シスターは見た
シスターside
「ハァ!? 攫われた!?」
甲高い声に思わず耳を塞ぐ。
猫らしく何ともうるさい事だ
「イッタイどういうことよ!」
尚も声を張り上げながら、鬱陶しく詰め寄ってくる。
私は無理矢理引き剥がすと呆れ果てた声で答えた。
「そんなの知らないわ。偶然見かけただけだもの」
そう、私がそれを見かけたのは唯の偶然だ。
スズを探して宿を出ていったあの子を見送ってから暫く。
私はあの子が、騎士団の駐屯地の場所を知らない可能性を思いついた。
ちょっとしたお節介が働いたのだろう。
私は一考したのち、跡を追う事にした。
しかし、どうやらそれも一足遅かったようだ。
宿を出ても、姿を見かける事は出来なかった。
しかしこのまま引き返すのはなんとも勝手が悪い。
だから私は少しだけ街中を歩くことにした。
程なくして、あの子が一人の男に付いていくのを目撃する。
確か馬車の御者をしていた男の筈だ。
どうやら、顔見知りに上手い事案内させる事が出来たようだ。
私は安堵と共に、無駄足になった自分の労力に舌打ちする。
詰まらない気分で宿へと引き返そうとした時、ちょっとした違和感を覚えた。
駐屯地へ向かうにしては、ずいぶんと人通りの少ない場所に行くものだな、と。
二人が路地裏に入っていくのを確認すると、違和感は危機感へと変わる。
私は急いで、走り寄ったが判断が致命的に遅かった。
路地裏から高速で何かが飛び立つのが遠目に見えた。
目で追った先には羽を広げて空を飛ぶ御者の男。
そして彼の脇にはあの子が抱えられていた。
高度は高く、私の鎖ではとても届かない。
私は歯がゆい気持ちで相手を睨みつける。
だが、当然何の反応もなく二人は空の彼方へと消えていった。
「ナルホド」
話を聞き終えたスズは、顎に手を当て口惜しそうに唇を噛んだ。
「やっぱり、アノ御者はグルだったか」
「どういう事?」
私の質問にスズは溜息をついて答える。
「アノ盗賊の襲撃。馬がマホウで幻覚を見せられてたデショ?」
「そうね」
「あんな狭い範囲に的確なマホウをかけるなんて、ヨホド近くで術を掛けないとイケないと思うのよね」
「つまり御者自らが、魔法をかけていたと」
「タブンね」
思わず私はスズの胸倉を掴んだ。
そんな予想もついていて、あの男を野放しにしていたのか。
「しょ、しょうがないデショ! スグに盗賊が襲ってきてワスれちゃったんだから」
「……ッチ!」
妙に怯えた目で弁明する彼女を見て。舌打ち交じりに手を離す。
まぁ、あの子の怪我で動転していたのもあるんだろう。
それに既に攫われた以上、今それを責めてる場合ではない。
スズはホッと安堵の息を漏らした。
「それで? 何処に連れてかれたか見当はつくの?」
そういって本題に入る。
本来ならすぐにでも後を追うべきだったが、あいにく私は土地勘が無い。
騎士団所属の彼女なら、何か情報を持っているだろうと尋ねたのだ。
先程まで涙目だった癖に、妙に得意げな顔でスズは答えた。
「フフン! 安心なさい。マサに、盗賊団の根城を聞いてきたばっかりなの」
「勿体ぶらずにさっさと答えろ」
「ウッサイ! 急かすな」
騎士団の話だと、ここ最近町の南東にある森。
その奥地に盗賊が住み着いているそうだ。
「それが私達を襲った盗賊団だと?」
「恐らくね。アノ規模の盗賊団はココらではアレくらいだって」
成程。
場所は分かった。
あとは簡単だ、この鎖で相手を叩き潰すだけだ。




