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弱くてニューライフ~逆転のサードスクエア~  作者: 梨本 和広
2章 七貴舞踊会のフィナーレ
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55話 不意の遭遇

七貴舞踊会の1年代表が決まった2日後、レインたち1年生は大闘技場にて実技の鍛錬を行っていた。


昨日に七貴舞踊会の構成の大枠を決め、細かい調整は実際にバニスを発動させながら行った方がいいと思い今に至っている。

実際にバニスを発動させてみると繋ぎが難しい箇所が何点かあり、修正が余儀なくされている部分が見られている。前途多難ではあるが、早めにそれに気付けたのは良かったことだと言えるだろう。


「ごめんなさい、考えが甘い部分が多くて……」


「大丈夫、そのために俺がいるんだし」


思った以上に穴が多かったのか、アリシエールは分かりやすく気落ちしていた。

彼女の場合はバニスの構成というよりは、サードスクエアをうまく扱えないところに問題があった。

学院で教わったのがつい最近のため当然と言えば当然ではあるが、同じ代表であるギルティアやウルと比較すると見劣りしてしまう部分が出てしまっている。


「もう少し間を取って丁寧にできるようにしようか」


「それだと観客の皆様を退屈させないでしょうか?」


「アリシエールのフィアならそれだけで盛り上がるから問題ないよ、オルテを上手く使えばさらに沸くと思う」


アリシエールはフィアの他にほとんど火力を持たないオルテを放つことができる。

レインのウィグと大差ないレベルのため、実践ではとても頼りにはならないが、彼女のフィアを目立たせるのには充分役に立つ。

サードスクエアで細かな操作はできなくとも、火力の高低差で観客を楽しませることはできるはずだ。


アリシエールに再度構成を調整するように促してから、レインはギルティアとミレットのところへ移動する。

2人の取り組みはアリシエールと話し合いをしながらでも目に入ったが、特に問題はないと思われた。


「ここのオルテは少し早く入ってほしい、バニスが接近している方が緊迫感が増す」


「それは大丈夫だけど、ギルティア君のテンポも早くなるよ?」


「ぼくなら心配いらない、確実に合わせてみせる」


どうやら2人は、さらに観客に喜んでもらうために、補助役の構成を練りこんでいるようだ。

さすがはギルティア・ロストロス、他の2人とは進行具合が違う。

彼の七貴舞踊会の構成を見せてもらったが、特段修正すべき点がなかったし、七貴舞踊会を入念に研究しているように思われる。

構成も、家で何度か実践した上で組み上げたのかもしれない。


「やあレイン君、指導役ご苦労だね」


「アリシエールが一段落したから見に来たけど、ロストロス君は心配いらなそうだね」


「心配はいらないが改善の余地はある。まだまだやるべきことは山積みだ」


言葉通りの自信に満ちた表情にレインは確信する。

彼に割って入って指導する必要はないということを。


そうとなれば、不安要素は別の箇所に芽生えてしまう。


「メドラエルさんはどう?」


レインは、七貴舞踊会において最も大変な役回りであるミレットへ声をかけた。


七貴舞踊会において1番苦労するのは間違いなく補助役であるとレインは思う。

というのも、補助役は代表者3名の構成を覚え、タイミングよくバニスを放たなければならない。

代表者に比べれば一度に放つ回数は少ないが、3回分あるので合わせれば代表者より多くのバニスを放つ必要がある。暗記量に練習量を鑑みても、とても黒子とは言い難い役割の多さに辟易してもおかしくない。

