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弱くてニューライフ~逆転のサードスクエア~  作者: 梨本 和広
2章 七貴舞踊会のフィナーレ
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50話 素直じゃない仲間

あまりに露骨な発言をしてしまったウルだったが、周りの空気が凍ったことを敏感に察知すると、


「――――ち、違うわ! 指導役として一般的な意見を聞きたいって意味だから! ターゲットとかそういう意味じゃないから!」


顔を真っ赤に染めながらも、勢いよくレインたちへ弁解した。


そう言われてレインは特に尾を引くことなく切り替える。七貴舞踊会の初参加するウルからすれば、例え学生の自分だとしても周りの意見を参考にしたいというのはおかしい話ではない。


アリシエールが不思議そうに首を捻り、ミレットが状況を楽しむようにニヤニヤしていたが、華麗にスルーすることにした。


「そういうことなら意見を述べるけど、俺の考えは参考にならないと思うぞ? さっき言った通り、俺は学生の身としてテフェッドは必要ないと思っている。その上での構成しか伝えられないけど、それでいいか?」


「い、いいわよそれで。参考にするだけなんだから」


頬の赤みが未だ残るウルは、腕を組んだままそっぽを向いてそう答えた。とても教わりたい人間の態度とは思えないが、いちいち指摘するのも面倒なのでそのまま進めることにした。



――――だが、



「そういうことならぼくは一旦離脱するよ、一人で考えてみたいからね」



レインの考えを聞く前に、ギルティアが軽く手を挙げて参加者にそう告げた。


「レイン君の構成は聞かなくていいの?」


「テフェッドを組み込まないというならそこまで参考にならないさ。ぼくは貴族の代表として、ロストロス家として、観客を楽しませる義務がある。テフェッドを使わないわけにはいかない。レイン君の考えも一理あるが、今回は見送らせてもらうよ」


そうはっきり言われてしまえば、レインもギルティアを引き留める理由はない。


学生の身でありながらここまで立派な信念を持っているのだ、それを大事に七貴舞踊会へ臨んで欲しいとレインは思う。


「構成が決まったら俺にも教えてもらっていいか? 必要ないかもしれないけど、自分なりの意見は述べたい」


「勿論だ。ミレット君、構成が決まれば君の力も必要になる。その時はよろしく頼んだ」


「あっ、そうだね! 了解です!」


そう言って、ギルティアは教室から退出した。


教室にはレインとアリシエール、ウルとミレットに、ずっと待機していたジワードだけが残った。


そのジワードが、ギルティアと入れ替わるようにレインたちの方へと歩み寄る。


「ウル、何でも訊かねえでまず自分で考えろよ。そんなんじゃ成長しねえぞ?」


否定的な言葉を受けて、ウルはムッとした表情を浮かべた。


「うるさいわね、あんたは部外者なんだから口挟まないでよ」


「部外者って、俺はお前のことを考えてだな!」


「なら言い方ってもんがあるでしょ! 成長しないってはっきり言って、ケンカ売ってるようにしか聞こえないわ!」


「はいはいストップ! 2人とも少し落ち着きましょうね」


ヒートアップしそうになるウルとジワードの会話を鎮火するミレット。その慣れた様子から、2人の言い合いは頻繁に起きているようだ。


「ジワード君、助言はいいけど言い方があるでしょ。ウルちゃんもすぐにカッカッしない、そんなだと実りのある会話ができなくなるよ」


「ケッ、人が親切で言ってんのに」


「別にジワードの力なんていらない、参加者でもないのに関係者面しないで」


「ちょっとウルちゃん!」


ミレットが思わず声を出すほどの容赦ないウルの物言いに、ジワードは呆気に取られてしまう。



そして一瞬――――ジワードが寂しそうな表情を浮かべたのをレインは見逃さなかった。



だがそれは確かに一瞬で、


「そうかい! なら部外者は大人しく退散するわ!」


怒声をウルに浴びせてから、ジワードは大きく足音を鳴らして教室を出ようとした。


ウルもミレットもその背を目で追うことしかしなかったが、



「エルフィン君、ちょっと待って」



立ち去る寸前のジワードをレインが引き留めた。


聞く耳を持たない可能性も考えたが、ジワードはあっさりと足を止める。


「何だよ?」


背を向けたままこちらを窺うジワードを見てレインはホッとする。彼は二卿三旗として、同格のコトロス家とメドラエル家のために力を貸したいのだと。そうでなければ、敵視しているレインと積極的にやり取りしようとは思わないだろう。


「よかったら七貴舞踊会の件、手伝ってくれないか? 俺だけで3人を管理するのは無理があるし、俺の指摘が正しいとは限らない。参加者3人に臆せず意見を言えるエルフィン君がいてくれれば、すごく助かるんだけど」


だからレインは下手に出た。ジワードがレインたちに協力しやすいように。


彼が本気で手伝いと思ってくれているのなら、この機を逸するはずがない。


「へっ、そこまで言うなら手伝ってやらねえこともねえけどな」


案の定、ジワードは首だけこちらに向けながら了承の意を示した。


こんなことを言えば否定されるだろうが、ジワードがウルやミレットを大切に思っていることがよく分かった。


「ふん、そんな言い方する人に手伝ってもらわなくてもいいんだから」


「はあ? お前がどう思おうが勝手に手伝いまくるからな」


「はいはい、仲良くやろうね仲良く!」


「えっ、すごく仲よさそうですけど」


「「どこがよ(だ)!!」」


「こういうところがだな」


何はともあれジワードが手伝ってくれることにより、鍛錬の質は確実に向上する。アリシエールはともかく、ウルとミレットとはうまくやってくれそうだ。


「レイン君、ありがとね?」


ウルとジワードが軽く言い合ってる中、ミレットがそっとレインに寄り添い小声でお礼を言う。


「ジワード君ったらホントに素直じゃないからさ、レイン君が声をかけてくれてよかった」


「気にしなくていいよ、彼の力を借りたいと思ったのは本当だし。彼もコトロスさんやメドラエルさんの力になりたいみたいだし」


「私というよりウルちゃんにだけどね」


「えっ、そうなの?」


レインが真顔で返答すると、ミレットは一度目を丸くしてから、大きく長い溜息をついた。


「そうだよね、レイン君が気付くわけないよね」


何とも失礼なことを言われたような気がするが、実際よく分かっていないので返す言葉がない。


「まあいいんだけどね、むしろそっちの方が都合がいいかも」


「何の話だ?」


「ああごめん、こっちの話だよ。それよりもレイン君、私にもちゃんと教えてよね? 誰かが休んだから私が頑張らなくちゃいけないんだから」


「それは勿論、俺で力になれるか分からないけど」


「なれるに決まってるよ、だって居てくれるだけで心強いんだもん」


少し頬に赤みが差したミレットの笑顔は、いつもと違い少しだけ大人びて見えた。


そう言ってもらえるのは助かるが、結果に結びつくかどうかは本番までは分からない。そのためには、可能な限り尽力する必要がある。


「ちょっとミレット! 何自分だけ教わろうとしてんの!」


「え、ウルちゃんが悪いんだよ? ジワード君と痴話喧嘩してるから」


「「誰が痴話よ(だ)誰が!」」


「この息の合いよう、アリシエールさんだってそう思うよね?」


「こ、ここで私ですか?」


レインは改めて、ここに居る皆が恥を搔かぬよう、自分が努めなければいけないと思うのであった。


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