表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
弱くてニューライフ~逆転のサードスクエア~  作者: 梨本 和広
2章 七貴舞踊会のフィナーレ
76/134

44話 雨降って地固まる

「皆、今日の戦闘訓練はご苦労だった」


1階に戦闘訓練の参加者全員を集めると、ローリエはまず最初にねぎらいの言葉を漏らす。


シャルアの対応が早かったこともあり、ソアラたち気絶組もほぼ全快の状態でこの場に立っている。


「はっきり言ってこの戦闘訓練は今の時期に行わない完全なイレギュラーなものであり、成績に一切反映されないのは以前から伝えた通りだ。だが訓練とはいえ、一足先に実践の怖さを体感できたことは貴重であり、今後の学院生活に活かしてもらえればと思う。それとBクラスのカスティールのチームは約束通り、七貴舞踊会の参加資格を得た。希望する者は私に声を掛けてくれ」


そう言われて、レインはこの戦闘訓練がそもそも七貴舞踊会の参加資格を得るための戦いであることを思い出した。


ザストやアリシエールには良い経験になるとは思うが、ザストは()()()、アリシエールは性格上参加を示すことはないだろう。


Bクラスから勝者が出たのに結局参加するのはAクラスのみ。これでは本当に戦闘訓練に意味がなかったと言われてしまうが、やる気がないのに出てしまうのは問題であるため仕方が無いだろう。


「最後になるが、今から学院に戻っても昼食の時間には間に合わないだろう。ささやかながら簡単な食事を用意した。対戦とはいえ貴重な他クラスとの催しだ、交流を深めるといい」


ローリエの合図で、この建物の職員らしき人たちが料理やドリンクを乗せた運搬車を牽いてきた。


予想だにしないご褒美に、イリーナやザストの瞳が輝き出す。


戦闘訓練の最後は、両クラス代表者による懇親会で締めるようだ。



―*―



懇親会は、あまりうまくいっていないようにレインには思えた。


ビュッフェ形式で各自必要な量を皿に取り、立ちながら食事をしている現状だが、Bクラスはチーム毎にまとまってしまっている。


戦闘訓練の内容が内容だけに話しづらいのかも知れないが、Aクラスと交流する機会は少ない。Aクラスの授業内容を聞くなど、いろいろ会話をしてみればいいのにとレインは思った。



――――正確には、お願いだから誰かと会話してくれと懇願していた。



「カスティール。あたしとミレットがストフォードのフィアを防ぐためにバニスを放ったとき、どうして避けたの? 当たってたらもっと楽に展開を進められたんじゃないの?」


「いやいや、実際2人のバニスを見たらポイントのためでも掠りたくないよ。あれ見てやっぱりAクラスってすごいってなったわけだし」


「そうは言うけどザスト君のサンガも強力だったよね、Aクラスの中でも強い方だと思うけど」


「それを言ったらアリシエールのフィアの方がすごいよ。リナ、正直あれに見とれちゃってたし」


「そ、そんな! わ、私なんて皆さんの足元にも及ばない若輩者で!」


「謙虚も過ぎると嫌味って言うけど、あんたは見ていて可哀想になってくるわね」


レインはドリンクを飲みながら、自分の前で仲良く会話する5人に若干辟易していた。


戦闘訓練も終わったわけだしわざわざ一緒にいる必要はないと思っていたレインだったが、当然のようにザストとアリシエールがレインの元へ訪れ、アリシエールに懐いたらしいイリーナが彼女のいるこの場に合流したかと思うと、それを追いかけるようにしてウルとミレットが集団に加わった。


誰がどこで会話しようが皆の勝手ではあるが、自分の目の前でそれが成されるとさすがに居心地が悪い。そういうわけで、Bクラス一同にはもう少しウルたちと交流を図る努力をしてほしかった。