代表者に1人補助役を付けるのが正しい采配だとレインは思うが、それを今愚痴っていても仕方がない。


「いやあ、けっこう堪えるねこれ。ギルティア君だけでも大変なのに3人分覚えなきゃと思うとなあ」


ミレットは笑っていたが、言っている内容からはその苦労が容易に読み取れた。

その上ミレットには、もう1つの壁が立ち塞がっている。


「それに私も構成考えないといけないからね、こりゃ授業の復習なんてしてる時間ないや」


ミレットは、代表者の誰かがやむを得ず休場した場合、代表者としても七貴舞踊会に参加しなければならない。

本来はレインの仕事だが、それをする気がないレインの代わりにミレットが手を挙げたのである。


「申し訳ないな、ただでさえ大変だっていうのに」


「ううん、私がやりたいって言ったことだしね。それでレイン君にいろいろ教われてるんだからむしろラッキーだよ」


「そう言ってもらえると助かるけど、何かフォローが必要なら言ってくれ。俺もメドラエルさんの補助役はやらないといけないんだし」


レインがそう言うと、ミレットは何かを考え込むように腕を組んだ。

彼女にはまだまだやることがたくさんある、何をしてもらいたいか整理しているのかもしれない。


「えっと、その、じゃあ1つだけお願いしてもいい?」


「別に1つに絞る必要はないけど」


「ううん、1つでいいの! 1つでいいから聞いてほしいことがあって……」


そう前置きすると、ミレットにしては珍しくどこか躊躇いがちに表情を伏せながら、顔を赤らめてゆっくりレインを見上げた。



「その、今回の七貴舞踊会で私がちゃんと補助役できたら、一緒にお出かけしてくれませんか?」



まったく想定していなかった申し出に、レインは思考するのを忘れてしまう。


その顔がどこか間抜けに見えたのか、不安げにレインを見ていたミレットの表情が綻んだ。


「えっとね、自業自得とはいえ今回私は大変だから、ちゃんとできたらご褒美が欲しいと思ったの。それならやる気も出るし」


「な、成る程。それは分かったけど、俺と出かけるのがご褒美になるのか?」


「なるよなる! なるに決まってるよ! 了承してくれたら私、すっごく頑張れると思う!」


今度はどこか鬼気迫るミレットの面持ちに圧倒されてしまうレイン。

どうして自分と出かけることがご褒美になるのかが理解出来ていないが、彼女がそう言うのならご褒美になるのだろう。正直言えば断りたいところだが、今回ミレットが必要以上に頑張らなくてはいけないのはレインのせいでもある。安易に無下にすることはできない。


「分かった。メドラエルさんが無事七貴舞踊会で成功を修めたら出かけよう」


レインがそう答えると、ミレットは信じられないといった様子でレインを見つめた。


「……ホント? ホントにいいの?」


「俺でよければな」


その返答を聞いて、ミレットは一瞬瞳を揺らめかせてから、大きく両手を真上に挙げた。

それと同時に、栗色の髪の毛が大きく揺れる。


「や、る、気、出たああああああ!! 今なら私、3日は寝ずに頑張れそう!」


「いや、そこは無理せずしっかり休んでくれ」


「ふふ、分かってるってば。それくらいの気合いが入ったってこと!」


先ほどの補助役に不安を覚えていたときの笑顔とは違い、曇りのない満面の笑みを浮かべるミレット。

ここまで元気な姿を見られたのなら、レインとしてもお出かけを了承して良かったと思えた。


「ちょっとミレット、何急に叫んでるのよ」


大きな声を上げたミレットが心配になったのか、ジワードと鍛錬をしていたウルがレインとミレットの方へ歩み寄ってきた。


「何でもないよ、すごくいいことがあっただけ」


「それが何かを聞いてるんだけど」


「内緒、特にウルちゃんには言えないなあ」


勿体ぶるように内容をぼかすミレットを見て、不機嫌そうな表情をレインへ向けるウル。

別に隠すほどのことではないはずだが、ミレットが秘密にしていることを自分が勝手に伝えるわけにはいかない。


「悪いが俺も理由は分からない」


軽くジェスチャーをつけてウルに返答するレイン。あながち嘘ではないので、レインも堂々と言葉を発することができた。


「そんなわけないでしょ、あんたが絡んでなきゃこんな……」


「おいウル、さっさと再開するぞ!」


ミレットに声をかけてなかなかウルが戻らないためか、ジワードが遠くからウルへ呼びかけた。


何か言いたそうにしていたウルだったが、観念したのか、長い金髪を大きく揺らしてジワードの方へ戻っていく。


「ミレット、後で詳しく聞くから」


「はいはーい」


簡単なやり取りを済ませて、ウルもミレットも鍛錬へと気持ちを切り替える。


やる気を出してくれたのは喜ばしいことだが、大闘技場の使用時間は残り15分ほどしかない。

残念ながら昂ぶった思いは、昇華しきる前に終わってしまうことだろう。



「あれ、レイン君じゃない!」



――――不意に自分に向けられた声を聞いて、レインは一瞬時間が止まったような感覚に陥った。


現在、この学院でレインを君付けで呼ぶのは5人。

この場に居るギルティアとミレット。Bクラスの成績1位であるテータ。学院の養護教諭であるシャルア。


そしてもう1人、レインが会うことをできるだけ避けてきた2年の先輩が1人いた。



「まさかここで会うとは、また図書室で会うと思ってたけど」



レインの前に現われたのは、いつかの休日の図書室で出会った2年の先輩、ルチル・ゴーゲンであった。


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