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弱くてニューライフ~逆転のサードスクエア~  作者: 梨本 和広
2章 七貴舞踊会のフィナーレ
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49話 ターゲット

「レイン君、理由を訊かせてもらってもいいか?」


間を置かず聞き返してきたのは、先ほど堂々とテフェッドを多用すべきと主張したギルティアである。


自分の意見と真反対のことを言われてしまえば、理由の1つでも訊きたくなるのは当然のことだろう。


「先に言っておくけど、ロストロス君たちの意見を完全に否定したつもりはない。ただ、別の側面から見た場合、テフェッドの使用を押さえた方が良いと思ったから一応言ってるだけだ」


「別の側面というのは?」


間髪置かずにギルティアは質問する。それほどまでに自信を持って発言したのだろうが、レインも決して揚げ足取りをしているわけではないので、一歩一歩順を追って説明することにした。


「そもそもどうして七貴舞踊会が行われたかを考えれば、答えは出ると思うんだけど」


「どうして七貴舞踊会が行われたか……成る程」


その一言だけで、ギルティアはあっさり理解したようだった。


ローリエも説明していたが、七貴舞踊会は本来セカンドスクエアを見世物として披露することで、国の平穏を祈願するのが目的である。


戦闘ではなくあくまで見世物として。それを考慮に入れるのであれば、戦闘風景に重なるテフェッドの使用は決して適切ではない。


歴史的な背景から紐解くのであれば、必ずしもテフェッドを多用することがよいとは言えない。それがレインの考え方である。


「君の言い分は理解した。七貴舞踊会の意味を考えるのであれば確かにテフェッドは適切ではないのかもしれない。だが、七貴隊のメンバーがテフェッドを使用しているのもまた事実。ぼくらだけがテフェッドを自粛しても意味のないように思えるが、君はどう考える?」


しかしギルティアは、自分の中の情報を整理し終えると、新たな疑問をレインへと投げかけた。


利己的でも感情的でもない第三者的な観点からの質問をするギルティアにレインは安堵する。彼は決して話が分からない人間ではない。根拠があるからこそ自信を持って動ける優秀な人間である。そう言う意味では、レインとしても非常に話がしやすい相手だった。


「儀式的な意味合いが強かった初期と比べて今は催し的な意味合いが強いからね。お金も動くし、観客が望むテフェッドを今更封印することはできないだろう」


「つまりある程度のテフェッドの使用は致し方ないということか?」


「七貴隊と足並みを揃える必要はないよ。俺たちは学生、歴史を学ぶカリキュラムだって存在する。七貴舞踊会の歴史的背景を知り、その上で作り上げた構成ならば、そこにテフェッドがなくとも問題はないと思う」


「学生のぼくらを見るために来ている観客もいるかもしれないのに足並みを揃えないわけにはいかないだろう。郷に入れば郷に従え、参加するならば七貴隊の一員としての自覚を持つべきだ」


「学生を目的に来ている通な観客が大衆と同じ観点で喜ぶとは考えにくいけど、こればっかりは統計も何もない憶測でしかない。俺から言えるのはこれくらいだから、どう判断するかは皆に委ねるけど」


