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弱くてニューライフ~逆転のサードスクエア~  作者: 梨本 和広
2章 七貴舞踊会のフィナーレ
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62話 七貴隊集合

ミストレス王城での式典を終えて2週間後、ようやくその時が訪れた。


七貴舞踊会、各地方の七貴隊が集う数少ない催しものである。

勿論町や村の護衛があるため全ての人間が集まれるわけではないが、少なくとも隊長は勢揃いすることになる。それだけで、どれだけ大規模に行われているかが推察できる。


レインはシャワーを浴びてから、制服を身に通す。

今日は学生にとって休日だが、レインたち七貴舞踊会参加者にとっては平日より大変な1日になる。七貴舞踊会に参加するというのはそういうことだ。


「いよいよだね、まあレイン君は緊張していないと思うけど」


部屋の洗面所から出ると、制服姿のテータが朗らかな笑みを見せてきた。

いつもなら休日には帰省するテータではあるが、七貴舞踊会を観に行くために今週は残っているようだ。


「参加者とはいえ俺は代役だからな、出番がないのに焦ってもしょうがないさ」


「それもそうか。じゃあ行こう、もう下に馬車が泊まってると思うし」


「ああ」


そう言って2人は、一緒に部屋を出て行く。学院から会場へ向かう者は事前に連絡すれば馬車を用意してもらえるので、テータも一緒に行くことになる。


「おっ、おはようお2人さん」


部屋を出たところで、ちょうど部屋を出たらしいザストとグレイに遭遇する。2人も七貴舞踊会を観覧するようで制服を身につけていた。


「レイン、皆の仕上がりは上々なんだろうね」


4人で階段を下りていると、グレイが雑談感覚でそう聞いてきた。


「問題はないと思う、去年の先輩たちと比べても差はないし。ただ……」


「ただ?」


「……いや、何でもない。あとは本番をこなすだけだ」


「そうかい、それなら本番を楽しみにするさ」


レインは無意識に出かけた言葉を引っ込めた。


グレイに伝えたことは嘘ではない。ギルティアもアリシエールもウルもミレットも鍛錬を積んできた。練習通りできれば観客を失望させることはないだろう。


だからこその不安、順調に進んでいるが故の不安がレインは拭いきれなかった。

何か見落としてはいないか、何か忘れていないか、そこが気になって思わず『ただ』という言葉を使ってしまった。これがレインの杞憂であれば何も問題はないが、物事を綺麗に終えられた経験の少ないレインにとっては順調であることが少し怖かった。


「……うん、大丈夫だ」


レインは参加者が緊張して気負いすぎないようにだけフォローに入ろうとその場で決意するのであった。



―*―



王都アルファリエの西に位置するその大建築物には、多くの人間が群がっていた。


そこに貴族や平民の垣根はない。少しでも良い場所で演舞を観たいと思う観客たちが、今か今かと会場に入るのを楽しみにしていた。


「……やっぱり大きいな」


学院から1時間ほどかけて着いた場所を見て、レインは1年ぶりの感想を述べる。


エンハストール、学院にある闘技場の3倍近くの大きさを誇るその建物は、近くで見上げると首を痛めそうになるほどに大きい。屋根はないものの、外敵の侵入を絶たんとするレンガ調の外壁が高くそびえ立っており、その神々しさを物語っていた。


ここに今、ミストレス王国の実力者たちが集まっている。5つの地方と王を守る七貴隊隊長、その部下たち。優秀だと言われるアークストレア学院のAクラスの生徒より遙かに上を行く猛者たちがいる。


レインは改めて、この七貴舞踊会の歴史の重みというものを肌で感じることができた。


セカンドスクエアはただの武力ではない。人に安心を、娯楽を与えるものでもある。


その催しを100年以上続けているという事実を、レインは誇らしく思うのだった。



―*―



レインたち七貴舞踊会参加者は、1階にある控え室で待機していた。

建物の構造は学院の大闘技場とほとんど一緒で、2階の観覧席の下に控え室が並んでいるという形になっている。

ただ、大闘技場とは比べものにならない規模ということもあり、レインたち1年だけで1つ部屋が割り当てられるほどに控え室は多くあった。


「皆、これから開会式だ。準備はできているか?」


ギルティアが代表して皆に声をかける。相も変わらず、彼の表情からは緊張はまったく感じられなかった。


「ミレット君はどうした?」


その場にミレットがいなかったことを察し、ウルへ質問するギルティア。


「言わずとも理解してほしいところだけど」


「……成る程、無粋な質問失礼した」


ミレットの状況を把握し、ギルティアは軽くウルに向けて謝罪する。お手洗に行っている女性に対してこれ以上追及するのは野暮というものだろう。


「あっとごめんね! 不肖ミレットただいま戻りました!」


話を終えたタイミングで若干テンションが高めのミレットが力強くドアを開けて入ってきた。

急いできたためか顔が紅潮しているが、その表情はしっかり笑顔である。


何はともあれ、これで1年の代表者は全員揃った。これから集合場所に向かうことになる。


控え室を出て、弧のようになっている通路を歩いて行く5人。その先には、多人数が集まれるホールのような場所がある。その場所に近づくにつれて、待機する人たちの声が聞こえてきた。


緊張感が増す。学院の先輩と会うだけでもそれなりの覚悟がいるのに、今回は会うのはさらにその上の人たち。現場をよく知る大先輩たち。


二卿三旗として貴族の地位は高いギルティアやウル、ミレットになるが、七貴隊に入ればそれは関係ない。良い意味で実力主義、それは3人も充分に理解していた。



――――だからこそ、いざ七貴隊の隊服に身を包んだ猛者たちを前にして、息をするのを忘れてしまっていた。



彼らはレインたちを一瞥すると、関心などないように向き直る。二卿三旗に媚びへつらうような真似は一切しない、そんな行動は戦場において何の意味も持たない。


中への入場まではまだ時間があり、各隊で集まって演舞の確認をし合っている。自分たちはどこで待機をしていれば良いのか、さすがのギルティアも足の置き場に困っているようだ。


そんな中、一際存在感を示す集団があった。


たった6人、それにも関わらず、何よりも近寄りがたい空気を醸し出しているミストレス王国の最高戦力。



――――――七貴隊隊長の集合である。



王の護衛のためか、ノータスの姿は見られなかったが、地方に滞在する七貴隊隊長も含めて全員がいる。



ミストレス王国最大の人口を誇るローラルド地方の北部管轄、アギレア・クロディヌス。

同じくローラルド地方の南部管轄、ザクロア・エルフィン。

平民が多く暮らす比較的貧しいイワゴン地方管轄、ウノドラ・キートン。

水産業が盛んな海に面するタンギニス地方管轄、ロギース・ファンレン。

自然豊かで歴史的遺産が多々あるネムネ地方管轄、サリア・ナタトリィ。

他国との国境に接する外交拠点であるワートリア地方管轄、ディアロット・ロードファリア。



七貴隊という選りすぐりの戦力の中から、さらに実力と実績を積み上げた者たち。

王族と並び、平和の象徴として国民に慕われる存在。



彼らの放つ圧倒的な存在感は、畏怖を通り越して敬意を感じるほどである。


アリシエールは勿論、ウルたちもまたはその存在に目を奪われ、言葉を失っていた。



レインは、この場が『エンハストール』であり、この催しが『七貴舞踊会』であることを再認識させられたのであった。

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