、かなり」
「ベツにフツーよフツー! オマエラがガサツなのよ」
スズさんは後ろの二人に噛みつきながら、心配そうに僕の体を指でなぞる。
ちょっとくすぐったいけど、彼女の様子を見ると口に出し辛い。
「それよりも、あの女の人は誰だったんだろう」
「犯人、殺人、港の」
僕が疑問を口にすると、ソーラが答える。
センリンが驚いたように声を上げた。
僕はなんとなくそう感じていた為、驚きはなかった。
シスターもそうなのか特に反応は示さない。
「どうして分かるのですか?」
「匂い、嗅いだ、駐屯地で」
ソーラはそう言うと、服の中から鼠が出てくる。
視聴覚以外に嗅覚も伝わるのか。
本当に便利な魔法だ。
「つまり、そこの鼠が感付いてるのに気付いて消そうとしたわけね」
ついでに山から抜け出す間の注意も寄せられる。
彼女からすれば一挙両得という訳だ。
結果としては僕達の口封じは失敗に終わったけれど。
「僕よりも、ソーラは大丈夫? 殴られてたのに」
「平気、私、丈夫」
女の事を思い出すと同時に、その事が頭をよぎる。
彼女はムンと得意気に胸を逸らすと、僕の側へと歩いてくる。
「有難う、助けてくれた、良い子」
そういって僕の頭を撫でる。
小さい掌が頭を這い、眠たい気持ちが増してくる。
それを見て、何故かスズさんはつまらなそうに「フンッ」と鼻をならした。
「トリアエズ、休みなさいよ、カラダ壊されちゃコマるんだから」
そう言ってスズさんは僕の手を優しく握った。
僕は安心した心持ちになってそのまま意識を手放した。




