54話 ザストの応援
「2人とも、お疲れさん」
ウルたちとの勉強会たるものを終え寮へ戻ってきたレインとアリシエールは、食堂で待っていたザストと合流した。
「先食べててもよかったのに」
「そう哀しいこと言うなよ、今日は2人と食べたかったんだから。と言ってもレインとはいつも食べてるんだけどね」
「ありがとうございます。私もご一緒できて嬉しいです」
「かぁああ、笑顔がとても心臓に染みる……! レイン、こういうところだぞお前に足りないのは」
「俺も笑顔で礼を述べれば良いか?」
「……ゴメン、言っといてアレだけどなんか怖い」
「ふふ」
喜怒哀楽の激しいザストを見て、どこかホッとしたように笑みを浮かべるアリシエール。Aクラスだけの空間にも物怖じしたようには見えなかったが、張り付めていたものはあったのかもしれない。
「で、今日は何をやったんだ? 順調に進んだのか?」
夕食を進めながらザストは解散後の状況を2人へ質問した。
「今日やるべきことはやったって感じだな、指導役に任命されたから大変だけど」
「指導役!? なんだそりゃ、学生のお前がみんなに教えるのかよ。ローリエ先生は何してるんだ?」
「積極的に指導はしないみたいだ、もちろん質疑があれば対応するみたいだけど」
「なんだそりゃ、怠慢もいいとこじゃねえか」
「いや、七貴舞踊会の構成を1から教えるとそれに縛られて自由に発想ができなくなってしまう恐れがある。最低限の情報は最初に伝達してたし、先生の立ち振る舞いで問題ないよ」
「うーん、レインが言うなら大丈夫なんだろうけど納得いかないな。結局現場の取り纏めをお前に任せてるわけだし」
「それも大丈夫、エルフィン君にも手伝ってもらうことにしたし」
そう言うと、食事を進めていたザストの手が止まった。
「エルフィンって、ジワード・エルフィンか!? 手伝うって、あいつは七貴舞踊会の参加者じゃないだろ!」
「そりゃ俺から誘ったからな」
「お前なぁ、あいつはリゲルさんやマリンさんを馬鹿にしてた奴なんだぞ? よく一緒に頑張ろうって思えたな」
ザストは心配そうにレインを見つめたが、当の本人は全く気にする様子がなかった。
「それを気にしてうまくやりくりできないようじゃそれこそ2人に怒られるよ。それに彼はコトロスさんやメドラエルさんと仲が良いみたいだしそっちの方のフォローに入ってもらえると助かるんだ」
「そりゃそうかもしれないけど、俺ならお前みたいに割り切れないからな。というか手助けがありならレインが代役で入る必要なかったじゃねえか!」
「それはないな。俺が許容したからエルフィン君は問題ないけど、ミラエル君たちは先生に門前払いされたし」
「うーん。レイン、お前周りから見て都合良すぎないか?」
グサリと容赦なく図星を刺してくるザスト。代役や指導役、ジワードの件を含めると、確かにザストが言うようにレインは周りから扱いやすい存在のように思われているかもしれない。
「まあレインはいいや、自分で何とかするだろうし。アリシエールさんは大丈夫だった? Aクラス連中に嫌なことされてない?」
学院の中で1番仲が良いはずのレインをまあいいやの一言で済ませると、ザストは声のトーンを1つ上げてアリシエールに声を掛けた。
なんだか面白くない対応の差ではあるが、これに関してもザストの言う通り。
自分で解決できると信頼されているからこそおざなりにされていると思えば、多少はレインも溜飲が下がるというものである。
レイン自身、自分のことよりアリシエールが心配で代役を買って出たのだから。
「大丈夫ですよ。皆さん優しかったですし、レインさんもいたので安心できましたし」
「みんなアリシエールのバニスは見てるからな、1年代表として対等に見てくれてると思うよ」
「現金なこった、力があるから認めるなんて俺には理解できないね」
ザストの言葉に、レインとアリシエールはなんとも言えない表情を浮かべてしまう。
AクラスとBクラスで差別されるのを嫌がっていたザストだが、実力を知って対等に扱われるのも彼からすれば嫌らしい。ただ純粋に青春を謳歌したい彼らしい意見だとは思うが。
「もし何か嫌がらせを受けるようなことがあったら遠慮なく言ってよ、そのために俺がいるんだから」
「はい、ザストさんのおかげでとても気楽に臨めてます」
『……ごめんアリシエールさん、俺じゃ力になれないや』
昨日アリシエールに助力を要請されたとき、辛そうな笑みとともにザストから出た言葉がそれだった。
技術的な面からフォローができないのは重々理解していたため、ザストはそう言わざるを得なかった。
友達からのお願いに自分の力不足で応えられないことにザストは苦しんだが、それでも心配をかけないよう提案したのが『愚痴を聞くこと』だった。
『直接は助けられないけど、話なら何でも聞くからさ! そういうことならいくらでも頼ってよ!』
そしてザストは、有言実行すべくアリシエールへ声をかけ続けている。時には真剣に、時にはユーモアに。彼には彼なりの応援があると言わんばかりに。
「おーいレイン。今日お前全然アリシエールさんの相手してないんだって?」
「ち、違いますよザストさん! Aクラスの方々とも物怖じせずにやり取りされててすごいって話で!」
「でもその分アリシエールさんとやり取りできなかったんじゃないの? どうなんだいレイン君?」
「ザストの言う通りだ。アリシエールには実に申し訳ないことをした」
「えっ、えっ!? なんで私謝られてるんですか!? レインさん何も悪くないですよ!?」
「ごめんよアリシエールさん、レインが不甲斐ないのは俺の不徳の致すところ。俺からも謝らせてくれ」
「待ってください、どういうノリですか!? 私も謝れば良いんですか!?」
楽しげに会話を進めながら、夜がゆっくり耽っていく。
レインもザストの各々の役割を充分理解しながら、また明日に臨むのであった。