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弱くてニューライフ~逆転のサードスクエア~  作者: 梨本 和広
2章 七貴舞踊会のフィナーレ
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24話 鍛錬開始

レインが目を覚ますと、隣のベッドには既にマリンの姿はなかった。布団もシーツも全て整えられており、昨日人が寝ていたとは思えない状況である。


時刻は朝の5時、少し早い気がしないでもないが、マリンは朝食の準備に精を出しているのであろう。リゲルより先に起きて段取りをするのであれば、丁度いい時間だと思われる。


レインは一度大きく身体を伸ばしてから、自室のシャワーを浴びることにした。


今日明日にかけて、戦闘訓練に向けて仕上げていかなくてはならない。戦闘スタイルは確立されているが、綱渡りの戦術であることは否めない。


相手は誰であろうと強敵、少しでも油断すればあっと言う間にやられてしまうだろう。


残る期間で綱を太く揺れ動かないようにすべく、レインたちの特訓が始まる。



―*―



朝食を終え、屋敷の前に集まるレインたち。学院生三人だけでなく、リゲルとマリンもその場に立ち会っていた。


「レイン、お二人はいる必要があるのか?」


「もちろん、二人にも手伝ってもらうつもりだから」


そう言うと、ザストたちに向けて微笑みかけるリゲルとマリン。その笑顔がなんとなく怖く感じたのはザストの気のせいだろうか。


「まずは今回の戦闘訓練を行う場所のおさらいだ。正直現物を見られてないから確証は得られないが、ザストの話をそのまま反映すると……」


そう言いながら、レインはザストとアリシエールに見えるよう床に大きな正方形を描いた。


それを縦横三分割になるよう線を引き、小さな九つの正方形ができる。その正方形に左上から順に1から9の数字を振り分けた。


そして最後に、最初に描いた大きな正方形の中にできた交点に正方形を描き、それら4つの正方形の中に0と記入する。


「上から見ればこういう空間になるはずだ。0と書かれた正方形は高さのある柱が来て、目隠しの役割とプレストラップを設置する役割があるはず。それぞれ数字が振り分けられたスペースは、ルール上30秒以上同じ場所には居てはならない。ここまでは大丈夫か?」


「ああ、俺の聞いてる通りだ」


「私も大丈夫です」


「よし、なら次だ」


二人の返答を聞いた後、レインは0と書かれた正方形の辺にそれぞれ2つずつ点を打った。1つの柱に8ヶ所、計32ヶ所に点が打たれる。


「で、これがプレストラップを設置するであろう位置だ。細かくは現地で話すとのことらしいが、大枠は外れてないだろう。多少シビアにするなら、一辺に3ヶ所貼ったり、柱だけでなく外枠にもプレストラップを貼ったりするだろうが」


「でも使用できるプレストラップって敵味方合わせて12枚だろ、最低32ヶ所に貼るとして、20ヶ所がダミーってことか?」


「そういうことだ。自分たちのを除けば3倍以上がダミーだが、本物の可能性を捨てきれない以上目の前を通るときは慎重にならざるを得ないだろうな」


「相手から距離を取るにせよ、右手の動きに注意ってことですね」


一つずつ物事を整理しながら、各々の役割を確認していくレインたち。戦闘訓練の場所のおさらいはこれで三度目になるが、実践を想定するなら一日一回行っても足りないとレインは考えている。


セカンドスクエアとサードスクエアを扱う訓練なら誰でもできるが、それを実践に活かせるかは別問題。少しでも勝率を上げるためには、あらゆる状況を想定しなくてはいけない。


「そうだザスト、先生からアレ借りられた?」


「借りられたといえば借りられたけど……」


レインの質問に渋りながらも、取り出してレインとアリシエールに見せるザスト。


円陣が描かれた白い紙、普通の紙よりも厚みのあるそれは、今回の戦闘訓練の主役。


「本物ではないんだな」


「さすがに借りることはできなかった、これでイメージしろって」


「まあ国で開発途中のものを一貴族には渡せないわな」


プレストラップ――――――のような紙を見ながら、話し合いを進めていく三人。実際に使用感を試すことはできないが、これだけでも充分イメージを膨らませることはできる。


「これが最低32ヶ所貼られているわけですね」


「うん。敢えてプレッシャーをかけるけど、アリシエールがこの役割を果たせるかどうかで勝敗が左右すると言っても過言じゃない。今日を含めて後二日、全力で()()()欲しい」


「はい、頑張ります!」


「って言っても俺がいないと鍛錬できないんだった、先にザストだ」


「おっす! 俺は何をすればいいんだ?」


アリシエールの鍛錬はレインが同行しなくてはいけないため、先にザストへ指示をする。


「ザストはしばらく、リゲルと組手をしてもらう」


「……組手?」


あまりに予想外だったのか、あからさまに首を傾げるザスト。


「組手と言っても、リゲルにはランダムに手足を出してもらうつもりだけど」


「いや、そういう意味じゃなくて、どうして組み手?」


「相手に接近された時の対処をできるようにだ。ザストにはどんな風に攻められても躱して距離を取れるようになってもらう」


「成る程、そっちの対策か。セカンドスクエアでの攻守対策はいいのか?」


「もちろんやるよ、同時並行で。リゲルが数分置きに右か左かを指示するから、その方向に向けてすぐにセカンドスクエアを展開する体勢を取ってほしい」


「プレストラップ対策だな、しかも体勢を取るだけで発動しなくていいなんて身体に優しい訓練だぜ」


「朝からバニスを撃って疲弊してもらっても困るからね、()()()()()()()()()


「お気遣い感謝するよ」


「じゃあリゲル、そっちは任せるよ」


「承知しました。ザストさま、多少手荒にいたしますが、ご容赦いただければと思います」


「それは大丈夫ですけど、執事さんってこんなに何でもできるもんだっけ?」


ザストとリゲルは、少し離れたところで組み手を開始する。ザストには、多少体勢が崩れようとも、狙った方向にセカンドスクエアを放てるようにしてもらう必要がある。


攻撃ではなく、守備のために。


しばらくはリゲルに任せて、レインも自分の鍛錬をアリシエールと共に開始する。


レインは今回のキーバニスであるアニマを発動させると、プリーバードを高く浮遊させた状態で歩行を始める。


レインの鍛錬は、アニマを消滅させないよう継続的にセカンドスクエアを展開することである。


フィアやウィグといった放出型のバニスとは異なり、召喚型のバニスは1分以内に再度アニマを発動させることで、円陣の媒介なしにそのままアニマを1分間継続することができる。


しかしながら、アニマの継続はアニマの残時間が長ければ長いほど使用者への疲労が蓄積してしまうというリスクがある。


つまり、アニマを50秒使用してからアニマを継続する場合と、アニマを30秒使用してからアニマを継続する場合では、後者の方が疲労が溜まってしまうのである。


よってレインは、早くとも50秒を超えてからアニマを継続し、自身の疲労を抑えたいと考えている。余計な疲労によって戦闘訓練で後手に回るようなことがあれば目も当てられない。


だが、相手の手元、左右のプレストラップ、相手の接近を警戒した上でプリーバードを浮遊させたまま1分を数えるというのはイメージしてみただけでも難易度が高く、レインとしても鍛錬では完璧に成功させることを目標としている。


時に走りながら、周りに目を配りながら、タイミングを見てアニマを継続する。


泣き言は言っていられない。鍛錬しているのは何も自分だけではない。


チームに貢献できるよう、レインはただ同じ作業を、アニマを続けられるまでずっと繰り返し行うのであった。


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