27話 レインの懸念
「さて、さっきのレインの発言をどう見るか」
対戦の順番を決めるために集まったAクラスだが、グレイは開口一番にそう切り出した。
「本人の弁に添うなら個別でやり取りを行う予定がローリエ教諭に阻まれた、といった形になるがね」
楽しそうに状況を語るグレイとは別に、退屈そうに息を吐くイリーナ。
「どっちでもいいよ、そういう小賢しい真似は上からねじ伏せればいいんだし」
「そうはいくか。あいつは、そんなことはあり得ないってことを何食わぬ顔でやってくる奴なんだから」
意外にも、イリーナに反論したのはジワードだった。レインとの模擬戦を経験しているからこそ、レインに関する事柄は一切気が抜けないのであろう。
「なら、先生にああ言わせといて初期位置を重ねちゃうとか?」
「それくらいはやってきそうだが、ローリエ先生が禁止にしている以上ないだろう。チーム戦である以上、あまり勝手な真似はできないだろうし」
「チームと言えば、レインが話している間、ザストもアリシエールも一切表情に変化がなかったね」
グレイの発言に、話をしていたウルとジワードの表情が険しくなる。
「……よくあの状況でそこに目がいくな」
「レインから情報を得ようとしたって無駄だからね。レインよりよっぽど分かりやすい二人から何か得られないかと思ったが、あそこまで変化がないとこっちの動揺を誘うだけの質問とも考えられるね」
「元々やるつもりはなかったけど、Aクラスを攪乱させるためにってこと?」
「成る程、それなら他の連中が動揺していないのも分かる。あいつらの作戦に組み込まれているとしたら、禁止にされて驚かないわけがねえからな」
「まあ、レインが事前に表情を変えないよう二人に促していた可能性もあるがね」
「……そんなこと言ったらキリがねえな」
区切りよく話を終えたタイミングで、ギルティアが両手を二回弾いた。
「考えてもしょうがない、この状況こそが彼の狙いの可能性もある。ぼくとしては、こちらの武器を事前に奪ったくらいでこの話は切り上げたいところだが」
「……そっか、レイン君たちが攻撃することばっかり考えてたけど、私たちが今みたいな攻撃をする可能性があったんだよね」
「そう、彼の狙いがAクラスの攻撃潰しならローリエ先生が禁止にした時点でそれは達成されている。これ以上考えるのは徒労に終わる可能性もある、一旦話は終えよう」
「だな、あいつらの作戦に惑わされて力を発揮できないなんて馬鹿げてるし」
ジワードの言葉を締めに、Aクラスは再び仕切り直した。
「――――さて、改めて順番を決めようか」
―*―
「とまあこうして集まってもらったわけだけど」
そう言って、自分を除く8人のクラスメートを順に見回していくテータ。
「私見だけど、先か後かで得られるメリットは考え方で違うと思う。後にすれば実際の戦闘訓練を見られるんだから自分たちの順番で戦うイメージが沸きやすくなるけど、それはAクラスだって同じだからね。現状で作戦を確立し戦うイメージできているのなら、最初に戦う方がメリットは大きいと思う。Aクラスだって探り探りになるだろうからね」
説明を聞きながら、概ねテータの言う通りだとレインは思った。
Aクラスの生徒といえど同じ学年、実践経験などないに等しいはず。それなら互いに要領が分からないまま最初に戦うというのは一つの作戦とも言える。
特にレインたちの場合、大方の作戦は既に決めてしまっているため、テータの意見に倣うなら最初に戦うのが得策だろう。
だが、レインの懸念がその考え方を了承しなかった。
要領が分からないということは、よく言えば好き放題試行できることへ繋がる。そしてそれが後の戦闘訓練の指標になる。
もしAクラスにレインの懸念を実行する者がいた場合、それを上手く対応できるか分からない。レインが対応できたとしても、ザストとアリシエールが対応できるとは限らない。
そしてこの懸念は、皆で共有することができない。あまりに型破りな策のため、相手が行わなかった場合、Bクラスの皆に余計な神経を使わせてしまうことになる。
相手はAクラス、正攻法で圧倒しに来ると思いたいが、イマイチ踏み切れないのがレインの弱さだった。
「どうする? テータ君はああ言ってるみたいだけど」
ザストに声をかけられ、一旦我に返るレイン。気付けば、アリシエールの視線もレインに注がれていた。
「俺が決めていいのか?」
「何もかもおんぶに抱っこで悪いけどさ。俺が何も考えずに選ぶより、レインに考えて選んでほしいからさ」
ザストの言葉に同調するように首をしきりに上下させるアリシエール。こうも期待されては、レインなりに応えるしか方法はない。
「ちなみにザストの意見は?」
「1番目! 作戦も決まってるし俺たちが勝てばBクラスにいい流れを持ってこれるだろ?」
ザストらしい、いい答えだった。先陣を切り、他の2チームへ繋ぐリーダーとしての回答。
だからこそ、レインは自信を持って自分の意見を伝えることができるのであった。
―*―
「よし、それでは両クラスの対戦順番が出揃ったので、発表していきたいと思う」
ギルティアとテータから各クラスの対戦順番を聞いたローリエが、生徒を集合させて発表を始める。
「第一戦は、Aクラスロストロスチーム対Bクラスノスロイドチーム」
「「はい!」」
示し合わせたように返事を揃える両者。
戦闘訓練の指標ができる第一戦は、どちらもクラス1位のチームが出ることとなったようだ。
「続いて第二戦、Aクラスミラエルチーム対Bクラスコアルディチーム」
そして二戦目、AクラスからはかつてBクラスであり、確かな自信と実力を以てAクラスに上がったグレイのチームが出場するとのこと。
そうなれば必然的に、最後の対戦カードは決定する。
「そして最終戦、Aクラスドルファリエチーム対Bクラスカスティールチームだ」
レインたちの相手、それは刀を常に帯刀しているAクラス2位のイリーナのチーム。
今回のルールではプレストラップによる攻撃が前提のため、本来の実力を発揮できないであろう彼女を選べたのはツイていたとレインは考えた。
――――だが、その考えは一気に頭の奥へと消え去ってしまう。
「ありゃりゃ、カスティールって言ったら二人がケーカイしてるチームじゃん、大丈夫?」
「あはは、すごい偶然。なんとなく当たるような気はしてたけどね」
「……」
イリーナが声をかけたのは、Aクラスでコールコードを交換したことのあるウル・コトロスとミレット・メドラエル。二卿三旗に属する二人の成績は、もはや言うまでもない。
そして二人の視線は、ゆっくりとレインに向けて注がれた。
「……こりゃ大仕事だ」
レインたちの対戦相手、単純に成績だけで見るならば、2位と4位と5位という、最も凶悪な組み合わせとなっていた。