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森の拳法兎1

「オマエ逹って、ナンデ一緒に行動してるワケ?」

「ソウイヤ、オマエ名前は?」

「ツカ、草生えすぎ」

「あっ見て、チョウチョ!」


 うるさい。

 早々に町から盗賊のアジトへ向かう私達。

 まるで整備されてない、人気ひとけのない森はとても静かだ。

 だというのに、先程からこの猫はギャアギャア騒がしい事この上ない。

 どれだけ素っ気なく返そうが、無視しようが飽きる事なく喋り続けていた。


「お前、少しは静かに出来ないわけ?」

「ハァ? 別にイイデショ。シャベッたら死ぬのオマエ?」


 私は溜息をついた。

 既にここは盗賊逹の縄張りと言って良い。

 無駄に騒ぎ立てて、敵に知られるかもしれない。

 森の中では身を隠す場所も豊富だ。

 気付いたら囲まれていた、なんて事もあり得る。

 騎士団に所属してるくせに、この軽率さどうにも信じがたい。


「ソノ時は返り討ちにして、アジトの場所を聞き出せばイイじゃない!」


「ワタシってアタマイイー」と得意気に馬鹿丸出しな発言をする。

 なんとも頭が痛くなる。


「アジトを捨てて逃げられたらどうする気?」

「アッ……」


 言葉に詰まる。

 どうやら何も考えてないらしい。


「ツってもヤツラ、結構大所帯だし、移動してたらスグ見つかるわよ」


 尚も得意気な様子に私は呆れて物が言えなくなる。

 町ではあれだけ慌ててたのが嘘のようだ。


 しかし良く良くみれば、尻尾や耳が落ち着きなく動いているのが目立つ。

 もしかしたらコイツなりに、不安を打ち消そうとしているのかもしれない。

 態度としては問題だけど。


「ネェ……アイツ、ヒドいことされてないわよね」


 途端に漏れる気弱な発言。

 私はまたも溜息をついた。


「あの子の事なら心配ないわよ」

「ハァ? ナニをコンキョに言ってるのよ」

「アイツらにとっては、あの子は商品なんだから、手荒に扱われはしないわよ」

「……ソ、ソンナ事分かってるわよ! バカにしないで」


 顔を赤くしてそっぽを向く。

 自分から聞いといて可愛くない事。


 暫く無言で草道を掻き分けていた。

 だが沈黙に堪えかねたのか、懲りもせず口を開く。


「そういえば、駐屯地で聞いたンだケド」

「今度は何よ」

「コノ森って仙人が住んでるンだってウワサよ」

「下らない」


 気を使って促してみればこれだ。

 大体仙人と言えば山に住んでるものではないのだろうか。

 まぁ山も森も、入ってしまえば似たようなものだけど。


「ワタシだって信じちゃいないワヨ!」

「じゃあ、そんな話振らないで欲しいわね」

「ッタク! ナニよカワイクないわね」


 それはお互い様だ。

 しかしどうにもコイツの口振りは感に障る。


「そもそもお前、私より年下よね?」

「サァ? マァお肌のハリを見る限りそうなんじゃない?」


 無言で脇腹をぶん殴ってやる。

 踏まれた子猫は勢い良く声を上げて咳き込んだ。


「ッゲホ! オマエ、ホント、乱暴よね!」

「……静かに!」


 非難の声をあげるスズを制止する。

 まだ文句が足りないみたいだが、私の視線を追って口を止めた。


 前方には、森には似つかわしくない小さな小屋が建っていた。

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