僕と鎖と修道服4
汚れた服を着替えて、僕は一息ついた。
替えの服は、意外にもシスターが用意してくれた。
と言っても、民家の中にある服を勝手に拝借したんだけど。
細かい事はどうあれ、結構優しいのかもしれない。
単に腐臭漂う人と、一緒にいたくない可能性もあるけど。
「なんかこれ、ちっちゃくない?」
僕は軽く体を動かして、そう口にした。
上はまだいいとして、下が物凄くキツイ。
確かに穿けなくはない。
けど、腰回りを締め付けられてる感じが落ち着かなかった。
「文句があるなら着なくてもいいわよ」
彼女は僕の文句を苛立ち気に、切って捨てた。
確かに、用意して貰ってケチをつけるのは、どうかと思うけどさ。
もう少し、他に何かなかったものか。
だって股関節部分までしか、布がない。
普段から半ズボンな僕だけど、ここまで短いのは初めてだ。
「これしかなかった」
とは、彼女の談だ。
でも当人の服装を見ると、やっぱりパツパツだ。
もしかして、そういう趣味なんじゃないかな。
「何よ?」
「いや、別に」
疑いの視線を敏感に察知して、咄嗟に顔を逸らして誤魔化す。
まぁ考えても仕方がない。
その後、村の備蓄であろう干肉やらで、食事を済ませる。
味気ないけど、また文句を言うのもあれなので、黙っていた。
その後は、特にすることもないので就寝。
正直、彼女には色々聞きたかった。
でも多分、答えてはくれないだろうから諦めた。
でも一つだけ印象的だったのは。
「じゃあ、その……」
「何?」
「いや、ううんなんでも」
「そう、おやすみなさい」
彼女から、そう言ってくれたことだった。
翌朝目が覚めると、既に彼女は起きていた。
先に目覚めないと、置いていかれると思っていた。
しかし、彼女はそこにいた。
飛び起きた僕を、無表情に眺めている。
もしかしたら、寝てる姿をずっと見てたのだろうか?
そう考えるとちょっと恥ずかしい。
朝一番に見た彼女の顔はとても穏やかに見えた。
「じゃあさっさと村からでましょう」
開口一番そういうもので、僕は驚いた。
「昨日のアイツは?」
「知らないわ」
「そうじゃなくて、放っておくの?」
僕の言葉に彼女は溜息を吐いた。
「多分あいつは口を割らないし、それならここに用はないわ」
当然とばかりにそう言う。
確かに、昨日を見る限りそんな感じはしたけど。
力付くでも口を割らせるタイプかと思ってたから、意外だった。
「でも、ここをこんなにしたのはきっとアイツだよ」
僕は振り返って村の様子を見渡した。
日が上って暫くたつ。
なのに僕達以外の人気は、何処からも感じない。
きっとアイツが住人を皆ゾンビにしてしまったからだ。
僕の言葉にシスターは「そうね」と同意する。
「でも私が解決する道理はないわ」
だけど冷たくそう言った。
「それこそ、最寄の町にでも行って知らせるべきだわ」
確かに彼女の言う通りだ。
その方が多くの、それも力を持った人達が参加する。
そうなれば、解決は直ぐだろう。
少人数で相手の根城に向かうなんて自殺行為に等しい。
でも感情としては、このまま見過ごすのは憚られた。
だから結局僕の我儘でしかない。
口惜しくて僕は唇をギュッと噛み締めた。
そんな僕の頭を彼女は優しく撫でる。
「アンタの正義感は間違いじゃない。ただ、その方向を変えるだけ」
言ってる事はよくわからない。
でも慰めようとしてくれてるのは分かった。
自然に溢れた涙を腕で拭う。
シスターは暫くの間涙が止まるのを待ってくれた。
泣き止むのを確認すると、一言かけて今度こそ歩みを進めた。
「待ってよシスター」
慌てて僕は追いかける。
すると彼女は前を向いたまま静かに訂正する。
「だから私はシスターじゃない」
「じゃあ名前教えてよ」
「嫌よ」
なんとも理不尽な事を言う。
じゃあ勝手に呼ぶからいいよ、もう。
そう思うもなかなか良い名前が思い浮かばない。
「やっぱりシスターで」
暫く考えて、そう結論をだした。
案の定、彼女は不満気な顔をした。
「だから私は……」
「でも僕にとっては年上の女性だし。やっぱりシスターだよ」
そう言って彼女の言葉に被せる。
暫く彼女は呆然と僕を眺めていた。
「勝手になさい」
だけど顔をほんのり染めて、そう呟くと足早に先に進んでいく。
僕はその後ろを笑いを堪えてついていくのだった。