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弱くてニューライフ~逆転のサードスクエア~  作者: 梨本 和広
2章 七貴舞踊会のフィナーレ
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63話 隊長

「ディアロットさん!」


七貴隊員ですら近寄りがたい雰囲気を放つ隊長たちの集団に駆け寄ったのは、ギルティアだった。


ギルティアの声に反応した周りの人間が、その様子を見て息を呑む。アリシエールも同じ気持ちだったが、少し冷静になって考えてみる。二卿三旗であるギルティアなら、そもそも七貴隊隊長とも顔馴染みなのではないのかと。父親が隊長なら尚更である。


ギルティアの向かう先には、二卿三旗でありロードファリア家当主であるディアロットの姿があった。


「ギルティアさま、お久しぶりです。2年振りでしょうか?」


ディアロットと呼ばれた黒髪の男は、顔色を変えずに丁寧に返答した。


ギルティアはあからさまに困ったような表情を浮かべる。先程のような弾んだ声といい今の表情といい、普段の彼からは見られない姿である。


「敬語はやめてくださいよ、こんな子ども相手に。そうでなくても同じ二卿三旗なのですから」


「申し訳ない、私はロードファリアの血を継いでいるわけではないからあまり慣れなくて」


「ディアロットさんとサリアさんは基本丁寧語ですからね、癖なのは分かりますけど新米からするとどうも恐縮しちゃうんですよね」


ギルティアとディアロットの会話に、近くで聞いていたアギレアが割って入る。彼もギルティアとは面識があるようだ。


しかしながら、ギルティアはアギレアが見えていないようにディアロットと会話を続ける。


「ディアロットさんは今回も出場されないのですか?」


「私より優秀な隊員たちが盛り上げてくれるからね」


「謙遜も過ぎると嫌味になりますよ?」


「あはは、本音は準備期間がなかったからなんだけどね。不完全なまま皆の前に立つわけにはいかない」


「やっぱりご多忙なのですね、地方は広いですし当然と言えば当然ですが」


「今日も午後には戻らないといけないんだ、頑張ってる隊員には申し訳ないが」


その言葉で、ギルティアは一瞬寂しそうな表情を浮かべたが、すぐに思い直したように切り替えた。


「ということは、午前中の演舞は見ていただけるんですね?」


「そうだね、王様にお呼びを受けることがなければ見ているつもりだ」


「ぼく、今回学生の中で1番最初に演舞をするんです。ディアロットさんに見ていただければと思うんですが……」


「……そうか、君が参加できる年齢か。そういうことなら楽しみにさせてもらうよ」


その返答で、ギルティアは年相応の笑みを見せた。どうやらディアロットは、ギルティアにとって特別な人間のようだ。


「ありがとうございます! この場に立って恥ずかしくない演舞を披露します!」


「ああ、期待している」


「それでは失礼します!」


そう言って深々と頭を下げると、ギルティアはその場を離れレインたちの元へ戻ってきた。

普段通りの自信に満ちた表情だったが、どこかいつもより活気が芽生えているように感じた。


「あんたね、いきなり単独行動されたらびっくりするでしょ」


ウルが呆れ返った様子でギルティアに指摘する。その上向かった先が七貴隊隊長たちがいる場所となれば気が気でいられない。


「しょうがないさ、久しぶりに会ったんだから。君たちこそ挨拶しなくていいのかい?」


ギルティアは悪びれる様子もなく返答する。

それどころか、ウルたちにディアロットのいるところへ行くよう促した。


正直に言うなら、ウルもミレットもディアロットに挨拶をしたいという気持ちはあった。彼女たち自身久しい再会であり、ロードファリア姉妹にお世話になることもある。もっと言えば、彼の息子について掘り下げて聞いておきたかった。


しかしながら、レインのいる前でその行動を起こすことに遠慮してしまう自分がいるのである。勿論、隊長たちが近寄りがたい雰囲気を出していることも理由の1つではあるが。


「おーいギルティア君、完璧無視はないぜ」


そうこう頭を悩ませている内に、今度はアギレアがどこか困ったような表情で1年たちの集団へ混じってきた。ギルティアに無視されたことがご不満だったようだ。


「無視? ぼくはディアロットさんとお話ししていたはずですが?」


「えっ、じゃあ素で俺が見えてなかったの? どれだけ存在感がないんだ俺は……」


入学式時の凜々しさが嘘のようにがっくりと肩を落とすアギレア。不自然さがないことから、こちらが素の姿なのであろう。


「まあ仕方ないかな、ディアロットさんと会うのは俺も久々だしね」


「隊長同士でも会われないのですか?」


「あの人はずっとワートリアに張り付いているから、恐らく休日返上で。土地が広くて管理が大変というのもあるけど、国境沿いというのが休めない1番の理由だろうね。ミストレス王もディアロットさんに対しては王都の催し参加を免除しているようだし」


