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僕と鎖と修道服3

「グールの数が足りないのはお前の仕業か」


 男はシスター(仮)を値踏みするように眺める。

 彼女は男の問に「さぁね」とつまらなさそうに返した。


「あ、あいつ……」

「知り合い?」


 シスターの問に首を横にふる。

 僕が気になったのは、男の正体じゃない。

 彼の頭にありえない物がついているからだ。


「け、獣の……耳?」


 肉食獣を思わせる獣耳(じゅうじ)が男の頭に付いていた。


 僕が何に驚いているのか、シスターは理解できない様だ。

 考えるだけ無駄と感じたのか、興味を目の前の男へと戻した。


「こんな所に何の用だ?」

「ダイアーは何処? ここに居るって聞いたのだけど」


 男の問にシスターは問で返した。

 ダイアーと言うのは、人の名前なのかな?

 男は名前を聞いた途端、表情を変えた。


「あの方に何の用だ」

「アンタは質問にだけ答えていればいいのよ」


 シスターは腰に着けていた鎖を外した。

 すると、側面で円を描くように振り回し始める。

 まるで威嚇するように、鎖の空気を裂く音が響き渡る。


 よく分からないけど、一触即発の空気だ。

 男は彼女の様子を見て不敵に笑いだした。


「大方、愚かな復讐者か」


 嘲笑う男にシスターは尚も表情を変えない。

 男は笑みをそのままにパチンと指を鳴らした。


 それを合図に、シスターの背後。

 正確には僕と彼女が挟む間の地面。

 そこが突如として盛り上がる。


「な、なんだ!」


 まるで僕の声に答えたかのように、盛り上がった地面が破裂する。

 すると、三メートル位の大男が地面から飛び出してきた。


 顔は全体的に腐蝕していて、様々な欠損が見られる。

 きっとこれもゾンビだろう。

 だけどいくらなんでもデカ過ぎる。

 頭の肉は削げ、一部骨が剥き出しになっていた。

 そこから覗く骨からは角が飛び出ていた。


 大男は飛び出した勢いに任せて、シスターに拳を降り下ろした。


「あっ!」


 と僕が叫ぶのとほぼ同時。

 彼女は前を見据えたまま鎖を背後になぎ払った。


「シルバーチェーン!」


 彼女の叫びと共に、鎖は五倍程の大きさに膨れ上がる。

 高速で放たれた巨大な鎖は、一撃で大男の胴を千切り飛ばした。


 切り離された大男の上半身は、無惨にも地面へと叩きつけられた。

 それでも流石はゾンビだ。

 腕を使って這いながら、シスターへと追い縋る。

 だけど彼女は一瞥もせずに、鎖を大男の頭へと降り下ろす。

 熟れた果実を潰した様な、爽快感のない音が響く。

 それを最後に大男は動きを止めた。


 僕は背後で、自分でもどうかと思うほど情けない声をあげた。

 シスターが胴をなぎ払った時、ゾンビの体液が降りかかったからだ。

 僕は身体中から漂う腐臭に、なんとか吐き気を堪えた。


 一方、男はゾンビが簡単には倒された事に驚きの表情だった。

 だけど、すぐに嘲笑う顔に戻ると愉快そうに笑いだす。


「成程、威勢がいいだけじゃないようだ」

「もう一度聞くわ。ダイアーは何処?」

「教えると思うか?」


 挑発する男へ、無表情で鎖を飛ばす。

 だけど男は、信じられない跳躍力で民家の屋根へと逃げた。

 小馬鹿にするように笑う男を、シスターは無言で睨み付ける。


「残念だが、今日はここまでだ」


 そう言い残して、男は屋根から屋根へと飛びうつり、逃げていく。

 高台にある屋敷の方へと姿を消した。


 溜息を吐くと、シスターは興味をなくしたように視線を僕に向ける。


 腐液まみれの僕を見て、顔をしかめる。

 まさしく汚物を見るような目つきだった。

 彼女は一声もかけず、背後の家へと入っていった。

 僕は色々な意味で泣きそうになった。

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