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弱くてニューライフ~逆転のサードスクエア~  作者: 梨本 和広
2章 七貴舞踊会のフィナーレ
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57話 伝え忘れていたこと

「おいギルティア!」


レインが大闘技場から去った後、ジワードは何事もなかったかのように鍛錬を進めているギルティアへ声をかける。


アリシエール、ウル、ミレットは、ロードファリア姉妹との会話でその場に居づらかったためか、レインが外へ出て行くのに合わせて大闘技場から去っている。


ジワードも一緒に出て行こうと思ったが、1人鍛錬を続けるギルティアのことを思い出し、多少面倒だと思いながらも彼の元へ歩み寄っていた。


「先輩たち来たし戻るぞ、他の奴らも皆出て行ったし」


居心地の悪さを感じつつ、若干急かすように告げたジワードだったが、ギルティアからの返答は実に端的だった。



「――――――まだ5分ある」



決してジワードには目を向けず、構成をメモした紙を念入りに確認するギルティア。

その身体からは、蒸気のように汗が浮かんでおり、いかに集中しているかが容易にくみ取ることができた。


「1分間で闘技場を出れば、後4分間を有効に活用できる。悪いが先に戻っててもらえないだろうか」


「……いや、そういうことならお前が終わるまで待つさ」


「そうか、付き合ってもらって感謝する」


上級生が来ていることなど全く気にする様子もなく、ただストイックに鍛錬に取り組む姿はジワードには恐ろしく見えた。


それと同時に高揚感も湧き出てくるジワード。


学院卒業まで残り約3年、超えるべき男は一切慢心することなく一歩一歩実直に階段を上がっていく。


越えるべき壁は高ければ高い方がいい。今はこの男から奪えるものを奪って自分のものにしようと画策するジワードなのであった。



―*―



「レインさん、申し訳ありませんでした……」


大闘技場から出て廊下を歩いていると、後方にいたアリシエールが浮かない表情でレインへ謝罪していた。


足を止め振り返ると、一緒に来ていたウルやミレットの表情もどこか暗かった。シストリアから向けられた言葉が尾を引いているのだろうか。


「何の件?」


レインもそこまで鈍くはないが、こう聞き返す他ない。実際、レインが今謝罪を受けるほど気にしている内容はない。


「……さっきの件です。私、ロードファリア先輩に詰められて上手く返せませんでした。都合の良い人間って言われて、そんなわけないのに私、言い返せなくて……」


案の定、アリシエールが気にしていたのは先ほどのエストリアとの会話についてだった。


レインを庇おうと割って入ったものの、エストリアに対して返答できず悔やんでいたのだろう。


はっきり言えば気にすることではない。相手は上級生であり、貴族の位で言えば最上級の二卿三旗、そんな相手に圧を向けられれば容易に返答などできるはずもない。


だが、そう言ってあっさり気持ちを切り替えられるのであればアリシエールもここまで申し訳なさそうにしないだろう。


レインの力を借りる度にエストリアの言葉を思い出し、罪悪感に駆られることになる。


だとするならば、レインの力を借りること自体を肯定しなければいけない。


そして、それを肯定する上で、とても()()()()()()()が存在する。


「いいんだよ別に、都合が良くても悪くても」


「で、でも……!」


「だって俺たち、友達なんだから」


アリシエールは、がんじがらめのしがらみから解き放たれたように瞳を煌めかせた。


「友達だから協力するし、手伝いだってする。協力してほしいし手伝ってほしい。そこに都合の善し悪しが介入した覚えはない、だから周りからどう思われようと関係ない。都合なんていくらでも良くていいよ、友達として受け入れるだけだからさ」


