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森の拳法兎4

少年side

 洞窟の中はずいぶんと広々としていた。

 盗賊達の日用品がそこら中に散らばっている為、見かけは窮屈そうだ。

 だがそれでも、十数人が優に広がれるほどの余裕があった。

 奥はもっと深そうだけど、大きな箱がいくつも積み上げられていて壁となっていた。


 前方の広々とした場所では、一部の盗賊達が何かの遊びに興じていた。

 床に散りばめた丸い石をぶつけ合っている。

 ルールは分からないけど、盛り上がっているようだ。

 自分の理解できないもので盛り上がっている様に、得体のしれない恐怖を感じる。


 他にも酒を飲んでいたり、くだらない話で盛り上がったり、外で何かをしていたり。

 なんともリラックスした状況だ。

 僕のすぐ近くには、体中に火傷の跡をした大男が居座っていた。

 見るからに痛ましいが、自分がつけたものである為微妙に気まずい。


 馬車で襲われた時にも思ったが、この世界の住人は想像以上に丈夫であるらしい。

 電流を流したり、石を爆発させたのも、正直やり過ぎたと思った位だ。

 だけど盗賊達はすぐに立ち上がっていた。 

 彼も人間であるなら重症とも思えそうな火傷だがピンピンしている。


 そして少し前方には一際大きい男が座っていた。

 右目には大きな傷跡、獣部分は虎の様な特徴でとても怖い。

 恐らく彼がこの集団の頭なのだろう。

 そして火傷の男と、僕を攫ったコウさんが側近という奴なのかもしれない。


 僕はこのままどこかに売り飛ばされてしまうのだろうか?

 頼りの魔法もどうやら、封魔の腕輪を嵌められていて使うことも出来ない。

 いざという時の抵抗も出来ない、という事実が余計に僕を不安にさせた。

 先の見えない恐怖に体が震えて、心が押しつぶされそうになる。


 そんな時だった。


 外の方で数人の盗賊達の声が聞こえた。

 緊張感を孕んだ怒声だ。

 中の盗賊達は外へと注意を向けるが、直ぐに静かになった。

 そしてゆっくりと一人の人物が洞窟へと入ってきた。


 茶色い髪を腰まで伸ばし、兎の様な長耳を生やした長身の女性だった。


《なんだぁテメェは!》


 どうやら盗賊達も知らない人の様であった。

 彼等は突如としてやってきた侵入者を威嚇する。

 屈強な男達に威圧されていても、彼女は飄々と涼気な表情であった。

 ふと奥の方を覗き込んだ彼女と目が合った。

 すると途端に破顔一笑。


「君が誘拐された子ですね。助けに来ましたよ!」


 盗賊の巣窟で彼女は手を上げ堂と言い放った。

 当然荒くれもの達は黙っていない。

 自分達の縄張りに来た愚者に一人の男が襲い掛かる。


 瞬間、ドン! と物凄い音が洞窟内に響き渡った。

 あまりの音と衝撃に、一瞬盗賊達の動きが止まる。

 そして一拍ののち、飛び掛かった盗賊がゆっくりと膝をつき倒れた。

 腰を深く落とし、肘打ちの構えをした彼女が姿を現す。


「次」


 静かに一言。

 構えはそのまま、先ほどの表情とは変わり刺すような視線だ。


 だけどそれと同時に、盗賊達の怒りの線にも火が付いた。

 ある者は武器を持ち、酒瓶を叩き割り、あるいは徒手で。

 一斉に飛び掛かる。


 それを見て彼女は大きく後ろへ跳躍した。

 一飛びで洞窟の外へと素早く飛び出していく。

 まさしく脱兎の如く。

 そのような事を許すはずもなく、男達は後を追い次々と外へと出ていく。


 残ったのは火傷の男と虎男と僕だ。


「シルバーチェーン!」


 その時、聞き慣れた声が高らかに響いた。

 外から鎖が素早く伸びてきて僕に巻き付いた。

 火傷の男は、それに気づき僕に掴みかかろうとする。

 だけどそれよりも早く、ベルの音が洞窟の中に響き渡った。

 男達は途端に外の景色に意識を向けてしまう。


 その一瞬の隙をつき、鎖が勢いよく僕を引き寄せた。

 僕の体は勢いよく大きく柔らかな胸に収まる。

 顔を上げるとそこには、キツイ目つきをした金髪の女性。


「シスター!!」


 隣を見るとスズさんが心配そうに僕を見ていた。


「チョット、大丈夫!? ドコも怪我してない?」


 今にも泣きそうな顔でスズさんが、僕に掴みかかる。

 僕もドッと緊張が抜けたせいで、二人して顔をグシャグシャに歪めていた。


「まだ終わってないんだから気を抜かない」


 そんな僕達にシスターはそう注意を促す。

 前方では先ほどの女性が大勢の盗賊達と対峙していた。

 足元には既に三人が意識を失って倒れていた。


「あの人は?」

「味方よ。イチオーね」


 盗賊達は彼女を取り囲んでいた。

 周囲を見て彼女は両手を合わせる。

 直後両の手を押しのけるように、長い棍が間から飛び出した。


 威嚇する様に棍を振り回す女。

 しかし男達は怯むことなく、一斉に襲い掛かった。


 四八方からの猛攻にも、彼女は冷静だ。

 武器を受け止め、払い、的確且つ流麗に、棍を叩きこむ。

 彼女が棍を振り回すたびに、盗賊達は一人、また一人と倒れていく。


 あっという間に取り囲んでいた全員が倒れていた。

 彼女は棍を背に回し小さく息を吐いた。


「おや、無事救出したようですね。良かった」


 振り返り、僕の姿を見ると柔和な笑顔を見せる。

 しかしその彼女の後ろには、大きな金棒を振りかぶった火傷の男。

 僕達が叫ぶよりもそれが振り下ろされる方が遥かに速かった。


 ガァン!! と物凄い音が周囲に響く。


 重い何かが地面に転がる音がした。

 そこには唖然とする火傷の男。

 彼の手に握られた金棒は真っ二つに折れていた。

 目前の女性は腰を深く落とし、その場で佇んでいる。


 彼女の拳は金棒を貫き、男の鳩尾に深々と突き刺さっていた。

 火傷の男は白目を向きそのままうつ伏せに倒れた。

 残心をすると、今度こそ安心したようにこちらへと歩いてくる。


「さて、そろそろ暗くなります。帰りましょう」

「ムチャクチャね。コイツ」

「手間が省けて良いじゃない。歩ける?」

「えっ? う、うん」


 余りにもあっという間に事が終わって僕は戸惑い気味だ。

 というよりは何か忘れている様な。


「随分と暴れてくれたみたいだな」


 声と共に洞窟の中からヌッと虎男が現れた。

 そうだ、まだ盗賊の頭が残っていた。


「まさかこのまま帰れると思ってねぇよな?」


 二ィと不敵に笑う虎男。

 三人は顔を見合わせた。

 まるで代表したかのようにシスターが前に出て溜息をついた。


「シルバーチェーン!!」


 高らかな声と共に虎男は大きく吹き飛ぶ。

 勢いよく洞窟の岩肌にめり込んで動かなくなった。

 どうやらこれで本当のお終いのようだ。

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