「ありがとうレイン君、とても参考になったよ」


テフェッドのあり方について長々と討論し続けたレインとギルティア。熱中しすぎて、女性陣が呆気に取られていることにようやく気付くことができた。


「……そこまで考えなきゃいけないわけ?」


真っ先に思い浮かんだ質問をレインにぶつけるウル。2人の会話を聞きながら、あまりに細かいところまで考えすぎな気がしていた。


「うーん、それに答える前になんだけど、コトロスさんは今回どうして七貴舞踊会に出ようと思ったの?」


質問の返答ではなく、思いがけない質問で返されウルは狼狽えた。


ウルは今回の七貴舞踊会に参加するつもりはなかった。


というのも、一緒に参加したい相手がとても出る気があるとは思えなかったからだ。


ならば自分も出なくていい、個人で出ることに何も拘っていない。他に出たい人間に枠を譲ってやればいい、ウルはギリギリまで本気でそう思っていた。



――――アリシエール・ストフォードが立候補するまでは。



彼女が立候補した瞬間、彼女が勇気をもらうようにある方向へ視線を向けた瞬間、彼が七貴舞踊会に関わってくるのだと直感した。


アリシエールは火力だけ見ればAクラス上位にも引けを取らない実力者だが、性格的に前を出るタイプではない。自分の実力を信じて立候補したとは思えない。


どういった事情で立候補したかは知らないが、信頼できる存在がいたからこそ四面楚歌な状況でも手を挙げることができた。


そうと分かれば残り1つの枠を誰かに譲るわけにはいかない。少しでも彼と一緒に七貴舞踊会に出る可能性があるのなら。



――――が、当の本人を目の前にして、そんなこと言えるわけがない。ウルは返答に迷いながら、少しずつ顔が熱くなっていくのを感じた。



「コトロスさん?」


「こ、こ、誇示するためよ! あたしの力はこれだけすごいって見せつけるため!」


そしてウルは、心の底からどうでもいいと思っていることを口にしてしまう。他生徒がたまに主張する低俗でしかない考え方を、本心を隠すために使ってしまった。


こうなればウルには別の不安が押し寄せてしまう。こんな主張をしてしまう自分の見る目が変わってしまうのではないかという、この上ない不安。


「つまりコトロスさんは、七貴舞踊会を経て一定の評価を得たいということだよね?」


だがレインは、ウルの不安などどこ吹く風と言わんばかりに返答した。ウルは少し戸惑いながらも「え、ええ」とレインへ返す。


「それなら誰に向けてバニスを披露することが最大の評価に繋がるか考える必要がある。模擬戦や戦闘訓練と違って七貴舞踊会には勝敗がないんだから」


「誰に向けて……」


「俺とロストロス君の会話もそれに繋がってくる。観客をターゲットとするのか、歴史を鑑みて七貴舞踊会の運営をターゲットとするのか。考え方は各々だから正解はないけど、自分は誰に見せたいのかを定めた方が良い。これ次第でバニスの組み立て方は変わってくるからね。……って勝手にこんなこと言っちゃまずかったですかね?」


「構わん。お前の立ち位置はそれで合っているからな」


一人で喋りすぎかとローリエの様子を窺うレインだったが、思いの外上機嫌気味に返答が来た。失礼ながら真面目無愛想な印象が強かっただけにこの反応は意外だった。七貴舞踊会にプラスに働く存在として認められたのだと、レインは勝手に解釈することにした。


「レイン・クレストが言っていたように演舞の構成に正解はない。だからこそ評価されたい対象を定めてそこに向けて形を作れ。分からないところがあれば私やその他教員を捕まえて訊けばいい。過去の七貴舞踊会の記録が見たければ教員室へ来い、個々のファーストスクエアから見られるようにする。以上で七貴舞踊会の説明を終える、各自励んでくれ」


ローリエの締めにより、七貴舞踊会の説明会が終わる。魅せ方の説明だけで、どういう風に魅せるかは各々で考えるようだ。確かに、教員に魅せ方を指定されるよりは自由な発想で考えた方が最初はいいだろう。過去の記録を見るのはそれからで問題ない。


「レイン・クレスト」


ローリエが教室から去ると同時に、レインはウルから声をかけられた。


このタイミングで訊かれるとすればターゲットの考え方やそれに対するエクナドやテフェッドの構成割合などについてであろうか。自分も一生徒でしかないので、そこまで頼られても仕方がないのだが。



「えっと、その……あんたはさ、どういう構成だといいって思うの?」



ターゲットの話をした直後のこの質問。


あまりに直球過ぎて、さすがのレインも一瞬固まってしまうのであった。


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