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弱くてニューライフ~逆転のサードスクエア~  作者: 梨本 和広
2章 七貴舞踊会のフィナーレ
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48話 七貴舞踊会の魅せ方

「ダメですね」


ローリエの言い分を聞くことなく否定したレインは、当の本人にひどく睨まれた。


代役を立候補した時のローリエと同じ否定の仕方にミレットは笑いそうになったが、なんとか堪えて2人の様子を窺う。


端的に言えば生徒であるレインを頼る先生側に問題があることは否めないが、それに対しローリエがどう切り返すか興味があった。


「どうしてダメなんだ?」


「いやいや、そんな資格俺にはありませんよ。そもそも指導って教師がやることで、生徒の俺がやることでは」


「そんな決まりはない。指導はできる者がやるべきで、お前はそちら側の人間だ。現に、戦闘訓練時の作戦の組み立てや細かい対処法は全てお前が考えたはずだ」


見事なカウンターを食らい、真っ先にニヤニヤと笑みを浮かべる担任教師を思い出すレイン。対戦後とはいえ、こちらの情報をバラすというのはいかがなものだろうか。


心なしか代表者+ジワードの視線が集中したような気がして、レインはさらに居心地の悪さを感じた。何か返さなければ、こんな状態が長続きしてしまう。


「戦闘訓練時に上手くいったものが七貴舞踊会で上手くいくとは限りません。そもそも作戦が成功したのは俺以外の2人の地力があってこそで」


「その地力を訓練で安定させたのはお前だという話だが?」


躱せば躱すほどボロが出る状況に、レインは思わず泣きそうになった。これから自分の進捗を担任教師に伝達するのは止めようと心の底から誓った。


「……100歩譲って俺に指導力があったとして、俺に教えられる生徒の立場はどうなるんですか? 教師ではなく生徒に教わるんじゃこの学院に来ている意味がないと批判が出てしまい――――」


「あたしは一向に構わないわ」


レインの言葉を遮ったのは、相変わらず不機嫌な表情をしているウル。いい加減2人のやり取りにうんざりしたようだ。


「あんたが間違ってるって思ったら従わなければいいんでしょ、なら問題はないわ」


「確かに。指導が良いかどうかはぼくらで判断すればいい。先生方に聞くという選択肢もあるんだからそこまで気張る必要はないさ」


ウルの発言にギルティアが同調する。必ずしもレインに従う必要がない以上、2人もレインの指導を断る理由はないのだろう。


ここでレインは軽く肩を落とす。もう1人の代表者が否定的であればレインももう少し抗えたが、アリシエールがレインに対して否定的な態度を取るわけがない。


七貴舞踊会、レインは指導側として立ち回ることが決定した。


「そう肩を落とすな。別に積極的に何かをすればいいってわけじゃない、意見を求められたら真摯に答えてくれるだけでいい。私が主だって指導に入るんだからな」


「……分かりました」


「うん、レイン・クレストの了承も得られたところで早速説明に入る。七貴舞踊会は大きく分けて3種の魅せ方というものが存在する」


そう言うと、ローリエは普段の授業を開始するがのごとく黒板に記載を始めた。


「1つ目は『エクナド』、己のバニスだけで観客に魅了する演舞補助を利用しないやり方だ。主にサードスクエアとセットに使用することが多い」


「すみません先生、じゃあエクナドの時は演舞補助役って何してたらいいんですか?」


演舞補助役であれば気になってしまうであろう点をミレットが質問した。


「2つある。見栄えは悪いが何もしないで立っているか、代表者のバニスの邪魔にならないようバニスで背景の演出をするかだ」


「前者は何かイヤだし、後者は後者で難しそうですね」


「エクナドのタイミングが最初なら登場しないという方法もある。演舞補助が最初からいる必要はないからな」


「成る程成る程、参考にしますね」


ミレットが納得したのを確認すると、ローリエはそのまま説明を再開する。


「2つ目は『レニス』、代表者のバニスと演舞補助のバニスを組み合わせて魅せるやり方だ。簡易なものならともかく、はっきり言ってかなり難易度が高いためあまりオススメはしたくない。だが、やってみたいというなら昨年の記録を見てみるといい、ウィグを中心に考えるのがコツだ」


