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弱くてニューライフ~逆転のサードスクエア~  作者: 梨本 和広
2章 七貴舞踊会のフィナーレ
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33話 お礼

ソアラたちBクラスのメンバーが1階に下りてから10分ほど経過したが、戦闘訓練は未だ始まる気配を見せない。


リエリィーの話だと、どうやらプレストラップの位置が3度の照らし合わせでも重複しており、やり直しが続いているらしい。


攻めに使いやすい壁面のプレストラップを譲らなければ当然こういうことが起きてもおかしくはない。先ほどソアラに壁面のプレストラップには気を付けるよう言っていたため、尚のこと壁面は確保したいのだろう。


しかしながら、グレイたちは4ヶ所しか設置しないにも関わらずうまくばらけないということは、片方のチームが無茶な配置を検討している可能性がある。


そしてそれはおそらくソアラのチームであろう。わざと取れるはずのない壁面4ヶ所を選択し続け、グレイやジワードの動揺やいらつきを誘っているのかもしれない。先ほどの様子を見る限りソアラは、グレイを打ち負かすためならどんな小さなことでもやってやろうという意志が感じられた。


これはまだまだかかると思ったレインは、一つ用件を済ませるためにある生徒の元へ足を運ぶ。


「……何よ?」


レインが声を掛ける前に目的の人物――――ウル・コトロスはレインを警戒するように眼を細めた。


「対戦相手が対戦前に話しかけてくるなんてマナー違反じゃないの?」


怪訝そうな表情を浮かべている理由はこれだった。確かに、ウルの言うことも一理ある。


――もっとも、ウル・コトロスは日常的にも不機嫌な面持ちをしていることが多いような気もするが。


「そういうことなら出直すよ」


「ちょ、ちょっと待ちなさい!」


どっち?、と思わずツッコミを入れたくなるような早さで手の平を返してくるウル。


「ん?」


「……本当に出直してくるんでしょうね?」


「……?」


彼女の真意が読み取れず、レインは思わず少し小首を傾げてしまう。


その仕草が癪に障ったのか、ウルは少し頬を膨らませて唇を噛んだ。


「だから、その、出直すって言ったのに、『やっぱいいや』ってなって、えと、その……」


最初こそ怒気を孕んでいたウルの声が、表情と一緒に少しずつ沈んでいく。


「じれったい!!」


結局のところ彼女は何を言いたいんだろうとウルのコロコロ変わる表情を見つめていたレインだったが、何やら我慢の限界がきたのか、声を荒げるミレットから横槍が入る。


「な、なによミレット」


「そういうところ! そういうところだよウルちゃん! 口下手なくせに素直じゃないから本意が全然伝わらない! そんなだからレイン君、ポカーンとしちゃってるよ!?」


「だって仕方ないじゃない! 今は戦闘訓練前だしその上対戦相手だし、下手に馴れ合うわけには……」


「頭が硬い! そういうのはケースバイケースだよ! レイン君から話しかけられるなんて今まであった!? これは数少ないチャンスなんだよ?」


レインには聞かれぬよう、小声でヒソヒソと会話を続けるウルとミレット。呼び止められたからその場に留まっているが、何やら白熱しているようだし、本当に出直した方がよさそうだ。


「じゃあ俺は……」


「「ちょっと待って!」」


今度は二人に呼び止められてしまうレイン。人違いの件であまり関わりたくないのを押し切って用件を済ませようと思ったのだが、やはり間違いな気がしてきた。


「ゴメンゴメン、ウルちゃんがおたんこなすで。ウルちゃんにお話があったんだよね?」


「おたんこなすって……」


ウルが心外そうにミレットを睨んでいるが、二人の中で話はまとまったようだ。結論を推察するに、出直す必要はないらしい。


「あっゴメン、私は外した方がいいかな?」


「いや大丈夫、一言言いに来ただけだし」


「一言?」


不思議そうにレインを見つめる二人。どうやら本題に入れそうなので、手早く済ませて退散することにする。


「さっきはありがとう、庇ってくれて助かったよ」


思いがけない言葉だったのか、ウルとミレットの表情が固まった。


レインはウルに、先ほどのグレイの猛攻を防いでくれたお礼を言いにきていたのであった。


ウルが間に入ってくれていなかったら、グレイの言葉に皆の頭が洗脳されていたかもしれない。洗脳とまではいかなくても、無意識のうちにレインと距離を置くようになっていたかもしれない。


