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無様で惨めな黒猫

スズside

「全く情けない!」


 ペルシア様は苛立った目で私達を見下ろした。

 報告を受けた直後、彼女の怒りはそれは物凄かったという。


 侵入者に入られ、重要な実験素体まで奪われ、あまつさえ逃げられた。

 そりゃ怒るのも当然かなとも思う。


「栄えある、第三騎士団の剣士達が揃いも揃って!」


 しかし、何よりもペルシア様がお冠なのは()()だった。

 自身が誇る騎士団。

 その本拠地に入られ、たった一人の賊に武力であしらわれた現実。

 その屈辱こそが一番の怒りの材料だった。


「唯でさえ、姫のままごとと言われておるのに、こんな様ではお父様に報告もできぬ!」


 ペルシア様の怒りを受け、剣士達は頭を下げうなだれる。

 私もその内の一人だ。

 あの二人を前に動揺し、あんな簡単な嘘で隙を見せるなんて。

 情けないどころの話しじゃない。


「それで、奪われた少年はいかが致しましょう」


 そんな中、勇ましくも彼女に意見を求める者がいた。

 サニャだ。


「そうだな。確かにアレの存在は貴重ではあるが、一匹では研究にも限界がある」


 ペルシア様は彼女の発言に一瞬の怒りの色を見せる。

 が直ぐに考え込むように顎に手を当てる。


「奪い返すとしても、そう楽には行くまい。そこまで人手をさく……程かと言うとうぅむ」


 やはりアイツは、屋敷でも微妙に持て余し気味だった様だ。

 それに加えてセンリンの存在もある。

 怒りを見せてはいるが、ペルシア様もアイツの強さが尋常じゃないと感じてはいるようだ。


 正規の騎士団に協力を仰ぐ事も出来るだろう。

 だけど、それには今回の不様を話さなければならない。

 プライドの高い姫様には、そんな事は堪えがたいだろう。


「サニャ! スズ!」


 唐突に呼ばれて、私は慌てて背筋を伸ばした。


「お前達に、検体奪還の任務を授ける。手段は問わない! 必ず取り返してくるのだ。しかし無理はするなよ」

 《ハッ!》


 私とサニャは背を伸ばし同時に答えた。




「必ずトカ言っておいて、ムリするなってムジュンしてない?」

「そう言うなよ。ペルシア様も無茶な要求だと思ってるのさ、でも何もしないと沽券に関わるしね」

「取り合えずのポーズってワケ?」


 確かに、あれだけの人数で捕らえられなかったのだ。

 それを二人でどうにかしろだなんて、無茶もいいところだ。

 ペルシア様だってバカじゃない。

 だからこその言葉なのだろう。


「いや、案外そうでもないよ」


 しかしサニャは涼気に自身の発言を覆した。


「彼は身内には甘い。という報告はしてあるからね」


 得意げにサニャは言った。

 多少なり交流のある私達なら付け入る隙があると踏んだ、という事か。


「ナルホド、手段を選ばないか」


 だけど、果たしてアイツが私にそこまで気を許すだろうか。

 あんな事した私に。


「ソレよりオマエ、体は平気なの?」


 気分が良くないので私は話題を変えた。

 確かセンリンに盛大にぶっ飛ばされたと聞いた。

 見てくれではそうでもないが、ダメージはまだ残っているだろう。


「正直厳しいかな。参ったよ、聞いた以上にデタラメだね彼女」

「デショーネ。そんなんで行けるワケ?」

「まぁ精々頑張るさ。無茶な任務って事は、成功させればそれだけ評価もあがるさ」


 肩を竦めてそう語る。

 なんとも私には縁の無い話だ。


「そんな事ないさ」

「コソドロ上がりが第三騎士団こんなところに入れただけでも上出来よ」


 でも結局そこまでだ。

 どれだけ剣の腕があっても、評価を上げても、出世なんて有り得ない。

 吐き捨てた私に特に反論もせず、サニャは再度肩を竦めた。


「そう言えば、ソーラクを知らないかな?」

「ソーラク? あぁ、メイドだっけ? 知らないワヨ」

「そうか、あれから見かけないんだ。どうしたんだろう」


 そう言って心配そうに表情を変える。


「彼女もなんだかんだ、彼とは仲良かったからね。いなくなってショックなのかな」

「ハッ、気楽でイーわねアンタ達」


 そう言って私は切って捨てる。

 自分でも分かってる。

 こんなの子供染みた、ただの八つ当たりだって。


 そしてアイツみたいなこの物言い。

 あそこにまだ未練を残してるのが丸分かりで、一層に私は惨めな気分になった。

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