レインの言葉は、真っ直ぐアリシエールの元へ届いた。瞳はじんわり涙で濡れるが、表情には笑顔が戻っている。


「そう、でした。だから私は、レインさんとザストさんを頼ったんでした」


瞼を閉じて、両手を胸の前で組んで微笑むアリシエール。どうやら、エストリアと言い合った件については問題解決したようだった。


「なんだ、ホントに堪えてないのね」


アリシエールを慰める余裕を見せたためか、ウルはどこか拍子が抜けたように腕を組む。


「そう言うそっちこそ表情が暗く感じたんだが?」


「別に、あたしたちが気にしなきゃ問題でもないもの。例えシストリアさまに言われようともね」


「何の話だ?」


「秘密よ、特にあんたには言いたくない」


そう言われてしまえば、レインもこれ以上追及するつもりはない。「そうか」と簡単に返答し、会話を切った。


「あたしのことはいいのよ、あんたが大丈夫か聞きたいの」


「堪えるとか大丈夫とか、思い当たる節がないんだが」


「エストリアさまにいろいろ言われたじゃない!」


ウルに明言されて、先ほどのことを言っているのだとようやく理解出来たレイン。


「いろいろも何も、ただの事実だ。気にすることなんて何もない」


「何もないって、事実だろうが何だろうが言われて辛いことなんていくらでもあるでしょ? それにあの人は……」


「辛いなんて言ってる暇があったら自分を省みるのに時間を使うだけだ」


一切ぶれることを知らないレインを見て面を食らってしまうウルだったが、時間が経つにつれて少しずつ可笑しくなってきた。


この男に慰めなど不要だと改めて認識する。恐らく何度もぶつかってきたであろう問題、そのたった1回に自分が割って入ろうとも突っぱねられるのがオチである。


「……余計な心配だったわけね」


「心配掛けてたのか、それは申し訳ない」


「あーあ、さっきの反動で()()()()()()()()()んじゃないかって思ってたけど杞憂だったわ」


少し照れくさそうに両手を伸ばし、宙を仰ぐウル。

何気なく口にしたフレーズの中に、聞き逃すことのできないものがあった。


「明日? 明日何かあるのか?」


「はっ? あんたたち聞いてないの?」


ウルに逆に質問され思わずアリシエールを見たレインだが、彼女も何のことだか分かっていないようだった。


「ちょっと待って。ミレット、あたし間違ってないよね?」


「うん。今日ローリエ先生からちゃんと聞いてるし」


「ってことは。あんたたち、リエリィー先生は終礼の時、明日のこと何か言ってなかった?」


2人の会話を聞いて、レインはようやく話が見えてきた。

端的に言うと、明日学院の行事があるにも関わらず、リエリィーがレインたちに報告するのを忘れていたらしい。



「おおよかったよかった! ここに居たかお前たち!」



噂をすれば何とやら、彼にしては珍しく随分慌てた様子でレインたちの元まで駆け寄ってきたリエリィー。

言うまでもなく、明日の学院行事についてだろう。


「すまん、大事なことを伝え忘れてた。ってもしかして2人からもう聞いてる?」


息を整えながらウルとミレットを見るリエリィーだが、2人からは冷ややかな視線が返ってきていた。


「先生、こんなに大切なこと伝え忘れるなんてあり得ないですよ」


「ですねー、2人が知らないまま明日迎えてたら大問題でしたし」


「だから焦って来たんだろうが、ってことはもう伝えてくれたのか?」


「まだです。たった今伝えようとしたところで先生がいらしたので」


「成る程、ならここまで走ってきた意味は一応あったな」


そう言って喉を鳴らしてから、レインとアリシエールに向き直るリエリィー。

随分長い前振りとなったが、ようやく明日の件を教えてもらえるようだ。


「毎年のことだが、代役を含めた七貴舞踊会参加者は、七貴舞踊会に出る前にミストレス王へ拝謁することになってるんだ。光栄なことだろう、王様に顔を覚えてもらえる又とない機会だからな」



「…………つまり、どういうことでしょうか?」



エストリアに無力を指摘された時でさえ歪まなかったレインの表情から、焦りの色が見え始めた。


この後言われることなど聞かずとも分かるはずなのに、そう聞き返してしまうほどにレインは動揺していた。


そして――――――



「明日、学院の代表者は揃ってミストレス城へ向かうことになる。休日返上になるがそれは勘弁してくれ、ある意味神事だからなこれは」



リエリィーの口から明確に、明日王城へと向かうよう連絡を受けるのであった。

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