「クレスト」


レインの願いが通じたのか、同じくドリンクを持ったソアラがレインへ声をかけてきた。


レインのグラスと一度重ねて音を鳴らし、『お疲れ様』を表現する。


「あんたは何かやりそうな空気を持ってたけど、まさか勝つとは恐れ入ったよ」


「俺はほとんど何もしてないけどな」


「へえ、じゃあカスティールとストフォードの力だけで勝ったんだ。Aクラス相手だってのに随分ナメてるんだね」


「……訂正する。チーム一丸となって得た勝利だ」


「最初からそう言えばいいのに、なんでわざわざ自分を落とすんだろうね」


からかうように微笑むと、満足したのかチームメンバーの元へ戻っていくソアラ。


「いい対戦だった、参考になったよ。また何かあったらいろいろ訊かせてもらうから」


そう残して去っていくソアラを見ながら、Aクラスの誰かを連れて行って欲しかったと思うレイン。


飄々とした立ち振る舞いの彼女だが、仲間意識が意外と強いのかもしれない。


「やあレイン、快勝だったね」


ソアラと入れ替わるようにレインへ声をかけたのはグレイ。いつものように爽やかな笑みを浮かべながら、労いの言葉をかけてきた。


「どう見てもギリギリだっただろうに」


「そうかな? 偶然なのか作戦なのか、君たちはできるだけ相手にプレストラップを使わせないように立ち回っているように見えたけど」


グレイは、イリーナのチームが2ヶ所しかプレストラップを使用できてないことを言っているのであろう。


「そもそもプレストラップは全体に散らしてるんだ、そこに相手が行かなきゃ使用する機会はないよ」


「チームで5ヶ所も使用しておいてよく言うね」


そう言われれば返す言葉もない。はっきり言って、今回の戦闘訓練は上手くいきすぎていた。


「まあそこが肝なんだろうけどね。君たちはBクラスで、逃げるようにして戦うのは当然。それを装ってAクラスを自分のフィールドに引きずり込むことができていたってことかな、イリーナたちもよくやってたと思うけど」


「……意外だな、ミラエル君は負けた側に辛口な評価をするものかと思ってたけど」


「敗北者に人権はないって言いたいところだけど、今回は相手が相手だ。Bクラスとは思えない火力の持ち主2人もいたんじゃ勝敗がどちらに転んだって不思議じゃないさ。もちろん、僕がやってたら勝ってたけど」


相変わらずの自信に満ちた表情に、苦笑するしかできないレイン。この男から自信を奪い去るには、敗北を教えるしか方法はないのだろう。


「あっグレイ! お前ちゃんとレインに謝ったのかよ!」


レインと話すグレイに気付いたのか、ザストが大きな声を上げて2人に割って入る。戦闘訓練前も同じ話題で怒っていたザストだが、どうやらしっかり謝罪させないと気が済まないらしい。


「僕がレインに謝ることなんてあったかい?」


「テメエ、あんだけ人を悪者扱いしててそれはねえだろ」


「あんなの盤外戦術の一つじゃないか、僕はレインが嫌な奴だなんて思ってないよ」


「お前は思ってなくても他の奴が思ったかも知れねえだろ!」


「あれを気にするようだとAクラスになんか到底上がれないと思うが、レインはどう思う?」


唐突に話を振られ、一瞬動揺するレイン。正直、第三者のように話を聞いていた。


「どうって何が?」


「僕は君に謝った方がいいのかい?」


「何も謝ることはないと思うけど」


「だろうね、君がそんなこと気にするとは思わなかったし」


「レ~イ~ン~!」


ふふっと笑うグレイとは対照的に、ザストは怒りの炎に身を包んでいた。


「自分を大切にしなさい! 親しき仲にも礼儀あり! あんまり甘いこと言ってたらグレイはつけあがり続けるからな!?」


「何言ったってミラエル君は変わらないよ、それが彼なんだから」


「その通り、レインは僕のことをよく分かってるね」


「ぐぬぬ! 言っとくが一番の相棒ポジションは俺だからな! 貴様には渡さんぞグレイ!」


「相棒じゃ戦えないじゃないか、僕には必要ないから君に進呈してあげるよ」


「マジ? なんだよグレイ、話が分かるじゃないか」


最初の怒りはどこへいったのやら、ザストはすっかりグレイに籠絡されてしまっていた。


再び会話から外れたレインは、ゆっくり今日の戦闘訓練を振り返る。


ギルティアの攻撃やザストのチーム編成によりAクラスへの嫌悪感が募りかけていたが、今の状況を見る限りはそれは払拭されているようだ。


自分たちが勝利したおかげで幾分気持ちが収まったということなら、それは誇って良いのかも知れない。


AクラスとBクラスを交えた訓練などこの先いくらでもある。その度に相手に怒りを覚えていては話にならない。


それこそこういった場を設け、仲を深めていく方が今後の生活を考えてもいいと言える。



必要以上に馴れ合う必要はないが、無駄に警戒していがみ合うようなことがなくなればいいと、レインは他人事のように思うのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