魔女と死霊使い2
森を抜けた丘の上。
そこにポツンと小さな家が建っていた。
「どうもシュガー様、ゴキゲン麗しく」
「んー? 誰だっけぇ?」
シュガーと呼ばれたのは、想像と違い若い女性だった。
国の魔法使い、なんて言うからもっと年寄りをイメージしていた。
見た感じ、スズさんよりも少し上くらいに見える。
褐色の肌に垂れた白い耳と、大きく開いた服から零れそうな胸が印象的だ。
スズさんが自分を思い出させそうと必死に説明するが、上手くいかないみたいだ。
ふと、シュガーさんが僕をちらりと流し見る。
「あぁ、はいはいペルシア様のね。思い出したぁ」
「ソウ! ソーなんですよ」
ほわほわと喋るシュガーさん。
それに両手を摩りながら、スズさんがペコペコと同意する。
普段の態度とは随分な変わりようでちょっと驚く。
(偉い方なのでしょうか?)
センリンが、声を潜めて聞いてきた。
僕は動き少なめに首を横に降る。
「僕ぅ。ちょっとこっち来てぇ」
不意にシュガーさんに呼ばれ、僕は思わず駆け寄る。
すると彼女は物珍しそうに僕の体をペタペタ触り出した。
ブツブツと何かを喋りながら、身体中に手を回す。
「あ、あの。それで取れそうですか? これ」
「んぅ? あぁ忘れてたぁ」
思わずがっくりと首を下げる。
その為に体を弄られてたのかと思ったのに。
彼女は改めて、僕に嵌められている腕輪を眺めた。
「確かにぃ、結構本格的な魔具ねぇ。よく盗賊がこんなもの持ってたわねぇ」
感心したようにそう呟く。
暫くしげしげと腕輪を眺めていたが、それにも飽きたのか二、三言呪文を唱えた。
すると、パキンと音をたてて腕輪が僕から外れた。
「はい。終わりぃ」
腕輪を手に取ってシュガーさんはニッコリと笑った。
その姿を見て僕はホッと一息ついた。
「ンジャ、ワタシはシュガー様と話すことあるから、先にソト出てて」
「別に私達はここでも構いませんよ?」
「大事なハナシ! ジューヨージコー、コッカキミツ!」
とぼけたセンリンの発言に、吠えるようにスズさんは僕達を追い出した。
「全く偉そうに」
スズさんの態度にシスターは不満気に鼻をならす。
「何にせよ外れて良かったですね」
センリンがニコニコと腕を見て言った。
僕は頷いて軽く腕を回す。
腕輪の重量は大した物ではないけれど、気持ち的には、とても軽くなった気分だ。
「それにしても何を話してるんでしょうね?」
「さぁ? 御国の為のお話だもの、どうせろくでもないことよ」
「そこまで言うことないのに」
僕の言葉にセンリンが頷いて同意する。
シスターはやり辛そうに舌打ちをした。
「マタせたわね」
暫くしてスズさんが出てくる。
なんだか少し沈んだような表情に見えて、少し気になった。
「スズさんどうかしたの?」
「ベツに、ナンデもないわ」
表情は完全に不機嫌のそれだった。
でもそう言われたら何も言えない。
僕とセンリンは顔を見合わせて互いに首を傾る。
「さっさと行きましょう」
シスターは小さく鼻をならしてそう言った。
その時だった。
「シュガーは中にいるのか?」
一人の男が僕達の前に現れた。
肉食獣を思わせるその耳には見覚えがあった。
シスターと出会った村にいた、ゾンビを操っていた奴だ。
僕の反応にスズさんは、不思議そうに相手を眺める。
「ナニ? 知り合い?」
「あいつだよ。村でゾンビを操ってたのは」
「はい。中におられると思いますよ」
シスターが空気の読めないセンリンの頭を叩いた。
頭を押さえてうずくまる兎を無視し、目の前の男を注視する。
男は僕とシスターの顔を見て、意外そうな顔をした。
「貴様等、あの時の二人か!」
途端に空気がヒリつく。
僕は緊張して息を飲んだ。
対してシスター興味を示さず涼しげな表情だ。
「貴様等だろう、騎士団の連中を呼んだのは! お陰で計画が滅茶苦茶だ」
「お前が勝手に逃げたんじゃない」
「普通は追って来るだろう! あの流れは!」
「そんなの知らないわ」
取り付く島のないシスターに、男はさらに怒りをあらわにする。
「いいだろう!」
男が合図をすると何処に隠れていたのか、ゾンビの群が僕達を取り囲んだ。
その数は三十に届くかもしれない。
あまりの数に僕とスズさんは驚きの声をあげる。
その様子に気を良くしたのか、男の声は弾んでいた。
「“誘惑の魔女”の前に、貴様等への借りを返すことにしよう」




