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弱くてニューライフ~逆転のサードスクエア~  作者: 梨本 和広
2章 七貴舞踊会のフィナーレ
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41話 潜む影

レインとザストはAクラスの生徒たちと距離を取るため『9』の方へ駆けだし角を曲がり、『6』の方へと移動しようとしていた。


しかし後から追いかけてくるイリーナに少しずつ差を縮められ、これ以上漠然と逃げ続けるのは困難だと確信する。


「ザスト!」


「しゃあないな!」


レインの呼びかけで足を止め、後方から迫るイリーナと向き合うことを決めたザスト。背を向けたまま逃げ続けて弱点を晒すよりも、向き合って背を見せないようにした方がいいと考えたからだ。


「ふーん、どうしようかな?」


その光景を見たイリーナは、速度を落とすことなくザストに向けて突っ込んでいく。


一瞬驚かされたザストだったが、すぐに切り替え迫ってくるイリーナに対して右手を向ける。


レインの家で訓練をしていた時、今のイリーナのようにリゲルが距離を詰めてくることがあった。その時の対処法を思い返し、イリーナを迎え撃つ。


右手は相手との距離を測り、そして誘い出すためにある。


向かってくるイリーナがもう一段階スピードを上げたタイミングで、ザストは右手を後方に引き、腹部を右方向へと向けた。


「っ!」


ザストの右腕に掴まり裏を取ろうとしていたイリーナは、案の定空振りし、ザストの右側を頭から滑るように突っ込んでしまう。


「なんの!」


しかしイリーナは、何事もなかったかのように両手で地面を弾くと、身体を捻って左側にある柱に着陸、瞬時に膝を柔らかく使ってザストの上を飛んだ。


放物線を描くようにザストの背後を取り、イリーナはあっさりとザストの背中に触れてしまう。


「これで10ポイン――」


満足げに放たれた言葉は、背中に触れられた感触で断ち切られた。


落下点を予測され狙われたのであろう。余裕がなかったとはいえ、イリーナは相手が2人いることを完全に失念していた。


反射的に後方に向けて腕を払ったイリーナだったが、その人物――レイン・クレストは腰を低くしてそれを躱す。


そして、両手を地面につけたかと思うと右足を地面を舐めるように回転させ、イリーナの足を払った。


僅かにバランスを崩すも、イリーナは後方に大きく跳んで距離を取る。レインに奪われたポイントを奪い返したかったが、ザストに自分の背中が狙われていることを知り、仕切り直したのであろう。


ここでイリーナの標的が完全にレインへと切り替わる。既に背中に触れたザストを追いかけ回す必要がないため、当然の行動である。


レインは再度イリーナと距離を取り、イリーナはまたレインを追いかける。先ほどとほぼ同じ展開であるが、このタイミングでウルとミレットが『8』の方から姿を現した。


そして、この状況を見たミレットが、すぐさまセカンドスクエアを展開する。それを目にしたザストは、ミレットが何をするか判断する前にセカンドスクエアを展開した。



移動している、レインに向けて。



「レイン! 気を付けろよ!」


ザストがバニスを選んだ瞬間、レインの進行方向左側の柱にあるプレストラップが光り出す。おそらくミレットが展開したものであり、このままでは容赦なくレインを呑み込んでしまうだろう。


イリーナに追いかけられている手前、足を止めて回避することはできない。



だからザストは、2つ目に得意である風の陣ウィグを、レインに向けて放った。



ウルと比べれば弱く、レインと比べれば強い風の帯がレインを背中から襲う。


そしてその風は、容赦なくレインを()()()()()()()()()


「なっ!?」


オルテを放ったミレットは、まさかの回避方法に驚きを隠せない。


発動したオルテによって足止めされたイリーナも、不意を突かれたように顔色を変えていた。


バニスの命中または足止めを成功させたはずの攻撃が、味方から攻撃されることで失敗するなど露ほど思わなかったのである。


しかしながら、その突拍子のなさがウルの思考を冷静にさせていた。



――――どうしてレイン・クレストは、自分で対応しなかったのか。



先ほどの回避にしても、序盤のイリーナの接近の時も、レインのフォローはザストが行っていた。


そういう役割分担だったといえば話は終わりだが、ウルからすれば違和感を覚えざるを得ない状況である。


何故ならば、レインが開始直後の攻撃以降セカンドスクエアを展開していないからである。自分の見えないところで展開していた可能性はあるが、少なくとも今現在一度も見ていない。


彼のように円滑にセカンドスクエアを使用できる者がそれを使わないなんてあり得ない。自分がレインの立場だったら、先ほどのように身の安全を他人に任せるなど決してできない。出来るはずがないのである。


そこまで考えて、ウルは思考を改めた。



――――まさかレインは、自分で対応しなかったのではなく、対応できなかったのではないかと。



できないのあれば、当然仲間に助けを求めるしか方法はない。


では、何故できないのか。


考えられる可能性は一つ。


レインは既に、何かしらのバニスを発動している。


発動して終わりの基本五称ではないその他のバニス。


「まさか!?」


ウルは一つのバニスに思い当たり、辺りを隈なく調べ始めた。


そして、柱の上に何かが乗っかっていることに気付く。上を見なければ決して気が付かないような、小さな何か。


目を凝らせば鳥のように見えるそれは、その場からは動かず首だけをゆっくり左右に動かしている。


室内である戦闘訓練のフィールドに、偶然小鳥が紛れ込むことは勿論ない。


つまるところ、レインがバニスを使用しないのは、アニマによって小鳥を召喚しているからだと推測できる。


では、どうして小鳥を召喚しているのか?


アニマで鳥を使用するのは、サードスクエアで鳥の視界を得ることで、近辺の状況を把握するためというのが通例である。


だが今回、レインがこの場にいるにも関わらず、アニマで召喚された小鳥は現状を把握するようにウルたちを見下ろしている。


他の人間がこの場を見るために使用しているならともかく、レインが使用する意味はない。



――――他の人間。



「ミレット! すぐセカンドスクエアを展開しなさい!」


「えっ、でも」


「いいから!」


ウルは急いでセカンドスクエアを展開しながら、慌ただしくも一つの仮説を立てた。


柱の上にいる小鳥は、間違いなくレインがアニマによって召喚したものだろう。そうでなければ、彼自身で切り抜けることができる場面は多々あったはず。


だがもし、小鳥はレインが動かしているものの、視界は別の人間が得ているのだとしたら?


ウルはこの場にいないアリシエールの存在を思い出す。


アニマで召喚した動物の視界を召喚していない人間が得るなど聞いたことがない。だが、そういったことが可能なのであれば、今の状況に説明がつく。


レインは、アリシエールが現状を把握するためにアニマを使用しているのだと。


そしてそれが示唆するもう一つの可能性。



()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



ウルたちは今、レインやザストの手の動きを見て、プレストラップを起動させるのかどうか予測を立てて動いている。


プレストラップが光ってから動くようでは回避のタイミングがギリギリになり、攻撃を受ける可能性が出てしまうからである。


もしアリシエールが小鳥の視界を通じてプレストラップを発動させたら、ウルたちの反応は確実に遅れる。


この状況で狙われるのは、間違いなく1人。


「逃さないってば!」


ザストのウィグで間一髪逃れたレインは、『6』から『5』の方へと駆けだしていく。ミレットのオルテ消失後、イリーナは急いでその背を追いかける。



――――その瞬間を完璧に把握していたように、『6』の壁面のプレストラップが、光を放ち始めた。



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