そういうわけで、レインはウルに対して感謝の気持ちを伝えたかったのである。


「そ、そ、そんなことわざわざ! わざわざ言う必要ないし! あたしが勝手に言っただけで、そもそもあたしのためぃたっ!」


いつの間にやら頬を真っ赤に染めたウルが強い口調でレインへ返答するが、全てを言い切る前にミレットに頭をチョップされていた。


「ほっ、はひふるのほ!?」


ミレットに軽く頬を掴まれ喋りづらそうにするウル。その様子を見て、ミレットは盛大に溜め息をついた。


「ゴメンねレイン君。ウルちゃんってばホント思考が子どものままで、身体ばっかり立派になっちゃってさ」


「そ、そうか」


何とも返答に困る愚痴だったので、レインは適当に相づちを打つことにした。目的は遂行したのでザストたちのもとへ戻りたいところだが、まだ帰してはくれないようだ。


「それにしても律儀だね、面と向かってお礼を言いに来るなんて」


「律儀か、礼儀の範疇だと思うんだけど」


「そうは思っても行動に移せないのが人間だからね」


「ちょっと! 二人で盛り上がらないでよ、私に用があったんでしょ?」


「えっ、もう終わったけど?」


「ぐ、ぐぬぬ……!」


「ぷっ……ふふ……!」


率直に返したつもりのレインだったが、ウルは唸るような声を上げ、ミレット明らかに笑いを堪えていた。


一体全体、この状況はいつまで続くのだろうか。


「お礼って言うなら、あたしの質問に一つ答えなさい!」


何かが吹っ切れたのか、顔を真っ赤にしてレインを指差すウル。お礼をするようなことをしたレインは、お礼の相手であるウルの質問に返答しなくてはいけないらしい。


「なんでグレイの言われるがまま黙ってたのよ、あんな妄言ガツンと言い返すべきでしょ!」


レインがウルにお礼を言うきっかけとなったグレイの策略。レインを悪人と見立てた物言いをするグレイに対してだんまりを決め込んでいたことが、ウルは納得がいかなかったようだ。


「当事者が言っても意味がないだろ、あの場では。どう反論しても一度生まれた疑念なんてものは晴れやしない、それこそ第三者が否定してくれない限りはな」


「理屈はそうかもしれないけど!」


「そもそも直接攻撃を想定していたのに皆に共有していなかった俺にも責任はある、グレイがそこを突いてくるのも当然といえば当然だ」


それに、と言葉を紡ぎかけて、レインは話すのを中断した。


現状、ルールを堂々と破ったギルティアが悪いという流れが出来上がっているが、レインはまったくそう思っていない。


何故ならギルティアは、模擬戦の時のように勝敗に絡む反則をしているわけではないからである。あくまで減点行動を行っただけで、禁止行動を行ったわけではない。


レインからすれば、訓練だからとギルティアの直接攻撃を少しも警戒していなかったBクラスにも問題があると思っている。あれが戦場だとしたら、目の前の敵のセカンドスクエアを警戒しないなんてことがあり得ただろうか。


しかしながらこれは訓練、そういった反論をすれば非難を受けるのは自分。それが分かっているからレインも敢えて言葉にはしなかった。


同じ目線で会話が出来ないのであれば、共感を得ることなど不可能なのだから。


「質問も終わったみたいだし、今度こそ行くよ」


「はいはーい。戦闘訓練、お互い頑張ろうね」


「あたしたちは負けないから! 容赦なくぶっ倒してあげるから!」


「ほどほどに頼むよ」


和やかに会話にしけ込んでしまっていたが、最後には向こうも気持ちを切り替えたようだ。


レインはさらりと受け流して、ザストたちのいる方へ向かっていく。


フィールドの方へ目を向けると、バニストラップを設置し始めるスタッフの姿が見えた。


ようやくプレストラップの設置場所がうまくまとまったのであろう。


まもなく、3対2で行われる異例の2回戦が開始されようとしていた。


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