28.5話 容赦ない企み
「なあレイン」
ローリエからの許可をもらい、順にバニスをプレストラップに吸収させていると、先に作業を終えたザストが声をかけてきた。
「どうした?」
「いや、ローリエ先生があっさり俺たちの実験を了承してくれたけどさ、ダメって言われたらどうするつもりだったのかなと思って」
「ああそれか、ちなみにザストだったらどうする?」
いつものように、レインは自分で答える前にザストに訊いた。
「うーん、今この瞬間こっそり試すとかかな? 他の2チームがいる間ならローリエ先生が気付かない間にできるかもしれないし」
「確かにできなくはないけど、それだと他のチームにもバレるリスクがあるな」
「だよな、同じBクラスとはいえ知られたくないものは知られたくないし」
「レインさんは何か思い付いたんですか?」
作業を進めながら、アリシエールがレインへと話を振る。
「そうだな、要はローリエ先生に見られても問題がない状況を作り出せればいいわけだ」
「それが思い付かないから苦労してるんだろうが」
「なくはないよ、効果があるかは別として」
レインの言葉を聞いたザストとアリシエールが、互いに顔を見合わせて笑う。
「……何?」
「いやいや、我らがレイン君には相変わらず隙がないと思っただけ」
「レインさん、いろいろ考えててすごいです」
「効果があるかは別としてって最初に言ったと思うんだけど」
「分かってるって、いつもの謙遜だろ? で、どうするつもりだったんだ?」
全幅の信頼を置く二人に呆れそうになったが、レインは諦めて二人に説明した。
「2チームがこの部屋から出た後に、リエリィー先生を呼んできて、二人に実験を見てもらうようにする」
そう言うと、ザストもアリシエールも分かりやすく口を開いたまま固まった。
「……どうしてそれで解決するんだ、むしろ見ている人間を増やしてるじゃねえか」
「リエリィー先生にはこの後、ずっとローリエ先生に張り付いてもらう。俺たちの作戦をAクラスにバラされないように」
そこまで説明して、二人はようやく納得してくれたようだ。
「成る程、それならうまく行きそうな気がするけど、別にリエリィー先生を部屋に招く必要はないんじゃないか? Aクラスにこっちの作戦がバレないよう注意してもらえばいいだけだし」
「いや、それだと暗喩表現をリエリィー先生が理解出来なくなる」
「暗喩表現?」
「例えば、ザストがフィアを使えることをローリエ先生が知っていて、Aクラスに伝えようとしたとする。この時、『今日のザストは熱くて調子が良さそうだ』と暗にフィアを表現した場合、Aクラスがそれを理解出来ても、ザストがフィアを使えることを知らないリエリィー先生では助言を気付けないんだ」
「つまり、リエリィー先生にも私たちの作戦を理解してもらわなければ、ローリエ先生に張り付いていても意味がないってことですね?」
「まあこれはローリエ先生が俺たちの作戦をバラす前提の話だから、正直言えば失礼極まりないことなんだけどさ」
「でもそれくらい警戒してていいと思う、俺だってこの作戦が上手くいけば勝てるって手応えは感じてるんだからよ」
「ですね、ここまで頑張ってきたのに、作戦がバレて負けるなんて私は嫌です」
二人の戦闘訓練にかける思いを聞いて、レインも甘くなりかけていた思考を切り替える。何があるか分からない状況だからこそ、全てを疑ってかかるくらいではないと敗北は一瞬で迫ってくるのだから。
とはいったものの、ここで緊張が先行して力が発揮できないのでは意味がない。レインは二人がリラックスできるようにこのネタバレ防止作戦の裏話をする。
「実はこの作戦、そこまで深く考えてたわけじゃないんだ」
「……というと?」
「ローリエ先生、リエリィー先生のことをよく思っていないようだから、ずっと張り付くだなんて言われたらげんなりすると思ったんだ」
「「…………」」
快く思っていない人が近くにいる状況を想像したのか、ザストとアリシエールの表情が同時に強張った。
「そんな状況が続くくらいなら俺たちに時間をくれるかなって、まあそんなこと言わなくてもなんとかなったわけだけど」
「……レイン、お前容赦ないな」
笑い話に持って行くつもりが、ザストは何故だか冷や汗を搔いていた。
「えっ、何かおかしかった?」
「いや、うん、あれだ。お前を敵に回しちゃダメだって思っただけだ」
「俺たちはチームだよ?」
「そうなんだけどね!? だけどだけどね!?」
意味の分からない呪文を唱えるザストに、ついて行けなくなったレイン。
レインの笑い話(?)は、二人にさらなる緊張を生み出して幕を閉じるのであった。