マウストゥマウス2
「あーん」
「じ、自分で食べられるよ」
切り分けた魚のソテーを刺し、ソーラが僕の口元へと持ってくる。
僕は遠慮するが、彼女は頑なに譲らない。
意地を張れば、余計に周囲から注目を浴びてしまう。
僕は渋々、差し出された魚を口に含んだ。
ソーラはそれを満足気に眺めると、次の料理を手に取った。
「あーん」
「はぁ、メイドと言うのはああいうのが仕事なのですね」
「はっ、しょうもない」
センリンは関心したように。
シスターは胡散臭そうに。
それぞれ僕達の様子を眺めていた。
ここは王都から少し離れた町にある飲食店。
あの後、一先ず落ち着く為にソーラの事は後回しにして移動したのだ。
それから彼女はこの調子だ。
僕の身の回りを気遣ってチョコチョコ動き回っていた。
今も自分は食事をとらず、僕の手足の代わりとばかりに食器を操っていた。
「で、その鼠は結局なんな訳?」
「メイド、ソーラク」
「みりゃあ分かるわよ」
「えぇっと、屋敷で僕の世話係だったんだ」
要領を得ないソーラの代わりに僕が答えた。
シスターは短く相づちを打ちつつ、僕とソーラを見比べる。
「あんた、屋敷でもこんな風に食事してた訳?」
若干引いた様な目でシスターが僕を見る。
事実だから否定もできず、そっと視線をそらす。
屋敷内では刃物等の類は一切触れさせて貰えなかった。
反攻させない、というよりは自傷防止の為だとサニャは言っていた。
その為食事は毎回ソーラから食べさせて貰っていた。
他にも結構な制限が設けられていたけど、ここでは割愛する。
「ふぅん。まぁいいけど、そのメイドが何しに来たわけ?」
まさかこんな事をする為ではないだろう。
と言外に込めてシスターは問。
これに関しては僕にも分からない。
いくらなんでもメイドを追手にするとは考え辛い。
それだけに行動が不明瞭で、シスターは未だに不信を目に込めていた。
「お仕事」
「その内容を聞いてるのよ」
「?、やってる、これ」
「ふざけてんの?」
「ふざけてない、お世話、私の仕事」
真面目な顔でソーラはそう言う。
あまりにも堂とした物言いだ。
だけどシスターがそんな言葉で納得する筈ない。
ただ彼女の怒りを募らせるだけだ。
「まぁ良いのではないですか」
「思考足らずのお前はそうでしょうね」
「別段敵意は感じませんし、悪い子に見えません」
思わぬ擁護を受けてシスターは舌打ちをした。
「こいつが騎士団と連絡できる魔法が使えるだけで終わりなのよ」
「そんな力があれば、既に手遅れでしょうし、大丈夫ですよ」
「お前の大丈夫は信用ならないわ。大体意味分かってるわけ?」
「分かってますよぉ」と人参をかじりながら緊張感のない声でセンリンは言った。
その様子にシスターはそれはもう深い溜息を吐いた。
片手で頭を抱えて立ち上がる。
「やってられないわ。後はお前が何とかなさい。大丈夫なんでしょう?」
そう言ってシスターは店から出ていってしまった。
センリンは「お任せを」と、相変わらず人参をかじりながら答えていた。
「怒らせた? 私」
「モーさんは根は優しいので大丈夫ですよ。今も私を信頼しての事でしょう」
「信用できない、確かに、なるほど」
軽い調子で言うセンリンをみてソーラがそう呟く。
僕は渇いた笑いしか出なかった。
後にしたシスターを気にしつつ、暫く食事をしていた。
すると、突然ソーラが弾かれた様に外の様子を気にした。
「危険、シスター」
「シスターがどうしたの?」
「大変、死んじゃう、囲まれてる」
突如不穏な事を言うと、僕とセンリンを急かす。
彼女に押されるように店を出ると、ソーラは走り出した。
センリンと僕は首を傾げながら彼女の後を追った。
走っていたソーラは立ち止まる。
視線の先は謎の集団。
なんだか不穏な気配を感じる。
その集団の中にシスターが立っていた。