ローリエは一呼吸置くと、「最後に」と前置きしてから話し始める。


「3つ目は『テフェッド』、演舞補助のバニスに代表者のバニスをぶつけて魅せるやり方だ。分かりやすくてシンプルだが、間違っても演舞補助側のバニスが勝ってしまうようなミスだけはやめてくれ。一気に場がしらけてしまうからな」


ここで七貴舞踊会の3つの魅せ方が出揃う。エクナド、レニス、テフェッド。限られた時間の中で上手く3種を組み合わせることができれば、代表として恥ずかしくないと評価されることだろう。


「では各々に質問だが、3分という時間の中で先の3種をどう使い分けるのがいいと思う?」


実際に組み立てを行う前に、代表者3人に問うローリエ。明確な答えが存在する質疑ではないはずだが、ローリエの意図はどこに存在するのか。


「使い分けというとまだ見えていませんが、テフェッドを多用するのが一番だと思います」


口火を切ったのは成績Aクラス1位であるギルティア・ロストロス。まだ見えていないと言う割には、とても自信に満ちた表情でローリエを見つめていた。


「その根拠は?」


「何度か七貴舞踊会を観覧していますが、盛り上がりを見せるのはバニスとバニスが衝突する瞬間です。来ていただいている観客を飽きさせないためにも、テフェッドを多用するのは有効だと思われます」


「成る程な」


近年の傾向を念頭に置いた立派な模範解答だった。催しという側面から検討した観客第一の考え方は決して間違っていないだろう。


ギルティアの解答に軽く頷くと、ローリエの視線がアリシエールへと移る。先ほど各々に質問と言ったように、1人ずつ順番に聞いていくようだ。


「わ、私もロストロスさんと一緒です。見ていただいているお客様のために頑張りたいと思うので、お客様が楽しめる構成で考えたいと思います」


「ウル・コトロスは?」


「あたしも2人と大方変わりませんが、多用していいのかは疑問が残ります。雑な構成でテフェッドを使用しても、観客は飽きる可能性がありますから」


「雑な構成でもスピード感があれば観客は盛り上がる。丁寧を売りにして失敗すれば盛り下がる。どちらを優先すべきかは一目瞭然だと思うが」


「あんたの意見を押しつけないでよ、あたしはあたしなりの魅せ方を追究したいんだから」


「言い争うな。まだ通して行ったわけでもないのに意見をぶつけ合っても仕方がないだろう」


割って入ったギルティアのせいで一瞬険悪な空気が流れ始めたが、ローリエがピシャリとそれを遮断する。慣れた様子から見るに、Aクラスでの論争は日常茶飯事なのかもしれない。上位のメンバーだけみても、とても意見が揃う仲良しクラスには思えなかった。


「ミレット・メドラエルは? お前も代表者として出場する可能性があるんだから答えろ」


「そうですねぇ、私はアリシエールさん寄りかな。テフェッドがいいのかはこの後研究して調べるとして、お客様ありきの催しだからお客様を楽しませる構成にしたいですね」


代役含めて、代表者の意見が出揃った。簡単にまとめるのであれば観客を優先した構成にすること、そのためにテフェッドを多く使用するのが良いのではないかということ。


昨年の七貴舞踊会を見たレインも、皆の考え方が大きく外れているとは思わない。セカンドスクエアを日常的に見ることがない観客にとっては、疑似戦闘は非日常的で刺激的なものなのだから。



――――だが、それをすんなり肯定していては、指導者などいてもいなくても変わらない。



決して乗り気になっているわけではない。しかしながら、仮にも指導者としての役割を持たされた以上、自分の意見を伝えずにいるわけにはいかない。


「レイン・クレスト、皆の意見を聞いてどう思った?」


レインの心を読んだかのように絶好の質問がローリエから飛ばされる。


自分の意見など不要だと思うなら聞き入れなくていい。だからレインは容赦なく自分の意見を口にした。



「はっきり言うなら、テフェッドの使用は好ましくないですね」



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