「へえ」


レインを除く1年生4人が感心したように声を漏らす。

信頼する者を直近に置くというのは1つの考え方ではあるが、信頼しているからこそ王都から離れている土地を任せているとも考えることができる。


とはいえ、休日を返上してまで働くというのはいかがなものかと思うのだが。


「って違う違う、俺は君に会いにきたんだった」


首を軽く左右に振ると、アギレアは集団の1番後方にいるレインの前に立った。


「レイン・クレスト君だろ?」


「そうですが?」


「入学式でも自己紹介してるけど、アギレア・クロディヌスだ。式典の時に休んでたみたいだから挨拶しとこうと思ってね」


そう言いながら、右手で前に出して笑みを浮かべるアギレア。対するレインは、七貴隊隊長がわざわざ握手を求めにくるとは思わず困惑した。


「恐縮です」


レインは差し出された手を握り、アギレアと握手を交わす。

細身の身体とは対照的に、分厚い手の平だった。なんとなく、苦労を重ねてきたのだと推察する。


「……どうかされました?」


アギレアの手がなかなか外れなかったため、レインは思わずそう尋ねていた。

しかしアギレアは、微笑みを絶やさずレインを見つめるだけ。

何かを見極めようとするその瞳が、レインにとっては避けたいものがあった。


「何でもない、君の出番を楽しみにしてるよ」


「俺は代役なので出番はないですけど」


「ああ、学院はそういうシステムだったか。それは残念だった」


「アギレア、いつまでも道草食ってるんじゃない」


次いでレインたちの元へ現われたのは、小柄で白髪の男性。年齢が60代に差し掛かろうという皺の刻まれた顔に、歩くのを補助する杖。

身体能力だけならいくらでも代わりがいそうな者だが、その威圧感が唯一無二の存在であることを示していた。


20年近く七貴隊隊長を務める、ウノドラ・キートンである。


「ウノドラ殿、わざわざ貴方がこちらまで来られなくても」


「なーに、ワシも若い芽を近くで見たかっただけじゃ。何せ今年の1年には二卿三旗が4名もおるそうじゃしの」


そう言って、アギレア同様に笑みを浮かべながらレインたち1年生を順に見渡すウノドラ。そこには、先ほど放たれていた威圧感はなかった。


1人ずつ少しだけ目を合わせ、満足したように次へ移る。

それで何が分かるのかと思ってしまうが、目の前の大先輩は全てを見抜いてしまいそうな雰囲気を持っていた。


「ザクロアの倅はおらんのか?」


「今年は出ていないようですね」


「その代わりがあのじゃじゃ馬の娘ということなのかのぅ」


1度アリシエールを見てから、クククと声を漏らすウノドラ。アリシエールには何が何やらさっぱり分からず目を丸くするだけである。


「成る程成る程、こりゃ将来有望そうじゃな。――――――1人を除いてじゃが」


「ちょ……!」


「冗談じゃよ、さっさと行くぞアギレアよ」


カカカと笑いながら、ウノドラは隊長たちの元へ戻っていく。杖をついて歩きながら一瞬後方を確認したが、誰を見たのかは判断ができなかった。


「申し訳ない舞踊会の前に。ウノドラ殿の言葉は気にしなくて良いから、今日は頑張ってくれ!」


手を合わせて謝罪を示してから、アギレアも皆のところへ戻っていく。


呼吸が止まりそうになるほど濃密な時間。ただ七貴隊隊長と話しただけなのに、その緊張感は計り知れないものがあった。


その人たちの演舞がまもなく披露されることになる。最前線に立ち続けてきた人間たちの演舞。レインたち学生は、嫌でもそれらと比較されることになる。


学生だからといって、下手な演舞は見せられない。アークストレア学院の代表として、恥ずかしくない演舞を披露する。



七貴隊隊長と話をすることで、レインたちは再び気持ちを引き締めることができたのであった。

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