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弱くてニューライフ~逆転のサードスクエア~  作者: 梨本 和広
2章 七貴舞踊会のフィナーレ
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46話 代役

「レインさん、ザストさん、実はお話があるのですが」


戦闘訓練後の懇親会を終え、学院に戻るために各チームの馬車に乗ったタイミングで、アリシエールは2人へ切り出した。その表情はどこか暗かった。


「どうかした?」とザストが相槌を打ってもなかなか返事がこず、両手をこねくり回しながらもぞもぞとしている。


言いにくいことなのは察することができたが、戦闘訓練の前ではなく後に言われることなど思い当たらなかった。


「まさかアリシエールさん、実は友達関係が迷惑だったとか……」


もしや、と哀しい想像をしたところで、ザストがレインとまったく同じ思いを口にした。


思い返せばチームに入ってもらった時もかなり強引な展開だったように思う。チーム解消にあたって心変わりしてしまった可能性もなくはないのだが、


「そんなことあり得るわけないじゃないですか! 私はお二人と仲良くできて本当に嬉しいんですから!」


もじもじしていたのが嘘のように強く反論したアリシエール。


その言葉を聞いて安心する2人だったが、余計にアリシエールが何か言い渋っている理由が分からなくなった。


「ご、ごめんなさい。私が何も言わないせいですよね」


「それは大丈夫だから、話しづらかったら今話さなくてもいいんだし」


「いえ、その、明日までには聞いてもらいたくて」


意味深な台詞を呟くと、アリシエールは覚悟を決めたように2人を見つめた。


「わ、私、七貴舞踊会に参加したいって思ってるんです!」


意を決して放たれた彼女の言葉は、確かにレインとザストを驚かせるものであった。


アリシエールは決して、七貴舞踊会に出るためにザストのチームに入ったわけではない。少なくともレインとザストはそう認識している。


そんな彼女が、それも引っ込み思案なところもある彼女が、大舞台である七貴舞踊会に出るとは到底思えなかった。



――だからこそ、退けない覚悟を持って自分たちに伝えているのだとレインたちは思った。



「も、もちろん、3人以上の立候補者がいなかったらですが……」


「応援するよ、俺!」


少しばかり弱気になったアリシエールの手を取ってエールを送ったのはザストだった。


「アリシエールさんならAクラスの連中より目立てると思うし、頑張ってほしい。アリシエールさんが自分で決めたことなら尚更だ」


「ザストさん……」


「俺もザストと同じ気持ちだ。アリシエールが七貴舞踊会で頑張りたいって思うなら、できるだけ応援する」


迷いが生じて言いづらくしていたのなら、自分たちがアリシエールをフォローして自信を持ってもらう。


間違いなく彼女には、七貴舞踊会の参加資格があるのだから。


「ありがとうございます2人とも」


「いえいえ、こうは言っても何ができるか分からないし」


「はい。ですからその、おこがましいとは思うんですがお願いしたいことがあって」


そう前置きをしてから、アリシエールはレインとザストへ依頼をした。



「2人に、私のサポートをお願いしたいと思いまして」



―*―



「アリシエール出るつもりだったんだ。まあアリシエールなら問題ないと思うよ、フィアの火力はリナにも負けてないし」


イリーナの話を聞いてさらにざわつき始めるAクラス教室。真偽はともかく、Aクラス2位であるイリーナに火力で負けていない人間がBクラスにいることに驚きを隠せなかった。


視線が集中し、手を挙げているのが恥ずかしくなってくるアリシエール。立候補しただけでここまで注目されることになるとは思わなかった。


「静かにしろ」


ローリエの一言で静まるAクラス。その視線は再度アリシエールに向けられた。


「アリシエール・ストフォード。七貴舞踊会に出るということは学院の代表として表に立つことを意味している。学院のレベルを上げるも下げるもお前の出来次第ということだ。その覚悟を持って、お前は七貴舞踊会に臨むということでいいんだな?」


辞退を強要するような強い言葉だった。アークストレア学院を背負うことの重さを伝える、そんな言葉。


アリシエールは顔を引きつらせ、言葉を詰まらせる。その場から逃げ出したい衝動に駆られたが、踏みとどまった。


そして勇気をもらうように一度レインたちを見やると、ローリエの方に向き直ってぴしゃりと言い放つ。


「はい。アークストレア学院の代表として、七貴舞踊会に参加します」


「……よかろう。2人目はお前だ、アリシエール・ストフォード」


「ありがとうございます」


ローリエがアリシエールの参加を認めたことにより、Aクラスの生徒たちも少しずつ理解していく。アリシエール・ストフォードというBクラスの生徒が、本当にイリーナに匹敵するフィアを放つであろうことを。決して贔屓が発生したわけではないことを。


ではそもそもそれほど強いフィアを放てる彼女がどうしてBクラスなのかと考え始めた頃、最後の立候補者の手が挙がった。


その生徒の表情は、普段に増して不機嫌そうだった。


「ウル・コトロス。参加でいいんだな?」


「出るつもりはなかったんですが、気が変わったので」


その発言後、何故かウルから強烈な視線を受けたレイン。あたかも自分のせいで立候補をしたような口ぶりだったが、まるで身に覚えがなかった。


「お前ならば問題ない。その他立候補者がいないのであれば演舞補助と代役を決めたいと思うが」


「はーい、演舞補助なら私がやりますよ」


張り詰めていた空気の中、笑顔で手を挙げたのはミレット・メドラエルだった。


「……いいのか? お前なら代表側でも充分やれると思っているが」


「3人決まってるのに割り込むのはちょっと。ウルちゃんのフォローをしたいと思っただけなのでそこは気にしないでください」


「いや、他の2名のフォローもしてもらわないと困るのだが」


「もちろんです! ごめんなさい、言葉足りなかったですね」


一時はメンバーすら決まらない沈黙状態だったというのに、どうやら上手く話は進んでいるようだ。それにメンバーを見る限り、Aクラス上位にそのAクラスにも火力で劣らないアリシエールという悪くない選出である。これならばローリエも不満を抱くことはないだろう。


「ローリエ先生、1つ質問があるんですが」


残り代役を決めるだけというところで、レインは軽く手を挙げた。当然視線が集中するが、レインは一切気に留める様子はない。


「なんだ?」


「過去の七貴舞踊会参加の際に、代役の方が本番で対応したケースってあるんですか?」


「ない。うちの学院で参加しているものは皆、本番でも問題なく出場している。緊急時でもなければ、代役の出番は皆無と言って差し支えはないだろう」


「成る程、ありがとうございます。それを聞いて安心しました」


そう言ってレインは、軽く挙げていた手を真っ直ぐ天に向けて伸ばした。


それを見たアリシエールの表情に、心なしか笑顔が生まれる。


「……どういうつもりだレイン・クレスト?」


アリシエールの対応をした時とは異なり、鋭くレインを睨み付けるローリエ。質疑の内容とそこから挙げられた手を見れば、彼女が怒るのも無理はない。



「どういうつもりも何も、俺に代役をやらせてください」



レイン・クレストは、決して参加することを念頭に置かず、七貴舞踊会の代役に立候補していた。



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