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夜空の語らい

シスターside

 毛布にくるまる小さな体を見て、私は妙に穏やかな気持ちにさせられる。

 ふと目が覚め、なんとなくこの子の様子を確認してしまっていた。


 特に不安な様子もなく、ちゃんと眠れているようだ。

 メイドを側仕えさせていたと言うし、危惧していたほど酷い扱いは受けていなかったのかもしれない。

 それはそれで複雑な気分ではあるが。


 しかし不思議なものだ。

 最初は、左右も分からないこの子が勝手に着いてきていた筈だ。

 なのに、今となっては私が着いて行く形となっている。

 勿論ダイアーの情報が無いと言うのもあるが、以前の私なら考えられない事だった。


「いやそれも違うか」


 自嘲気味にそう呟く。


 ふとセンリンとソーラが見当たらない事に気がつく。

 兎はともかくとして、あのメイドが見当たらないのは気掛かりだ。

 部屋を開けるのは憚られたが、私は宿を少し抜け出すことにした。




「おや、モーさん。夜の散歩ですか?」


 二人は直ぐに見つかった。

 屋根の上で揃って空を見上げていた。

 昨日今日で仲良く星見とは、本当に気楽な連中だ。

 私は屋根に登って二人に並んだ。


「失礼、逢引きの邪魔だったかしら」

「うふふ、案外夢見がちな事をおっしゃるのですね」

「かわいい、発想」

「ハッ、良く言う」


 二人に倣って空を見る。

 成程、確かに今夜は星が良く見えた。


「何か御用ですか?」

「別に……いや、聞きたい事が無い事もない」

「はぁ、なんでしょう」

「お前、何故私達に付いてきたの?」


 この兎は特に意味もなく私達と一緒に行動を共にしている。

 なんとなく私達に協力し、なんとなく付いてきた。

 付き合う内に、彼女の性格ならそれも有るかとも思っていた。


 だが、それでも。

 やはり気になった。

 何がコイツのそんな気まぐれを刺激したのか。


 センリンは星を見ながら、暫く考え込んだ。

 そして、なんとか言葉に出そうとぽつぽつと語りだす。


「私は……昔から友人という物に憧れていました。生まれてから、ずっと森で生活していて同年代の知り合いも居ませんでしたから。

 最初は、少年が盗賊に攫われた。と聞いて自分の中の正義感からついて行きました。

 でも、その短い道中でさえ、私にはとても、楽しかったのですよ。感心して、呆れられて、怒られて。友人と会話するというのはこういうものなのだろうか、と。その後も、寝食を共にして、じゃれて、文句を言われて……夢の様でした。

 こう見えて私は臆病なんです。だから、師匠が死んでからもずっと森から出ずに生きてきました。だから、今を逃すと後一生、こんな機会は訪れまい。そう無意識に感じてたのかもしれません」


 そう言い終わるとセンリンは恥ずかしそうに笑った。

 そんな彼女の服をソーラが引っ張っる。


「私も、センリン、友達」

「うふふふ、お二人は恥ずかしがり屋ですからね。ソーラは素直で嬉しいです」


 センリンはソーラの頭をワシャワシャと撫で回す。

 人懐こく目を閉じて彼女の好意をソーラは受け入れる。

 謎と言えば、こいつも随分だ。


 あいつらの屋敷に仕えていると聞きながら、センリンに協力したという。

 だけに留まらず、私達の後を付いてきた。

 あちらと連絡を取り合っているそぶりも見られない

 いや、あの使い魔を使って行っていないとも限らないが。


「私、沢山いる、兄妹、国に」


 そんな私の視線に気づいたのか、ソーラは自分から身の上を語り出した。


「国? 何処から来たのですか?」

「ラヴィニャ、向こう、海の」


 ソーラの答えにセンリンは感心した様に声を上げる。

 恐らく分かっていないのだろうけど。

 ラヴィニャね、噂では聞いたことがある。

 恐らくは売られたのだろう。


「我慢してた、屋敷で、辛いの。似てる、弟達、とても」


 ソーラは寂気に空を見上げた。

 事情は知らない。

 けど、遠国に売られて姉弟離され、あの子に弟の面影を見たのだろう。

 全てを信じるわけではないが、理由の一端ではあるのかもしれない。


 私は小さく笑うと屋根から飛び降りた。


「つまらない事を聞いたわね。寝るわ」

「モーさんは、何でここに居るのですか?」


 私の背中にセンリンが問いかける。

 私は一瞬だけ立ち止まると、振り向かず短く答えた。


「特にないわ。いけない?」

「いえいえ、おやすみなさい」



 部屋に戻るとあの子のベッドの前に立つ。

 変わらず幸せそうに眠っていた。

 私はホッと安心した。


 そうだ、私は元々こんな人間だった。

 だからこそ、意識して人を遠ざけていたのだ。

 ダイアーを殺すまで、自分の甘さに溺れないように。

 だというのに……


 眠る幼い顔をそっと手でなぞる。

 その柔らかい感触に自然に笑みが零れた。

 まさか自分が一番甘い人間だとはね。

 本当、笑話にもなるまい。

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