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殺人事件と土人形4

「危ない!!」


 僕は咄嗟にソーラを押し倒す様にして土人形ゴーレムの一撃を躱した。

 強大な拳は、地面を叩いて大きく周囲の木々を揺らす。


 相手の攻撃と同時に飛び出して行ったのはセンリンだ。

 滑る様に飛び出して相手の懐へと潜り込む。

 そして一気に地面を蹴ると同時に、両足で強烈に蹴り上げた。

 

 鋭い蹴足は土人形の胸と顔を順に抉る。

 だけど厚く土で覆われている相手には、それはほんの一部でしかなかった。

 宙に浮くその隙を見て、土人形はセンリンに拳を振り下ろした。


「シルバーチェーン!!」


 しかし高らかな声と共に、その腕は鎖によって肘の根本から折られた。

 センリンはそのまま相手の胴を足場に飛ぶと、僕等の場所へと舞い戻ってきた。


「チッ、何やってんのよ」

「いやはや面目ない。どうにも足場が悪くて」


 相手を睨みつつ悪態を付くシスター。

 それに対して、センリンは申し訳なさそうに頬を掻いた。


 山の斜面では、上手く踏み込めず彼女の拳法も十分に威力が発揮できないようだ。

 それでも本来なら問題は無いのだろうが、巨大で高密度な土人形が相手では分が悪い。


 土人形は周囲の土を取り込んで、傷ついた体を修復していく。

 どうやら、ちまちまと攻撃すればなんとなかる、という話ではないみたいだ。

 僕達を押しつぶす様に、治った腕をさっそく振るい襲い掛かってくる。


「くっそぉ!」


 僕は地面に手を付いて魔力を流した。

 途端に目前の地面は盛り上がり即席の大きな壁が出来上がった。

 直後、拳がぶつかり、衝撃で大きく大地が揺れる。

 巨人の攻撃は即興の障害を貫いたが、こちら迄は辛うじて届くことはなかった。

 

 僕は即座に土壁に触れて、再度魔力を流し込む。

 すると壁に埋まった腕を取り込むように、穴は塞がっていく。

 どちらも土できた物だ、巨人の腕と壁はたちまち同化してしまう。


 巨人は腕を引くが、壁に取り込まれた腕を引き抜くのは簡単ではなかった。


 その隙を突き、センリンは駆け出していた。

 シスターは鎖を伸ばし、土人形の胴体を縛り上げる。

 彼女が力を込めると、巨人の体はミシミシと悲鳴を上げ始める。


 痛みを感じない土人形は、余った腕を振るいシスターを押しつぶそうとする。

 しかし、背後に回ったセンリンが膝裏に勢いよく肘を叩きつけた。

 体勢を崩した巨人は、斜面に沿うように後方へと体を傾けていく。

 シスターはそのまま巻き付けた鎖を一気に逆方向へと力を込めた。


 体に纏わりついた鎖は一気に引き絞られ、土人形の体を粉砕した。

 センリンは自分に降りかかる土から逃げるように、こちらへ逃げてくる。

 暫く様子を伺うが、土人形が再生する事はないみたいだった。


「どうしたんだろう。内蔵されている魔力が切れたのかな?」


 あのタイプは恐らく、核をどうにかしないと延々と再生する物だと思うんだけど。

 まだ魔力が切れるほどの活動はしていないと思う。

 いやこの世界の魔術発達具合からするとこんなものなんだろうか?

 首を傾げてると、ソーラが隣で僕の服を引っ張った。

 振り向くと、彼女の肩に載った鼠が宝石のようなものを咥えていた。


「それ、もしかして土人形の」

「取ってこさせた」

「ほぉ、凄いですね」


 感心するセンリンの声にソーラは得意げに胸を反らした。

 僕は鼠から宝石を受け取るとそれを眺める。

 確かに魔力が込められているのが感じられた。

 土人形の核で間違いないみたいだ。


 僕はそれを小さな魔力で覆うと、そのまま破壊した。

 変に罠でも仕掛けられていても面倒だし、さっさと処理するに限る。

 脅威を退いた安心感で、僕の膝は力が抜けた様に崩れ落ちた。

 そんな僕をソーラが抱き止める。


「ごめんなさい……流石に疲れちゃったみたい」

「まぁ、仕方がないわね。兎」

「任せてください。おぶりましょう、抱っこが良いですか」

「あ、歩けるよ!」

「良くない、無理、必要、休憩」


 そんなやり取りをしている時、背後から気配が近づくのを感じた。

 皆が一斉に振り向くと、そこには騎士団の男が立っていた。


「騒がしいと思ったら、お前等こんな所で何をしている。通行審査があるのは知っている筈だろう」


 男はあからさまに怪しんだ目で僕達を見下ろしていた。

 不味い、さっきの騒ぎで騎士団の人達が駆けつけてしまったようだ。

 通行審査中の通り抜けは重罪らしい。

 変に逃げ出せば、それこそ面倒な事になるかもしれない。

 何せ、臭いである程度、個人を特定出来てしまうのだから。


「まぁいい。取り合えず付いて来い。話を聞かせて貰うぞ」

「ソノ必要はないわ」


 男が僕達に近づこうとした所で、別の声が後ろから聞こえた。

 それはとても聞き慣れた声だった。


「ソイツラはワタシの連れよ。トクメーの任務中なのよ」


 現れた女性は男を追い越し僕らの前まで来ると、振り向いてそう説明した。

 小柄な体に薄い褐色肌の猫耳の彼女。

 見間違えるはずもない、スズさんその人だった。

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