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おめでたい奴等

シスターside

 あの後、私とセンリンは解放された。

 勿論あの子を連れていかれた後だけれど。


「しかし、最初からスズはあの子が目的だったのですね」


 棒状にカットした野菜をかじりながら、センリンはそう漏らす。

 ここは王都にある小さな飲食店。

 一先ず落ち着きたくて、適当に入ったのだ。


 確かに彼女からすれば、意外であろう。

 だが今にして思えば、山で会った時からあの猫は何処か不審ではあった。

 あの子が妙に懐いていたのと、彼女自身が抜けてる所為で、私も少々油断していた。

 しかもダイアーの情報も出任せだったとは、咄嗟に利用されたと言うことか、腹立たしい。


「お前は意外に冷静ね」


 やたら大人しく野菜をかじっているセンリンを不思議に感じ、そう訊ねた。

 出会ってまだ日は浅い。

 だが、嘘や裏切りの類いは嫌いだと思っていたので彼女の反応は少し意外だ。

 センリンは視線を上に向け一考すると。


「まぁ、スズにも色々あるのでしょう」


 そう答えた。


「スズが騎士団に引き渡すために、謀っていたのは事実なのでしょう」


「ですが」とセンリンは言葉を続ける。


「今までの彼の身を案じるスズの姿が偽りだったとは思えません」

「だから平気だと?」

「そうは言いません。ですが、私が友人として接した彼女の姿は決して偽りではなかった」


 一点の曇りない眼でセンリンはそう言った。

 おめでたい事だ、私は彼女を鼻で笑う。


「だからモーさんも、落ち着いてここにいるのでしょう?」


 そんな私にも、こいつは疑いもせずそう語る。

 本当に、全く本当におめでたい。

 呆れ果てて笑いも出やしない。


「別に、取り立てて私が騒ぐ事じゃない。それだけよ」


 そうだ。

 私の目的はあくまでもダイアーへの復讐。

 コイツ等とお気楽珍道中をする為じゃない。

 偶々出会って、勝手に着いてきたにすぎない。

 それだけだ。


「では、モーさんは彼を助けに行かないのですか?」

「理由がないもの」


 盗賊の時は、相手が相手だし、命の危険性もあった。

 だけど今回は王国の騎士団だ。

 胡散臭い連中ではあるが、それでも盗賊ほど危険性はない、と思いたい。

 そうでなくとも、懐へ入るには面倒な相手でもある。


「ふむ。そうですか」

「そういうお前はどうするの」

「無論助けに行きますよ」


 当然とばかりに胸を張ってそう答える。

 私は「そっ」と、素気なく返した。


「私は皆さんと違って、他に目的がある訳ではないですからね」

「あっそ、精々好きにやるといいわ」


 ふと、あの子の最後の顔が脳裏にちらついた。

 涙と共に嗚咽を溢す小さい体。

 出会ってから、涙を見せることはあっても、あそこまで泣く姿は初めて見た。


 思えばあの子は、知らない世界に一人で来たと言っていた。

 不安に感じながらも、気丈に振る舞っていたのだろう。

 今回、信頼してた猫に裏切られた事で、精神的な限界が来たのかも知れない。


「どうしました?」

「別に、もう行くわ」


 頭から苛立ちを振り払うように立ち上がった。

 センリンは特に追求せずに笑顔で私を見送る。


 こいつは私を薄情だと思うのだろうか?

 いや、多分考えもしないのだろう。

 なんとなくそう思った。


 席を離れる間際、彼女が口にしてる野菜が目に入る。


「そう言えば、お前金は?」

「……あっ!」


 暫く考え、予想通りの反応を見せる。

 港町で無銭のまま屋台で食事をし、騒ぎを起こしたのを忘れたのだろうか。

 私は溜息をつく。


 全く、どうやら私も随分とおめでたいらしい。

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